4月25日に3度目の緊急事態宣言が発出され、アルコール提供を禁止された飲食店や休業要請された百貨店、娯楽施設などの苦境が伝えられています。そんななか、観光業やイベント業は昨年末にGo Toキャンペーンが中止されてから、半年近くも苦しい状況に置かれ続けたままです。当事者はどんな思いでいるのか。法人向けの研修旅行やイベントを手がける旅行代理店ジャパトラ代表取締役社長の柏倉幸彦さんに、今の“率直な思い”を伺いました。(全2回の1回目/後編に続く

◆ ◆ ◆

スケープゴートにされるのは本当に悔しい」

──観光業の方々はGWに期待しているところがあったと思います。ところが、蔓延防止措置に続き、4月25日に3度目の緊急事態宣言が東京、大阪、兵庫、京都で発出されました。5月12日からは愛知県福岡県も対象地域に加わり、5月31日までの延長も決まりました。県境をまたいだ移動を控えるよう呼びかけられ、旅行やイベントの自粛が続いています。

柏倉 私たちも言いたいことがいっぱいあります。昨年の第3波のとき、Go Toトラベルが一番のやり玉に上がりました。その結果、マスコミはじめ社会的な圧力でGo Toトラベルは中止に追い込まれてしまった。第4波になって、今度は飲食店がターゲットになった。何かのせいにして叩かないとダメなのかなという気がものすごくしています。

──Go Toトラベルを巡っては、昨年11月に日本医師会の中川俊男会長が「(感染者急増の)きっかけになったことは間違いない」などと発言した一方、今年2月には国立感染症研究所などの研究グループが「Go Toトラベルと新型コロナウイルス感染者増加には関係がなかった」という論文を出しています。

柏倉 昨年5月、第1波の緊急事態宣言が明けて観光旅行やイベントが復活する中で、私たち旅行業やイベント業に携わる者も感染拡大させないよう、国や都道府県が出しているルールにしたがってコロナ対策を徹底してきました。感染拡大の大きな原因になっているという明確なエビデンスはないのに、スケープゴートにされるのは本当に悔しいです。

 私たち法人向けの旅行代理店やイベント関連会社が一番困っているのは、コロナそのものではなく、コロナ陽性者を出したら困るという「雰囲気」なんです。私たちがお得意様に営業に行っても、「本当は研修旅行やイベントをやりたいんだけど、主催関係者に謝罪をさせるわけにはいかない」とおっしゃるんです。

 イベントを開くにしても、入場者を会場の定員の半分までにする、入り口で熱を測って発熱している人は帰ってもらう、入る前にみなさんにアルコール消毒をしてもらう、会場で密をつくらないようにするなど、国や都道府県が出している感染予防のルールがあります。しかし、それを厳格に守っていたとしても、万が一コロナ陽性者が出たら、関係各所に謝罪文を出して、会見を開いて世間にもお詫びしなくてはいけない。そのために、あらゆる業種の企業・団体は、イベント開催自体の断念・自粛に追い込まれています。

いつまでこの自粛を続けるのか?

柏倉 先日も、私たちも関わったある業界団体のイベントで、展示ブースに出展していた関連メーカーの社員が体調を崩し、検査の結果コロナ陽性と出たんです。その会社はイベント参加者全員に一斉に謝罪メールを出し、社員が主催者の方々にも頭を下げて回ったそうです。イベントのホームページにも事の経緯を説明する文書が出て、陽性が発覚した日の午後から展示がすべてクローズとなりました。そして、隣接していたブースの会社の人は全員3日間出席停止となりました。

 保健所の方が来られて、濃厚接触者はいないという結論になったので、ブースのあったエリアと、陽性者が動いた動線に沿って、エスカレーターエレベーター、ソファー等を消毒し、翌日には再開するという決定が出ました。しかし、「そういうことがあるんだったら、やっぱり今度からイベントはやめよう」となるんです。それが私たちの業界で、仕事がすべてストップしてしまっている元凶なんです。

──国や都道府県が決めたルールにいくら従っていても、陽性者が一人でも出れば謝罪しなければいけない状況が続いているのですね。

柏倉 1年以上経っているのですから、イベントコロナ陽性者が出たとしても、きちんと対策をしているのだったら非難されるような社会であってはいけないのではないかと思うのです。

 いわゆる「コロナ警察」が現れるような雰囲気を作ったのは政治家の責任だと思いますが、マスコミも問題だと思います。いったいどこまで、この自粛を続けるつもりなのでしょうか。感染者がゼロになるまでイベントは開いてはいけないのか。それとも「ウィズコロナで行く」というのであれば、どの段階まで行けばOKなのか。そろそろはっきりしてほしいと思っています。

「日通旅行の解散」が一番ショッキングだった

──経営的には、どのような状況に置かれていますか。飲食店には休業補償がありますが、観光業界には何かあるのでしょうか。

柏倉 昨年の持続化給付金雇用調整助成金など、どの業種も受け取った支援金は、私たちも一通りいただきました。しかし、それ以外に観光業だけに特別な支援金というのはありません。会社の売り上げがもっとも落ち込んだのは2020年4月で、前年同月比92%ダウンでした。2019年と比べると毎月70~90%、年平均で見ると85%くらいのダウンです。JATA(日本旅行業協会)に加盟している大手旅行代理店の売り上げも毎月チェックしていますが、各社だいたい80~90%下がっています。

 大手旅行代理店は店舗を軒並み閉鎖しました。それに各社何千人という規模の社員削減を行っています。その中でも、私たち業界人にとって一番ショッキングだったのが65年の歴史を持つ日通旅行(日本通運の子会社)が会社を解散したことです。海外旅行の先駆者で、JTBと共同でつくった「ルックワールド」というブランドがありました。毎年、JALパックと売り上げ1位を競っていたんですが、その歴史ある会社がなくなったんです。

ランドオペレーターは軒並み廃業の危機

柏倉 それに、海外旅行では「ランドオペレーター(地上手配会社)」という業種がありますが、その会社が軒並み廃業の危機に追い込まれています。旅行業界は分業制になっていて、私たちが海外旅行を受注すると、日本人が各国で経営しているランドオペレーターにホテル、バス、レストランなどの手配をお願いするんです。

 ところが今、海外旅行がゼロで、国内もGo Toの恩恵が全くないので、もうどうしようもない。ヨーロッパ地区を中心に展開する大手のランドオペレーター会社も静かに昨年の10月に会社を解散しました。裏方だから目立たないですが、社員が数百人いて、影響はものすごく大きいです。旅行業だけでなく、旅館・ホテル含めて、みなさんが思っている以上に閉鎖・クローズしています。

──ランドオペレーターをしていた人たちは、英語をはじめ語学が堪能で、優秀な人たちが多かったのではないでしょうか。職を失った業界の方々は、今、どうしておられるのですか。

柏倉 ウーバーイーツや配送業や介護施設に転職する人が多いと聞いています。また、ホテルの清掃係になった人や、農業にチャレンジする人の話も聞いたことがあります。そうした分野は人手不足で、労働の再配分になるから問題ないという意見もあるでしょう。でも、口で言うのは簡単ですが、20~30年旅行業に携わっていた人だと、いきなり別の業界で働けと言われても、対応できない人が多いと思いますよ。

──そもそも旅行代理店に就職される方というのは、旅行が好きでこの道に入った人が多いのではないでしょうか。

柏倉 飛行機に乗りたい、鉄道や路線バスが好きといった人が多いですね。学生時代に初めて行った海外旅行で感動し、それを仕事にした人も多いと思います。私も最初は金融機関に就職したのですが、お金のトラブルに巻き込まれて、つらくなってやめたんです。旅行会社に転職して「これは天職だ」と思いました。行ったことのない温泉地に行ったり、素晴らしい景勝地を観たり、美味しい食事を楽しんだりすることができる。その感動をお客様にも味わってもらいたい。それが私たちの仕事なんです。

後編に続く

「コロナを理由に業界から退場したくない」苦境続きの旅行代理店社長が語る“ギリギリの生き残り策” へ続く

(鳥集 徹)

閑散としている羽田空港(2020年12月28日撮影) ©AFLO