「船の守り神」は全国的に存在しますが、「乗りもの」にまつわる神社はほかにも。今後、もっと種類が増えていく可能性もありそうです。

「鉄道神社」は駅ビル屋上にも

かつて交易の中心を担った船。その、「船の神様」とされる神社は全国に多数存在します。なかでも「こんぴらさん」の名で親しまれている金刀比羅宮香川県琴平町)は、神社のある象頭山が瀬戸内海を航行する船にとっても目印になる山であったことなどから、その信仰は古く、いまも船の絵馬が多数奉納されています。

しかし船だけではなく、近代以降に登場した「乗りもの」にまつわる神社も数多く存在しています。JR東日本東京支社(東京都北区)内やJR西日本本社(大阪市北区)の屋上には、鉄道神社が鎮座。これらはかつて殉職者の慰霊や、安全祈願のために旧国鉄本社、国鉄大阪鉄道管理局庁舎に建てられた神社が移設されたものです(いずれも非公開)。

鉄道神社は、地域の神社から分霊する形で、博多駅ビル「JR博多シティ」屋上や大分駅ビル「JR大分シティ」の屋上にもあります。また長野県南牧村の「JR鉄道最高地点」(標高1375m)付近にも、SLの動輪とレールを祀る鉄道神社が有志によって建てられています。

そしていま、新たな「鉄道神社」をつくろうとする動きもあります。茨城県ひたちなか市ひたちなか海浜鉄道・那珂湊駅付近に、同線を走っていた1962(昭和37)年製のディーゼルカー「キハ222」を“ご神体”に見立て、神社をつくるというもの。2020年12月にはディーゼルカーの修復費用を募るクラウドファンディングも、目標金額380万円を大きく上回る461万8000円を集めることに成功しており、本格的な修復に向けて動いています。

飛行機・クルマ バイクに自転車まで

東京・新橋の航空会館屋上には、航空関係の殉職者や功労者を祀る航空神社が鎮座。これは日本航空協会の前身である帝国航空協会によって建立されたもので、羽田空港の第1ターミナルにも、ここから分祀された航空神社があります。

また、これとは別に京都府八幡市には飛行神社が存在。「日本の航空機の父」ともいわれる二宮忠八(1866~1936)が1915(大正4)年、航空殉難者の霊を祀るために自邸内に建てたものです。

愛知県新城市には、その名もズバリの車神社があります。現在は日本武尊やまとたけるのみこと)を祭っていますが、明治以前は大日霊尊(おおひるめのみこと:天照大神の別名)を祭っており、由来を辿ると大日如来(だいにちにょらい)、そしてヒンズー教の太陽神である「スーリヤ」に行きつくとのこと。「スーリヤ」は7頭立ての馬車で天を駆ける神様です。

合わせて社紋には縁起が良いとされる車輪を用いていることから、車の安全祈願にふさわしい神社だとしています。

ほかにも、東京・世田谷にある世田谷八幡宮には、自動車の神様が祭られているそうです。こちらは昭和初期、旧日本陸軍自動車学校(後の陸軍機甲整備学校。現在は東京農業大学世田谷キャンパス)の敷地内にあった「自動車神社」が、太平洋戦争終結で学校が廃止になったことで、ご神体世田谷八幡宮に奉遷されたからだといいます。

飛行機・クルマ バイクに自転車まで

ひょんなことから、その道の人にとっての「聖地」になった神社も。栃木県高根沢町の安住神社は、宮司と全国オートバイ協同組合連合会会長との交流から、10年ほど前に同連合会が「バイク神社」に認定しています。ちなみにこの神社、ヘリポートを整備し、神社主催で遊覧フライトも行う(2021年5月現在は新型コロナの影響で中止中)など、ヘリ関係者やファンとの交流拡大にも取り組んでいます。

瀬戸内海の島々をつなぎ広島県愛媛県を結んでいる「瀬戸内しまなみ海道」は、サイクリングコースとしても有名ですが、この途中の因島(広島県尾道市)に位置する大山神社が「自転車神社」を名乗っています。サイクリストに境内を休憩所として開放していたところ、もともと交通安全の守り神だったこともあり、いつしか「自転車神社」と呼ばれるようになったそうです。ここでは自転車と一緒に祈祷を受けることができます。

先人の慰霊や、職務の安全祈願など、さまざまな理由から生まれた「乗りもの神社」の数々。今後は「バイク神社」「自転車神社」のように、乗りもの関係者やファンと神社が交流するなかから、新たな神社が生まれるかもしれません。

ディーゼルカー「キハ222」/JR大分シティの屋上にある鉄道神社(乗りものニュース編集部/伊藤洋平撮影)。