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7万8000年前の人類最古の墓を発見、中には子供の遺骨

credit:Mtoto: The Sleeping Child

 アフリカは、わたしたちホモサピエンスが生まれた場所であり、人類発祥の地とよく言われる。ここには、顔料を使ったり、貝殻に穴をあけて装飾品を作ったりといった初期の象徴的な行為が発展した証拠がある。

 だが、埋葬や死者を悼むような複雑な社会的行為の発達は、これまでユーラシアからもたらされたものと考えられていた。

 しかし、ケニアのパンガヤサイディという洞窟で、およそ7万8000年前の子どもの遺体が埋葬されているのが見つかった。これこそが人類史上最古の墓である可能性が高いという。

【国際研究グループによるパンガヤサイディ洞窟の発掘調査】

 ケニアドイツスペインフランスオーストラリアカナダ南アフリカ、英国、アメリカの考古学者による国際研究グループが『Nature』誌に発表した研究結果からは、中石器時代の人々が死者とどのように向き合っていたのかなど、人類の文化の発展を知る上で貴重な事実が明らかになった。

 パンガヤサイディ洞窟は、ケニアの海岸からおよそ15キロほどのところにある。2010年、研究チームが最初にここを訪ねたのは、東アフリカインド洋貿易の起源を探る考古学プロジェクトの一環としてだった。

 ケニアの国立博物館の職員たちと研究グループが一緒に洞窟に入ったとき、ここが特別な場所であることがわかった。石灰岩の壁が20~30メートルもの高さにそびえたち、森の植物が繁殖し、人間や動物がシェルターにするのにちょうどいい涼しい微気候になっていた。

 この洞窟は、今日、この地域に住んでいるミジケンダ族の人々にとっても神聖な場所になっている。

 地元社会の許可を得て、調査を進め、10年に及ぶ洞窟での発掘プロセスに着手した。すぐに、人類の進化を理解する上で、これまで考えていた以上に、ここが非常に重要な場所であることに気づいた。

 発掘を進めると、大量の石器や動物の骨、貝のビーズ、黄土の破片を含む深い居住層が現われた。これにより、7万8000年以上前の初期の人類の文化的、技術的、象徴的な活動が明らかになってきた。

 しかし、もっとも興奮したのは、2013年の第3次発掘で、洞窟の地面の下3メートルほどのところから子供の墓が出てきたことだった。


Mtoto: The Sleeping Child

7万8000年前の3歳くらいの子供の墓を発見

 その2歳半から3歳ほどの子供は体の右側を下にして、足を折って胸に抱えた屈曲位で、その体は動物の皮のような特別な布で丁寧にくるまれていた。

 頭は、長い眠りのために整えられた枕のようなもので支えられていたようだが、それ自体は朽ちてなくなっていた。

 遺体は土がかけられ埋められ、それから何万年もの眠りに入った。その後時の流れとともに、ゆっくりと地中3メートルの土の下に埋もれていったと思われる。

 研究チームは、この子供にケニアスワヒリ語で「子供」という意味の”Mtoto”と名づけた。

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credit:Fernando Fueyo , Author provided

 遺体はとても脆く崩れやすかったため、傷つけないように埋葬されている周辺の堆積物ごと漆喰で固めて取り出した。

 その塊をまずはナイロビの国立博物館に送り、それから、スペインにある国立人類進化研究センター(CENIEH)のヒト科古生物学の専門家、マリア・マルティノン=トーレスのもとへ持ち込んだ。

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現場でのMtotoの遺骨(左)と発見時のもともとの位置(右)の仮想復元図(image credit:Jorge Gonzalez / Elena Santos

 マルティノン=トーレスのチームは、研究室で数ヶ月かけて漆喰から遺体を掘り出し記録した。

 そして、Mtotoが現代のわたしたち、ホモサピエンスであるだけでなく、まだほんの子供であることを明らかにした。

 Mtotoの保存状態は、驚くほど良かった。頭蓋骨と顎を含む顔の骨は、きちんとつながった状態で残っていて、歯の形状から、亡くなったときこの子はまだわずか2歳半から3歳くらいの幼児だったと断定することができた。

 骨と周辺の土を顕微鏡分析したところ、遺体は埋葬後すぐに土をかけられ、腐敗は穴の中で始まったことを確認できた。つまり、Mtotoは死後、それほどたたないうちに人の手で意図的に埋葬されたのだ。

 さらに、体の右側を下にして、膝を抱えて横たわっていた体位から、これも屍衣にしっかりくるまれ、きちんと準備された埋葬だったことを示している。

 頭の位置と、穴の中でずれていた様子から、枕のようなものが使われていたことがわかり、それはこの集団がなんらかの葬儀のようなことを行っていた可能性がうかがえる。

 次の大きな疑問は、埋葬の年代だった。放射性炭素年代測定は過去4万年ほどの有機残留物にしか適用できないが、この骨はそれよりもさらに古いものだった。

 そこで、ルミネッセンス年代測定という方法を使った。これは堆積物中の石英粒が最後に光にさらされた時期(つまり、埋められた時期)を測定するもの。その結果、Mtotoは7万8000年前に埋葬されたことが特定できた。これはアフリカでの人の埋葬としては最古のものだ。

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image credit:Jorge Gonzalez / Elena Santos

人類の文化的発展の意味

 パンガヤサイディのこの埋葬は、アフリカの初期の人類が死者をどのように扱っていたのかを知るための大きな突破口となり、こうした行為を、ほかの地域で文化が発達した状況についてこれまでわかっていることと並べて考えることができるようになった。

 子供の埋葬は、ユーラシア大陸では珍しいことではないが、7万8000年前のアフリカで、単に人の手による意図的な埋葬というだけでなく、幼い子供が丁寧に埋葬されていたはっきりした証拠が得られたことになる。

 幼な子を特別に扱うこのような行為は、複雑な社会的行動と結びついた死を悼む細やかな感情の表れといえよう。

 興味深いのは、この墓にはアフリカやユーラシアのほかの地域で見つかっている初期の埋葬で見られるような、副葬品や個人的な装飾品はなかったことだ。

 実際、パンガヤサイディでもっとも古い象徴的装飾品であるイモガイビーズは、Mtotoの埋葬から1万年たたないと出てこない。

 だが、埋葬に関連しているアフリカマイマイの貝殻の破片には、先端の尖った道具や工具による細工の跡が残っている。この証拠を象徴的行為だと解釈することはできないとはいえ、人間がなんらかの形で手を加えたことを示しているのは確かだ。

 現代や古い時代のホモサピエンスを含む複数のヒト科生物とつながる、中石器時代の石器とも関連があるため、こうした埋葬は意義深い。パンガヤサイディで、現代のホモサピエンスがこうした石器を作っていたことは明らかで、初期の技術や道具の使用の特徴がはっきりした。

 また、わたしたち人間の解剖学的進化についての新たな情報を引き出すこともできる。Mtotoの歯とネアンデルタール人の歯や、比較的最近のホモサピエンスの化石の歯とを比較してみると、明らかに現代人の歯ではあるが、原始的な特徴ももっていることがわかった。

 これは、最近の考古学、遺伝学研究が示しているように、わたしたち人類はアフリカの一地域のたったひとつの集団から進化したのではないことを裏づける。

 むしろ、現代人はアフリカのさまざまな地域に住んでいて、互いに見た目も違い、異なる進化の道筋をたどったとみるほうが正しのかもしれない。

References:A cave site in Kenya’s forests reveals the oldest human burial in Africa / Scientists Discover Oldest Known Human Grave in Africa | Science | Smithsonian Magazine/ written by konohazuku / edited by parumo

 
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