韓国のソウル警察庁は6日、脱北者団体「自由北韓運動連合」の朴相学(パク・サンハク)代表の事務所などを南北関係発展法容疑で家宅捜索した。

同団体は先月25日から29日の間に2回に分けて、北朝鮮金正恩体制を批判するビラ50万枚、小冊子500冊、1ドル紙幣5000枚を10個の大きな風船に入れ、非武装地帯(DMZ)付近から北朝鮮に向けて飛ばしたことを明らかにしている。

韓国の南北関係発展法は昨年、ビラ散布に反発した北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破したことなどを受けて改正された。3月から施行された改正法は、軍事境界線一帯での対北ビラ散布や拡声器放送などの行為に対し3年以下の懲役または3000万ウォン(約290万円)以下の罰金を科すことを盛り込んでいる。

同団体のビラ散布を巡っては、「北朝鮮からの攻撃を誘発する」と憂慮する人々からの批判が確かにあるが、最近は風向きが変わっている。改正法に対して韓国国内はもちろん、米英からも「表現の自由の侵害だ」との指摘が出ているためだ。

今回のビラ散布に対して、朝鮮の金正恩総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会副部長は2日に発表した談話で、「相応の行動を検討」するとして報復を示唆している。ただ、北朝鮮の現場レベルでは、ビラ回収のため大混乱が起きているようだ。

デイリーNKの内部情報筋によると、当局は先月26日から韓国に近い黄海北道(ファンヘブクト)の平山(ピョンサン)、谷山(コクサン)、新渓(シンゲ)、黄海南道(ファンヘナムド)の白川(ペチョン)、甕津(オンジン)、クァイルの各郡、27日からは平安南道(ピョンアンナムド)の一部地域に対して、10日間の封鎖令(ロックダウン)を発した。

北朝鮮では昨年来、新型コロナウイルスの感染を防ぐため繰り返し都市封鎖令が出されているが、今回の封鎖令に関して、当局は住民に対してその理由を説明していないとのことだ。というのも今回の措置は、ビラが住民の目に触れる前に回収するためのものだからだ。

韓国からビラを飛ばしてもさほど遠くまでは飛ばず、逆流して韓国側に落ちるものも多いと言われている。団体が風船を飛ばした韓国・金浦から比較的近い平山や白川ならともかく、140キロ以上離れているクァイル郡や平安南道まで届いているかはわからない。

ちなみに昨年6月には、韓国から300キロ以上離れた中国との国境に接する両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)で、ビラが発見される一件があった。ただこれも、韓国から飛ばされたものなのか、中国から飛ばされたものかは定かでない。逆に、北朝鮮が飛ばしたビラが、60キロ離れた韓国の水原(スウォン)で発見されたこともあった。

いずれにせよ、封鎖令が出された地域では現地の保衛部(秘密警察)と安全部(警察署)が昼夜を分かたず、ビラの捜索、回収に動員されているとのことだ。かつて、この手の作業に当たるのは保衛部とその情報員(スパイ)に限られていたが、今回は安全員(警察官)も加わっているという点で異例の対応だ。

金正恩氏を批判するビラが、北朝鮮国民の目に触れると、その権威に傷がつきかねず、その状態を放置したとなれば、責任を問われるのは保衛部、安全部とその上部機関だ。累が及ぶことを恐れた彼らの過剰反応との見方も可能だが、金与正氏が談話で激しく非難した点を考えると、国民の思想の乱れを極度に恐れた政府の動揺ぶりの反映とも言えよう。

今回の封鎖令が、自宅からの外出禁止を伴うものか、あるいは郡の境界線を越えるのを禁止するだけのものなのか詳細は不明だが、ただでさえコロナ鎖国の影響でギリギリの生活を強いられている地域住民には、つらい10日間になりそうだ。

2011年2月に韓国のNGOが行った北朝鮮向けのビラを入れた風船を飛ばす行事