前回稿「インド型変異株の正体と予防策」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65166)には大きなご反響をいただきました。

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 より詳しい結果を知りたいというお問い合わせがあり、今週の「週刊新潮」の冒頭特集に4月時点までの素データグラフとして掲載しました(30ページ右上のグラフ)。

 JBpressネットメディアですから、より迅速性があります。本稿はさらに最近、5月11日までの直近データを含め、いまインドで起きている事態と、そこから日本が学べることを整理します。まずデータを見てみましょう。

 日に日にコロナ致死率が高くなっている

 まず直近のインドでの新型コロナウイルス感染者数の推移を見てみます。あくまで発表値のままで、とりわけ統計操作はしておらず、正確さも不明、あくまで参考値としてご覧ください。

5月 5日 新規感染者数 412618
6日 新規感染者数 414433
7日 新規感染者数 401326
8日 新規感染者数 409300
9日 新規感染者数 366499
10日 新規感染者数 329517
11日 新規感染者数 348499

 5月8日までは1日40万人超えの数字ですが、10日にはなんと「32万人」まで急降下、11日にはまた34万人に急上昇

 データの正確さを問わねばなりませんが、懸命の拡散防止努力が払われているのは間違いないでしょう。

 さて、数字を数字だけで見ていてもピンと来ませんから、大学での私の講義の常ですが、身近な値と比較してみましょう。 

 1日40万人の新規感染とはいかなる規模か、日本の人口と比べてみましょう。

神奈川県横須賀市の推定人口が 406586 人
大阪府豊中市の推定人口が 400955 人
東京都品川区の推定人口が 416171 人

 ですから、そういう規模の地域全住民数と同程度の「患者数」が「毎日増える」という状況になっている。

 上記の1週間を単純加算してみると 2682192人、つまり約270万人の患者が、たった1週間で新規に増えてしまう。

 これは日本で考えると全国第12位の広島県、約2795000人の全人口とほぼ同じで、第13位の京都府257万人以下、35府県の総人口より多い。

 それが、たった1週間での増加で、現在のインドでは合計約370万の患者数。

 これは日本全国市町村の人口第2位、神奈川県横浜市の全人口が患者、あるいは日本都道府県の人口第10位、静岡県市町村の合計人口が新型コロナ患者という状況に相当します。

 いくらインドの人口が日本の10倍規模、13億人いるといっても、こんな状態になったらたまったものではありません。逆に10で割れば日本の人口あたりの数字に近くなります。

 日本で仮に1日4万人規模の感染者が出てしまったらどうなるのか。いまでも5000人、7000人といった実数で危機的な医療状況にあるわけです。

 インドで「インド株」が見せる強い感染力を持つ場合を念頭に、変異株の発生は一日も早く把握し、隔離・蔓延予防という伝染病対策の王道、手洗いうがいなど予防対策の基本を徹底する必要があるでしょう。

 車は急に止まれない:減らない死者数

 さて、これに対してインドコロナ犠牲者数の推移はどうなっているでしょうか?

5月 5日 コロナ死者数 3982
6日 コロナ死者数 3920
7日 コロナ死者数 4194
8日 コロナ死者数 4133
9日 コロナ死者数 3748
10日 コロナ死者数 3879
11日 コロナ死者数 4200

 様々な方法を尽くして「日々の感染者数」を押さえようとするわけですが、すでに発症している重傷者の死亡率はすぐには減っていきません。

 その結果、統計上の見かけの現象としても、「患者数は減っているのに 死亡者数は増える」という事態が観測されることになります。

 様々な平均処理を施す解析も行いますが、いまここでは、直近数日の推移を見たいので、素データだけの振る舞いを見てみます。

インドの臨床致死率 2020年10月2021年5月

 グラフの見方をご説明します。横軸が日々に発生する患者数(45万人まで)縦軸に日々亡くなる死亡者数をプロットして、2020年10月からの推移をみると、

 非常に大まかに言って2020年10月から2021年2月までのデータは、青い矢印の補助線を入れたような「傾き」になっている。

 この「傾き」は、横軸「感染者数」分の縦軸「死者数」ですから、致死率の意味をもつことになる。傾きが急だというのは、同じ数患者が増えたとき、死ぬ人がよりたくさん出ることを意味します。

 その観点でグラフを眺めると、2021年2月頃に大きな転換が起きているのが一目で分かります

 カーブが緩やかになっている。つまり「致死率」が下がっている。それと同時に、急速に患者数が増えている。

 これだけを見て「病原体が弱毒化した」などと性急な結論は出せません。

 しかし、何か病態に異変があったのは明らかで、3月以降は爆発的に感染者が増えているが、致死率は2020年よりも緩やかな勾配で、ほぼ一直線に伸びている。

「何かが変わっている」のは間違いありません。そこまでの範囲を4月に解析し、公刊したペーパの結果を、週刊新潮に出しました。

 しかし、4月下旬以降すでに3週間ほどが経過していますので、代表値を選んで考察すると、4月末以降ここ2週間ほどの事態の緊迫状況がはっきりと分かります

 一目みて明確なのは、ピンクの矢印で示したように、感染者数が統計上減っているように見えても、患者数は減らないので、このグラフ(トラジェクトリと言います)は「左向き」に進んでいる。

 これが、時計の針が3時から0時方向に逆進する「反時計回り」つまり、新規患者数は減っているのに、死者はむしろ増える状況が続いたりすると、地域の医療が崩壊している状況をそこから評価できる可能性があります。

 インドの場合、被害の規模がべらぼうなので、まずもって医療は崩壊していると考えられますが、こうした客観データから得られるエビデンスに基づいて、対策を立案実行してゆかないと、限られた医療資源・人材などを最適に活かすコロナ収拾策を打つことは不可能です。

 これは日本も全く同様で、早期発見、早期対策、地域ごとの収束宣言発令による社会経済の復興実現には、ザル勘定の大味ではとても対抗できません。

 さらにグラフをよく見ると、3月初めから4月半ばにかけて、2020年よりもなだらかな致死率勾配で推移していた状況が、4月下旬以降、急速に悪くなっているのが、お分かりいただけると思います。

 これは何を意味するのか?

 4月後半になって、ウイルスの毒性がだんだん強くなり始める・・・なんてことを考えるのは不自然でしょう。

 そうではない、1日で横須賀市の人口程度、新規感染者が出たりすれば、当たり前ですが、医療はパンクしてしまいます。

 インドで酸素が足りないといった報道は目にしておられると思います。この「致死率カーブの逓増」は、医療の逼迫によって、従来のケアが可能なら死ななくて済んだはずの命が失われていく推移を示していると解釈することが可能です。

 事実、2020年春のフランスイタリアスペインなどでは、軒並みこの種の急上昇が、ある臨界点を超えると「反時計回り」に逆回転し始めてしまっていた。

 これが、新規感染者数が減れば、死亡者数も減るという通常の状態に戻ると、医療の正常な機能が回復しつつある兆しと考えることができます。

 百聞は一見に如かず、で2020年10月から4月までの米国の、同様の致死率推移を見てみましょう。

米国全土合計での臨床致死率 2020年10月2021年4月

 赤い矢印で危機的状況が幾度も発生しますが、その都度、緑の急降下で事態を回復しようとする、懸命の努力がはっきりと見て取れます。

 グラフは、右上に行くほど「患者数も多く」「死者も多い」状態を示しますから、規模の大きな医療崩壊リスクに、米国が折々に手を打って、何とか現在の小康状態を回復していることが分かります

 この観点でみると、先のインドデータは、同じ時期でも全く挙動が違っている。ほとんど一定の致死率直線上を行ったり来たりしていた。

 これはつまり、医療がほとんど有効な影響を与えられず、病原体が本来持つ毒性による「致死率勾配」が2020年を通じて大きく変わらなかったインドで、2021年の春から明らかに「別の傾き」を持つ感染が急速に拡大し始めた。

 いままさに医療崩壊の「逆回転」が始まりつつあるのが5月初旬時点の現状です。

 今後、新規感染者数と死者数がそろって減少していけば、それ自体が「収束」傾向を意味しますが、いずれかの増大が止まらない、あるいは乱高下を繰り返すといったことが長引くと、単に医療崩壊のみならず、社会経済全体の麻痺が懸念されます。

 これは対岸の火事では全くなく、日本にその種のウイルスが蔓延すれば、同様のリスクを前提に徹底した対処が必要不可欠になります。

 原則は変わりません。政策としては早期発見、隔離と蔓延防止。個人は接触を減らし消毒を徹底し、ともかく伝染らないようにすること。

 本稿の結論として「弱毒だから安心」などという油断は、完全に誤っていることを強調しておきます。

 仮に10日で98%が平癒するとしても、そういう伝染病罹患者が1日4万人、40万人といった規模で発生すれば、それ自体が社会経済を停止させかねないリスクです。

 日本は「正しく怖がり」根拠をもった対策で、水際の食い止めを徹底する必要があります。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  日本初のコロナ陽性者実態調査「どこで感染したと思いますか?」

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