「取材先の家の前で、相手が帰ってくるまでひたすら待つ」「休日でも呼び出しがあれば現場に直行する」など、ブラック労働のイメージが強い新聞記者。発行部数が激減し、存亡の危機に立たされる中、若手記者は何を思っているのだろう。

若手記者3人にリアルな働き方や、上司に抱く本音を率直に語ってもらったところ、意外にも「思っていたより楽だった」との声も聞こえてきた。新聞社内でも人材確保のため、少しずつ変化が生まれつつあるのかもしれない。(ライター・国分瑠衣子、弁護士ドットコムニュース編集部)

【取材に協力してくれた記者】
Aさん 地方紙記者、入社5年以内
Bさん 通信社記者、入社5年以内
Cさん 全国紙記者、入社10年以内

●「夜討ち朝駆け」基本的にはしない

――毎日、どんなスケジュールで動いていますか。

Aさん「支局で警察署を担当しています。僕はスロースターターで、朝7時半に警戒電話(事件・事故が発生していないか警察に確認する電話のこと)をして、出社します。午前中は取材に行って原稿を書く。

昼食は絶対にとろうと決めていて、正午から1時間休憩します。午後はネタ探しをして、18時ごろ帰社。社では翌日の準備をしたり、原稿を書いたり。その後、担当する警察署に向かい、当直の警察官と雑談、家に帰るのは21時半とか22時ぐらい。比較的ゆとりがあります」

――とはいっても拘束時間は結構長いですね。

Aさん「いやいや、忙しぶっているけれど、合間合間で休憩しているので、拘束されている感じはないです。大きな事件・事故がない限り、先輩から夜回り、朝回りを命じられることもないですし。うちの会社は桃源郷みたいだと思っています。

入社前に毎日新聞の『破滅――梅川昭美の三十年』や『日航ジャンボ機墜落――朝日新聞の24時』などを読み、日々事件を追い、毎晩日付が変わるまで警察官の家の前で待っていなきゃいけない、なんてイメージがあったのですが、実際はそんなことはありませんでした」

Bさん「私の場合、通信社なので新聞社のように紙面を埋める必要はありません。大きな事件・事故や、全国ニュースになるような話題性のあるものしか書かないんです。小さな支局でそれほど大きな事件が起こるわけでもなく、ちょっとゆとり記者ですかね。

普段は朝9時に警察署に行き、それから裁判取材をしています。Aさんと同じで正午から13時は休憩時間です。午後も取材、記事を書いて、20時までには大体仕事が終わります。もちろん勤務地や担当によってはもっと忙しいところもあります」

Cさん「今はコロナ関連の取材で忙しいですね。普段なら平和な地域なので、比較的余裕はあるのかな。私の場合、体調を崩したこともあって早めに帰ります」

――働いてみて、入社前に思っていた記者のイメージと変わりましたか。

Bさん「赴任する地域や、担当によって忙しさは違いますが、思っていたより全然ゆとりがあります。担当を持ちながらも自分のやりたい取材ができます」

Cさん「私も2人と同じで、意外と時間がある印象です。

あと思い描いていた忙しさの内容が違ったということでしょうか。記者になる前は『夜討ち朝駆けして、日々事件を追う』というイメージでしたが、実際は『暇ダネ(速報性の低い記事)をいっぱい書いてくれ』と言われ、仕事がどんどん増える感じですね」

<MEMO:想像より厳しくなかったという意見が目立った。配属先にもよるものの、そもそもの労働時間が短かったり、いわゆる「アイドリング状態」が長く労働密度が低かったりするケースもあるようだ。ただし、後者についてはなまじ拘束時間が長いだけに、気の抜き方を覚えないと体調を崩しかねない>

●原稿指導はうまいが、マネジメントに難ある上司たち

――新聞社や通信社には記者が書いた原稿を直す「デスク」という役職があります。記者の上司にあたりますが、デスクとの人間関係はうまくいっていますか。

Bさん「私の職場のデスクたちはめちゃめちゃ働いてますね。取材の指揮も的確で、皆仕事ができます。

ただ、働き方のマネジメントには疎い。原稿を書くとか取材手法とかはアドバイスをくれるけれど、記者の労働時間への配慮は自分の仕事ではないと思っているフシはあります。

少数ですが、配慮がある上司もいます。急ぎの案件でなければ、休日や勤務時間外はメールを送らないとか。男性で育休をとった経験があるなど、新しい働き方を体現している上司は相談しやすいですね」

Cさん「デスクパワハラで休職する記者はいますね。休職した記者は『自分は運が悪かった』と言っています。

自分のことで言うと、デスクは体調を崩した後の私の扱いに困っている感じです。記者の仕事は楽しく、体を壊す前の私は、上司の目には若者らしい、一生懸命頑張る記者だと映っていたと思います。

際限なく仕事を振られる中で、結局、働きすぎて自滅してしまったんですけれど。。。

体調を崩した後は『とにかく早く帰れ』で、帰らせる以外に私への接し方がわからない感じです。記者の仕事は、取材し、記事を書くことが喜びなので、それが制限されている今、なかなか自分に自信を持てずにいます」

――上司が仕事を与えない選択をすることで、本人が疎外感を抱いたという話は聞いたことがあります。体調を崩す前にこうしてほしかった、ということはありますか。

Cさん「デスクを責める気はありません。 日々、業務に追われているデスクも私の変化には気付けなかったんだと思います。

仕事がたくさん振ってきて、業務をこなしていく中で周囲から『表情が暗い』と言われるようになりました。どうしようもなかったんだと思います」

Aさん「うちは午後8時ぐらいには『今日やらなければならない仕事じゃないなら、帰りなよ』とどのデスクキャップも声をかけてくれますね。他社の同期からも『なんだその会社は』と驚かれることが多い」

<MEMO:デスク陣にも働かせすぎはマズいという意識自体はあるようだ。ただし、デスクは記者あがりなので、仕事のアドバイスはできても、労務管理の手腕には欠けがち。そのため部下が体調を崩すと、一変して「休め」しか言えないことがあるようだ。

また、若手が配属される支局は記者数も少なく、一緒になったデスクパワハラ体質だと悲惨なことになりかねない。配属地域、部署、上司はまさにガチャの様相だ>

●県庁や銀行と「併願」 地方紙の危機感

――新聞記者を志望する人は今も多いのですか。若い人はやめたりしないのでしょうか。

Aさん「地方紙だと県下の『トップ企業』である銀行や県庁も受けたという人もいます。ある地方紙は、複数人が内定していたけれど、最終的に全員が別の会社に流れ、春の新入社員がゼロだったそうです。私は新聞記者を志望して入社しましたが、そういう話を聞くと危機感があります。

新人研修で『一番楽な部署はどこですか』と聞く人や『警察に取材に行け』と言われて早々にドロップアウトした人もいると聞いたこともあります」

――記者になりたい、特派員になりたいと思った時に在京の全国紙や通信社を選ぶ人は多い。東京だとメディアより待遇のよい企業がたくさんあるけれど、地方紙は新聞記者へのこだわりがある人と、そうでない人の温度差が結構あるのかもしれないですね。

Aさん「先輩たちの志望動機を聞くと、記事を書くことに憧れ、記者職にこだわって受けた人が多い。でも、自分世代になると『なんとなく面白そうだったから』という人が結構います」

――新聞社は発行部数が激減し、経営が厳しい。5年後、10年後、今の会社で働き続けますか。

Cさん「いないかもしれません。職場に感謝しているし仕事も好きですが、フリーのライターとして書く道もあるので、考えたいです」

Aさん「新聞は字数や書き方に制約があるので、自由に書ける仕事にも憧れます。でも、今の若い人で新聞を読む人が少ないからこそ、新聞で等身大のことを書いていくのもありかなと思っています」

Bさん「私は、会社に残っていると思います。新聞の発行部数減は続きますが、ニュースの需要は変わらないのでは。最近感じるのは、勉強している記者と、目の前の仕事だけしている記者は年次を重ねると大きな差が出るということ。勉強を重ね、自分の専門性を磨いていきたいです」

斜陽と言われても…新聞社で働く若手の本音「意外と楽ですよ」