食事の時に水を飲むのは、アメリカ人と蛙だけ……。フランスの格言だという。出典は定かではない。酒を飲まない人やアメリカ人に怒られそうだが、食事と酒は切っても切れない間柄であることを示す名言だ。フランス人にとっての酒とはワイン。私にとっての酒は、ビールでありウイスキーであり、日本酒であり焼酎だ。もちろんワインも。さすがに、平日の昼間から飲むわけにはいかないので、主に夕食時だが、食事は酒とともにある。しかし、この2週間、飲食店での食事で、酒が飲めない寂しさを身に染みて感じている。まるで彩のないモノクロの世界だ。

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 4都府県に発出されている緊急事態宣言下、多くの自治体が、飲食店に対し酒類の提供自粛か休業を求めている。それでも、往生際の悪い私は、外食する際には念のため、酒が飲めるか尋ねる。これまで入った店では皆、残念そうに首を横に振った。しっかりお達しを守っているわけだ。ホッピーだけならノンアルコールと、つつましい努力で客を呼ぶ店もある。酒が出せないので、休業すると張り紙をして閉めている店も少なくない。酒のないバーで、ミックスナッツだけ食べても仕方がない。酒の提供を主とする居酒屋やバーにとっては、事実上の休業要請だ。

 酒を提供する店もあるにはある。「体内もしっかりアルコール消毒」と、苦しい理屈で客を誘う店もあれば、「酒〇」「飲可」などの暗号めいた言葉で酒が飲めることをほのめかす店もある。一時問題になった「酒類持ち込みは可」とする店も。店内を見れば、いずれも客でいっぱいだ。入りたいのはやまやまだが、さすがに腰が引ける。遅くまで営業する店もなくはないが、大体の店は夜8時閉店。それ以降の繁華街は、まさに火が消えたよう。客引きも普段よりやる気がない。なおさら寂しさが募る。

 飲酒自体が禁止されているわけでもないから、おとなしく自宅で飲めばいいともいわれる。自宅ではもちろん飲んでいる。だけど、やっぱり外でも、うまい飯とともに酒が飲みたい。飲むなといわれれば、なお飲みたくなるのもまた人情だ。

 インドネシアジャカルタの、あるレストランを訪れたときのこと。酒類はメニューになかった。国民のほとんどがムスリムで宗教上の理由から酒を飲まないからだ。念のため、ビールがないか尋ねた。店員はウインクして店を出て、ほどなくニコニコしながら戻ってきた。隣の店から調達してきてくれたのだ。キンキンに冷えたビンタンビールはことのほかうまかった。コロナの影もなかった頃の話だが。

 酒類提供を規制する理由は分かる。マスクを外して酒を飲み大声で話せば、感染リスクは高そうだ。しかし、中途半端に酒類提供を規制して、一部の店に客が集中し、そこでクラスターが起きてしまっても本末転倒インドで猛威を振るう変異株は油断ならない。これまで難を逃れてきたアジア各国で感染が急速に広がっているからだ。状況が悪化すれば、さらに厳しい休業命令も覚悟しなければならない。飲食店にとってはたまったものではないだろうが、万が一やるのなら、店も従業員も安心して休める、しっかりと手厚い補償のもとに行ってほしい。酒飲みの行き場がなくならないように。(BCN・道越一郎)

インドネシアのビンタンビールは現地でも人気No.1