「まだ早い」麻生副総理は河野太郎に忠告 水面下で広がる“ポスト菅”の動きを後藤謙次氏が徹底解説 から続く

#1 「まだ早い」麻生副総理は河野太郎に忠告 水面下で広がるポスト菅の動きを徹底解説からつづく

国民に安心感や希望を与えられない菅政権の赤字は継続中

 前回の文春オンラインのインタビューで私は菅政権を赤点と採点しました。あれから、3カ月経った現在も菅政権の赤点は継続中です。

 トップリーダーに大切なのは、国民に安心感や希望を与えることです。コロナ禍において、「総理大臣がそう言うなら、しばらく我慢しようじゃないか」と共感させなければいけません。ところがそうしたメッセージは発信されず、この国はどうなってしまうのかという不安が増すばかり。この我慢がいつ終わるのか明確な基準も示されないまま、オリンピックが迫っています。

 二階俊博幹事長は、4月15日に収録されたTBSのCS番組で「とても無理だということだったら、すぱっとやめないといけない。五輪で感染を蔓延させたら、何のための五輪かわからない」と語りました。二階氏は持ち前の動物的勘から、国民の不安、懸念をそのまま口にして、五輪中止という選択肢もあり得るということをを示したわけです。

二階氏は釈明コメントに「なんでこんなものが必要なんだ」

 この発言が大きく報じられると、その日のうちに自民党は釈明コメントを出さざるを得ない状況に追い込まれました。五輪はぜひ成功させたいと強調した上で、「何が何でもオリンピックパラリンピックを開催するのか、と問われれば、それは違うという意味で申し上げた」という内容です。

 ところがあの文書は、二階氏本人ではなく、自民党の事務局が作ったものでした。二階氏は「なんでこんなものが必要なんだ」と抵抗したのですが、「党内でいろいろ反響が大きいですから」と言われて「勝手にしろ」となったそうです。二階氏はいまも、自分の発言は何も間違っていないと思っているはずです。

日米首脳会談を行った首相の2つの“裏ミッション”とは?

 二階発言があった日の夜から訪米し、バイデン大統領と日米首脳会談を行った菅首相には、2つの裏ミッションがあったと私は思います。

 ひとつは、オリンピック開催についてバイデン大統領の全面的協力を取り付けること。しかしこれは、日米首脳会談後の共同記者会見バイデン大統領が「日本の決意に対する支持」の表明にとどまりました。「とにかく頑張ってくれ」と励まされただけだったようです。

 オリンピックについては、多くの国から選手が来なければ大会は成立しない。さりながら、たくさんの選手が来日すれば、それだけ感染拡大の危険が高まります。五輪開催を強行するにしても、中止するにしても、菅政権は大きなリスクを抱え込むことになりました。開催の強行が政権にとってマイナスに働く事態は、じゅうぶん考えられます。

日本ファイザー社に足元を見られている何よりの証拠 

 首相訪米のもうひとつの裏ミッションは、供給が大きく遅れているコロナワクチンの確保だったと見ます。しかし、バイデン大統領から「協力する」という言及はなく、菅首相はワシントンからファイザー社のブーラCEOに電話をかけて、追加の供給を要請しました。帰国後、首相は国内の対象者に必要なワクチンに関して「9月までに供給されるめどが立った」と胸を張りました。

 しかし、電話なら東京からでもかけられるはずです。この点を外務省の担当者に質問してみました。すると答えは「時差がなければ体力的に楽だから」と苦しい説明でした。しかもブーラCEOは、その日ニューヨークにいたそうです。一国の総理が相手であれば、「こちらから行きます。ワシントンでお会いしましょう」と申し出るのが普通ではないでしょうか。総理大臣が自らニューヨークへ電話してワクチン供与をお願いするというのは、日本が足元を見られている何よりの証拠といえるでしょう。

ほとんど懇談や議論がない菅内閣の閣僚懇談会

 ワクチン供与のお願いのように、菅首相がいきなり前に出た結果、必ずしも良い方向に物事が進まないというのは、菅政権が発足して以来、何度も繰り返されてきたことです。

 何事にも自身が関与して、「菅一存」になってしまう。これは、首相の性格によるものだと思いますが、菅政権は、安倍政権と違って、「チーム菅」と呼ばれるような周辺ブレーン集団の姿が見えません。正式な閣議のあとに閣僚懇談会という集まりがあるのですが、ある閣僚に聞くと、安倍政権では閣僚懇談会で活発な議論があったが、菅内閣ではほとんど懇談や議論がないそうです。

分科会で出された意見と政府の結論が往々にして違う方向へ向かう

 それから、菅政治の大きな特徴として、結論だけがポンと出され、プロセスや裏付けの説明がおろそかになる点があります。福島第一原発の処理水を海に流すことや、運転開始から40年を超えた原発の再稼働も、唐突に決定された印象を与えました。

 私が最も違和感を持ったのは、新型コロナウイルス感染症対策分科会でいろいろな意見が出されても、結論が往々にして違う方向へ行くことです。4都府県で発令された3回目の緊急事態宣言についても、尾身茂会長は期間を長くすべきだと主張したのに、当初は5月11日までの17日間と決めました。しかも短期間にした根拠はよくわからないまま。結局、5月7日には宣言を延長することが決まりました。

不公平感を生んだワクチンの大規模接種センター設置

 東京と大阪に、ワクチンの大規模接種センターを設置する件も同じくプロセスや裏付けの説明がおろそかでした。5月24日から3カ月間、毎日1万人の高齢者に接種するというのですが、なぜその日程なのか。なぜ自衛隊の医官や看護官が派遣されるのか、理由は説明されていません。背景には日本医師会との関係があるとも考えられますが、首相自ら岸信夫防衛相に指示して、唐突に決まりました。

 それまで政府は、ワクチン接種はどんな町や村でも同じように進めます、と公平性を強調していたはずです。しかし、今回の接種センターは国の直轄で設置されます。接種対象者も予約方法も不明で、不公平感を生んでいます。

 会場は東京が大手町の合同庁舎で、大阪は中之島。近県から大勢の年寄りが電車に乗って都心へ移動するリスクなど、どこまで考慮されているのかと考えざるを得ません。

ワクチン情報を発信する司令塔はついに6人に

 現場の混乱ぶりは、ワクチン情報の発信する司令塔の多さにも表れています。これまでは菅首相、加藤勝信官房長官、西村康稔コロナ担当相、田村憲久厚労相、河野太郎ワクチン担当相の5人が発信をしていましたが、ワクチン接種センターの件で、岸信夫防衛相も新たに加わることとなり、ついに船頭は6人になりました。首相の一存で任命された各担当大臣がめいめいに発言するので、チームとして機能していません。

 しかしながら、内閣支持率は40%程度と高いところで安定しているのが、この政権の強みです。自民党史上初めての無派閥の総理で、党内基盤の弱い菅首相にとって、国民世論は大きな拠り所だからです。

 ただし各世論調査の個別のQ&Aを見ると、支持の理由はネガティブです。代わりの人が見当たらないことと、「コロナがここまで広がったら、ガタガタするより1人に任せるほうがマシだよね」といった諦めに近い感情が各種世論調査の回答からは読み取れます。

横浜市の接種予約で1分間に200万アクセスが意味するもの

 日本人は1年余に及ぶコロナ禍にあっても、混乱せずに我慢を続けてきました。コロナという特殊事情下において、機能不全に陥り、思考停止になっている政治が、律儀で真面目な国民性によって救われているといえます。

 それでも、静かな炎は燃え広がっていると思います。ワクチンの予約電話を何度かけても繋がらないので、老人たちが市役所や町村役場に列をなしているというニュースが最近よく流れます。あれは、政府に対する強烈な不信の表れでしょう。65歳以上の高齢者は全国に3600万人。無論、全員が有権者です。この人数が怒りを募らせれば、政治を大きく揺るがす動きになります。

 横浜市の接種予約で1分間に200万のアクセスがあり、予約が中断されたことが大きく報じられました。200万という数字は「おじいちゃんおばあちゃんのために」と、家族総出で予約に手を尽くした姿が目に浮かびます。この「世の中の人々の感情」を無視すれば、政治はとてつもなく大きなしっぺ返しをうけるでしょう。

政権の大きな分岐点は、7月末の期限を守れるかどうか

 菅首相は4月26日、前日の国政選挙3戦全敗を受けた会見で、「7月末を念頭に、高齢者に2回目のワクチン接種を終えたい」と語りました。接種を進めて支持率を上げたいという思惑があるのでしょう。7月23日から五輪が始まります。

 しかし、逆に7月末までに接種を終えることができなかったら、静かな炎はどうなるのかーー。自ら設けた7月末という期限が守れるかどうか。ここが菅政権にとって、大きな分岐点になることは間違いありません。

(取材・文 石井謙一郎)

(後藤 謙次/Webオリジナル(特集班))

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