俺たちの菅義偉政権、NHKでも内閣支持率が35%(不支持は43%)と過去最悪になってしまい、弾除けとして機能してきた森喜朗という護符が失われたいま、大変なことになっております。

 なんせ、東京オリンピックの開催強行は大前提としたうえで、国民がコロナワクチン接種で長蛇の列をなして、クソ重い予約サイトを連打している最中に「来日するオリンピック選手にはワクチンを優先接種」と報じられると泣きたくなります。国民の生命とスポーツ大会とどっちが大事なの? と素朴な疑問を抱く人たちも多いからでしょう。

 他方、コロナによる経済低迷から脱却しようと各国がジャブジャブに供給したマネーは宙を舞い、そもそも経済低迷しているので利益を出せる事業や技術も特にない状態であるがゆえに不動産や証券にお金が集まって高値になるという、いわゆる「資産バブル」の時代が到来したのが2020年の夏ごろからです。

 足元には「もう一度、ひとり10万円の給付金を!」と求める左翼も叫ぶなか、飲食店や流通業の廃業と共に不振業態が吸収していたパートアルバイトなどの非正規雇用が続々と雇い止め・解雇となったため、皮肉なことに国民の平均賃金が上昇に転じるという事態まで発生しました。

在宅経済の流れは世界中で

 日本政府もやるべきことはそれなりにちゃんと矢継ぎ早にやってきました。持続化給付金や家賃補助のほか、コロナ経済は事実上の戦時経済のような状態となってしまいましたが、感染症が問題なのだから仕方がないんですよ。家からなるだけ出ないようにしよう、接触を減らして人流を増やさないようにしようという感染症対策は巣ごもり需要を増やし、駅前経済が沈没するのも仕方がないことです。

 この在宅経済の流れは日本だけでなく、アメリカでも欧州でも拡大して、いまやアメリカでは空前の戸建て建築ラッシュとなりました。出歩かないんだからお家におカネをかけよう、都市部の狭いマンションではなく便利な郊外・地方での広い一軒家でゆったり暮らそうという動きが出るのも当然のことです。日本人アメリカ人もみんな考えることは一緒ですね。

物価高騰の瀬戸際まで来ている

 とか言っているうちに、アメリカ人があんまりにも新しく木造住宅を建ててインテリアに凝るもんだから、今度は建築資材用の木材が足りなくなってしまいました。俗に「ウッドショック」と言われる現象は、カナダオセアニア地域の材木流通の現場を一変させ、それまで2×4の建築資材や半製品で一杯だった積み出し港近くの木材輸出用ヤードが一気にカラになってしまい、木材の価格が急騰。いまでは、日本でも戸建て住宅を建てようにも材木が届かないので、建築計画が無期延期になる現場さえ多発して、2021年下期は決算真っ赤でみんな真っ青な展開になるのではないかと思ったりもします。

 最近では、東南アジアロシアからの木材も便乗値上げで、いっそ日本国内産の材木に再び脚光が集まります。困ったときの国産、って、敗戦前夜に日本全土から鍋や仏像をつぶして鉄をかき集めたかのような戦時経済を彷彿とさせて涙を誘います。しかし、いままでさんざん日本の林業を馬鹿にして産業育成してこなかったばかりか、建材の品質は材木の乾燥具合にもよるので、これから夏場になる日本産を増産しようにも時期が悪く、当面は価格高騰で逼迫しそうです。

 木材だけでなく、素材、材料の類の価格高騰は半導体など電子機器、通信機器をはじめあらゆる商品に及んでおり、先物取引ではなく実需をともなう現物の値段が高騰しています。資源や素材を輸入に頼る日本は、国内要因というよりも世界的な物流の事情で輸入価格が軒並み上がり、いまや悲願だったデフレ脱却(笑)も目前に迫るほど物価高騰の瀬戸際まで来ております。

焼け野原になったところからの復興

 流通の現場でも、スエズ運河が馬鹿でかい船の座礁で止まっていた影響で海運価格がコンテナ船を中心にこれまた高騰、1カ月で運賃3倍とかなっとるわけですよ。まあ、もちろん需要一巡までの一過性のもんでしょうが、値上がりしているものは上がっているのですから影響は大きくなります。

 しかし、コロナ拡大のお陰で経済は沈滞しているのです。「コロナは風邪」と言い回る方々がいて、マスクなし会食を繰り広げたことで、変異株が猛威を奮い始めた東アジアのなかでも日本は上位の死亡者数をマークしています。大阪府での失政もあって、緊急事態宣言でしっかりコロナ感染者数を統制してさっさと経済再開したいのに、緊急事態宣言も5月末まで延期になってしまいました。切り札はコロナワクチンの接種拡大ですが、頑張って接種会場を大きくしたり、自治体も職員の皆さんや医療関係者が休日返上で頑張っているのに、まだまだワクチンが国民に行き渡るのには時間がかかります。

 おそらくワクチンは効くでしょう。そこまでどうにか我慢して、これから経済を良くしていこうというころには、すっかり物価も上がり、多くの人が解雇され、経済的に厳しい状態で焼け野原になったところからの復興をしなければならなくなるのではないかと思います。

「物価は上がるけど賃金は下がる」というスタグフレーション

 政府も都道府県自治体も医療関係者も国民も、それなりに我慢してみんな頑張ったはずなのに、感染者数を減らせなかったばっかりに、経済再興のための前向きな投資をすることができず、停滞してしまうというのは残念なことです。結果として、これから起きるかもしれない懸念の最たるものは「物価は上がるけど、景気は悪くなり、国民の賃金は下がる」というスタグフレーションと呼ばれる最悪な経済状況に陥ることです。

 製造業が日本経済の根幹で、経済収支の虎の子だった時代は、とにかく円安に誘導し、製造原価を引き下げるために固定費である人件費負担を減らしたいと思っていたのはいまは昔。いまやサービス業が7割を占める日本経済において、むしろ円安で賃金も物価も上がらない日本は「割安な国」として、インバウンド頼みで「観光客の皆さん、安いから日本にいらっしゃい」という貧乏国に転落しかねない怖れがあります。コロナ感染症のリスクがあると知りつつ中国からの観光客を政治的な事情で受け入れ続けた結果、昨年2月から4月にかけてのコロナ感染者が急増したのは北海道だったこと、みんな思い出してください。

21年遅れでやってきた世紀末の政治

 昔はゼロ金利と言われれば日本の金融政策のお家芸だったわけですが、コロナ拡大時期を経て、いまやドイツもどこの国もほぼゼロ金利です。たくさんマネーを供給し、資産バブルを起こし、湾岸タワマンや都市部の土地付き一戸建てを持つ不動産オーナーや、国際優良株やビットコインのような「有限のもの」である証券や資産がバブルを起こす一方、持たない者、過当競争で売上のなくなった企業、競争力を失った地方経済は沈没をし、格差増大の方向へとシフトしていくでしょう。そして、競争力のない人たちは、無能な菅政権を声高に批判しながら、政府にすがり、国庫から大盤振る舞いのお札が降ってくることを夢見て日々を過ごすことになりかねません。

 そして、貧しいこと、暮らせない経済状態であることは、コロナが原因とはいえ、失政であることに変わりはないのです。果たして、コロナによって仕事を失い、貧乏であることはその本人の責任なのでしょうか。取り残された人が少しでも良い暮らしができるような経済政策、よりよい政治を追求するべきなんじゃないのかと思うんですよね。

 しかしながら、すでに世界各国から払い込まれた放映権料を返さなければならない東京オリンピックの開催が強行され、ワクチンが優先的に選手団に接種され、高橋洋一さんがコロナ感染者数など「さざ波」だと軽視して批判されるというのは21年遅れでやってきた世紀末の政治なんじゃないかと思ったりもします。

 埋蔵金でもあれば良かったんですが。

(山本 一郎)

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