動物は人間より優れた能力を持っている。犬の嗅覚はすごいし、シャコは人間に見えない色を見ることができ。キツネや渡り鳥、クジラやカメなど一部の動物は、地球の磁場を感じることができる。
だが我々には知恵がある。それをつかって、コウモリやイルカが持つ「エコーロケーション(反響定位)」を利用することが可能になるかもしれない。
そう、音波を発し、その反響によって物体の距離・方向・大きさなどを測る天然のレーダーを使えるかもしれないのだ。
脳情報通信融合研究センターの角谷美和氏らが『PLOS ONE』(5月5日付)で発表した実験は、次のようなものだ。
ヘッドホンを装着した被験者の前にタブレットが2つ置かれている。片方のタブレットをタップすると、別室にあるスピーカーから合成音が鳴る(図の赤線)。
その別室には筒状の物体(ターゲット)が置かれている。このターゲットは回転している場合と静止している場合がある。
合成音はターゲットに当たって反響する。スピーカーの上には人間の頭部の7分の1の大きさのダミーヘッドが設置されており、その耳に内蔵されたマイクが反響音を拾う(青線)。
わざわざダミーヘッドが用意されたのは、反響音を「バイノーラル録音」するためだ。これはステレオ録音の一種で、音が人間の鼓膜に届く状況を再現して録音することで、まるでその場にいるかのような臨場感を表現できる。
なお最初に鳴る合成音には人間の耳に聴こえる可聴音よりも高い周波数も含まれている。そこでもう1つのタブレットで処理して、そうした音も聴こえるよう音程を下げる。そして被験者はその音をヘッドホンで聴く(緑線)。
反響音から回転の有無を識別
被験者15人にこの装置を試してもらい、別室のターゲットが回転しているかどうか質問したところ、反響音の音質や音程から見事に識別できたとのこと。静止しているものよりは、回転しているターゲットの方がうまく特定できたという。将来的には、こうした技術を応用して、視覚障害者の移動を補助するウェアラブルデバイスを開発できるかもしれないそうだ。
なお、今回は特別な音響装置を使って実験が行われたが、目が見えない視覚障害者の中には、舌打ちの音を利用して普段からエコーロケーションを行なっている人たちがいるのだそうだ。
そうした人たちは、エコーロケーションでマウンテンバイクに乗ったり、旅行中に街中を散策したりと、本当は目が見えるんじゃないかと思わせる活動ができるらしい。もしかしたら、私たちの中にもそれに匹敵するすごい能力が隠されているかもしれない。
References:PLOS ONE: Effectiveness of time-varying echo information for target geometry identification in bat-inspired human echolocation / Humans Could Develop a Sixth Sense | Human Echolocation/ written by hiroching / edited by parumo
サイエンス&テクノロジーの記事をもっと見る
【ライフハック】1日のうちで一番クリエイティブになれる時間帯はいつか? - カラパイア
ミツバチに新型コロナウイルスの匂いを嗅ぎ分けられる能力があることが判明。検査の強力な助っ人になる可能性 - カラパイア
コメント