公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。完結編となる本作について、そして「エヴァンゲリオン」シリーズについて特技監督の山田豊徳さんにお話を伺いました。

本誌では、別の角度からのお話を掲載。Webと合わせて読むとよりお楽しみいただけます

――山田さんの「エヴァンゲリオン」との出会いをお聞かせください。

山田 大学3回生のときにTVシリーズの放送が始まったんです。僕が当時通っていたのは大阪芸大(大阪芸術大学)だったので、庵野(秀明)さん(庵野は大阪芸術大学芸術学部映像計画学科/現・映像学科)たちの逸話がいろいろ残っていたんですよ。「DAICON 3」のオープニングアニメーションとか「帰ってきたウルトラマン」のダビングのダビングのダビングぐらいのが出回っていて。「アニメが好きならこれを見ろ」と、それを見せられるわけです。ほぼ自分と同じくらいの年齢でこんなことをやっていたんだ!という驚きがあって。シンパシーを感じて、僕らの間でも自主制作アニメを作っていたんです。そうしていると仲間内で「庵野さんが新しいTVアニメを作ろうとしていて、それがどうやらロボットアニメらしいぞ」という話が流れてきて。斜に構えて「新世紀エヴァンゲリオン」を観たわけですよ。でも、ひと目見たら、すぐにのめり込んでしまって。みんなであーでもない、こーでもないと盛り上がっていました。それで、いつかアニメ業界に入ったら、TVシリーズを制作していたガイナックスの仕事をしたいと思っていたんです。

――それでアニメ業界に入られたわけですね。「天元突破グレンラガン」などの撮影監督を経て、スタジオカラーに合流したのはどんなきっかけがあったんですか?

山田 スタジオカラーに入ったのは増尾(昭一)さん('17年逝去)と仕事がしたかったということが大部分でもあったんです。庵野さん、鶴巻さんにもずっと自分の仕事ぶりを評価して頂いていて、入った以上は会社に貢献したいと思いましたし、それは「エヴァ」に貢献することかなと。

――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」には特技監督として参加されています。「シン・」でのお仕事はいかがでしたか。

山田 「エヴァ」には「:破」のときにガイナックスの撮影スタッフとして僕も参加していましたが、本格的に関わったのは今回が初めてでした。大学生のときの気持ちだけではなく、僕もキャリアが20年くらいになるので、それを踏まえた仕事ができたのかなと思います。

――「シン・」に関わっていて「やってよかった」と思うカットやシーンはありますか?

山田 第13号機と初号機が東宝のセット内で戦っているシーンですね。コロナ禍でなかなか状況が厳しい時期でしたが、最後の追い込みの時期だったので撮影・特技スタッフは全員出社してくれて、最後のブラッシュアップをしていきました。特技としては瓦礫やA.T.フィールド、揺れている電柱とかでミニチュア感を出す表現を担当しています。この一連のカットは撮影も特技班で引き受けていて、庵野さんと撮出しをカットごとに細かくやりとりをしてつくっていきました。ギリギリになって「セットの中の看板を変えたい」というリテイクにも、デジタル部が対応してくれて……ヴィレじゃないですけど、これはもう総力戦だ!という感じでした。最後の最後の大きな仕事が、あの一連になります。

――あの一連のパートは山田撮影監督のシーンになるんですね。学生のころから「エヴァ」をお好きだった山田さんにとって、「シン・」の物語はどんな印象がありましたか。

山田 26年も続いている作品なので、見ている人がそれぞれ「エヴァ」に色んな想いを持ってると思いますね。僕もいまや一児の父親ですからね。碇シンジよりも、碇ゲンドウのほうが近い立場だったりするわけで(笑)。ただ、現場にいて感じたのは、この作品は庵野さんのやりたいことだけでできている作品ではなくて、今の人に伝える方法はどうすればいいか、どうすれば多くの人に喜んでもらえるのかと、皆ですごく考えてつくられているんです。「楽しんでもらいたい」「喜ばせたい」という思いから生まれている作品で、それはそれぞれのキャラクターたちやストーリー、映像に反映しているなと感じていました。

――この作品の最後には「終劇」という文字が出ます。この文字を見て、どんなお気持ちでしたか。

山田 コロナ禍の状況もあった中、本当にどうなるのかわからないところもあったのですが、お客さんにちゃんと届けられたんだなと、ほっとした気持ちになりました。制作が佳境の中でも対策をしてスタッフも誰一人もとして新型コロナウィルスに感染せず、最後まで作りきることができて良かったなと。中途半端ではなく、ちゃんと終われたかなと思っています。ここから先は、観ていただいた方に委ねていきたいかなと。

――いま「シン・」は大きな反響を呼んでいますね。

山田 個人的に嬉しかったのは、公開して一週間ぐらいたったときに、学生時代に一緒に「エヴァ」を観て、自主制作アニメを作っていた仲間から連絡があったんです。それで今度、会おうという話をしました。

――まさに山田さんにとって「エヴァ」の原点となったメンバーの再会ですね。

山田 当時、映像学科にいた友人の卒業制作として、みんなでアニメを作ったんですが、当時の仲間から連絡をもらったんです。「『シン・』の冒頭のクレジットでお前の名前が出たから、そのあと集中できんかった!」と言われて。「それは申し訳ない」としか言いようがなかったです(笑)。

――オープニングで山田さんの名前が出ますからね……。

山田 当時はよく仲間内で初号機が暴走するモノマネをしていたんですよ。そういうことがある作品ってなかなかないですから、嬉しかったですね。

――最後の質問です。エンドロールのスタッフクレジットでは増尾昭一さんが名誉特技監督と記されています。このことについて、山田さんはどんなお気持ちでしたか。

山田 本望です。特技監督のクレジットには、最初から増尾さんの名前を出してほしいと思っていたので、岡島(隆敏)プロデューサーから、「増尾さんを名誉特技監督としてクレジットしたい」と聞いたときは、素晴らしいことと思って、すぐに賛成しました。

――増尾さんの技術は、今後もスタジオカラー内のレガシーとして受け継がれていくことになりそうですね。

山田 今でも「エヴァ」の特技監督は増尾さんなんですよ。「シン・」は自分が特技を引継ぎましたが、はあくまで庵野さんと鶴巻さんが見せたいものを解釈しただけで、表現したつもりです。「エヴァ」の特技は増尾さんとTVシリーズ、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」そして「:序」「:破」「:Q」の画に携わったスタッフの方々の賜物だと思っています。増尾さんがこの業界に遺されたことは、「エヴァ」の中にスピリットとして生き続けます。今後もシリーズを通して多くの方に観ていただけると嬉しいです。

(プロフィール)

やまだ・とよとく/これまで数々の作品で撮影を手がける。鶴巻和哉監督作品「龍の歯医者」にも撮影監督として参加。「天元突破グレンラガン」「キルラキル」など今石洋之監督作品にも撮影監督として携わる

現在発売中のニュータイプ6月号では、スタッフ・キャスト30名以上のインタビュー&コメントを掲載。今回の山田豊徳さんのインタビューも収録。総作画監督・錦織敦史さんの描きおろしイラストが目印です。

【取材・文:志田英邦】

本誌では、特技がどのような工程で作業していったかを解説します(画像提供:スタジオカラー)/(C)カラー