(舛添 要一:国際政治学者)

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 5月12日に、東京都大阪府兵庫県京都府に出されている緊急事態宣言が31日まで延長され、愛知県福岡県も対象に加わった。また、14日には、これに北海道岡山県広島県が追加されることが決まった。同様に、まん延防止等重点措置の適用対象を、これまでの埼玉県千葉県神奈川県愛媛県沖縄県北海道岐阜県三重県も対象に加えたが、さらに今回、群馬、石川、熊本の3県を加える方針にし、北海道緊急事態宣言の対象となった。期間は5月16日から6月13日までである。

 それにしても、新型コロナウイルスの感染拡大は一向に収まりそうもない。13日の感染者は、東京都1010人、大阪府761人、北海道は過去最多の712人など各地で感染が高水準で経緯し、全国では6880人となった。重症者は1214人で過去最多を更新し続けている。死者は101人である。

 この状況を見れば、4月25日から行われた緊急事態宣言には効果がなかったと言わざるを得ないし、これから目に見える形で感染が減少していくという保証もない。

高齢者には酷なインターネット予約

 今や、最後の望みの綱はワクチン接種である。私は、東京都世田谷区に住む高齢者であるが、ワクチン接種券が郵送されてきたので、早速予約しようとネットと電話の双方で試みたが、何回挑戦しても繋がらない。これは、世田谷区のみの話ではなく、全国の自治体で起こっていることである。人口の多い都市ほどこの傾向は強く、ウイルスとは無縁の過疎の地域では全住民がすぐに接種できている。年齢のみならず、感染状況に応じた地域による優先順位も必要ではないか。

 しかし、そのようなことを考える余裕もないのが、今の政府である。河野太郎大臣をワクチン担当に任命したが、今の接種の混乱状況を見ると、お世辞にも成果が上がっているとは言えない。

 菅義偉首相も業を煮やしたのか、自衛隊に対して東京と大阪に大規模ワクチン接種会場の設置と運営を命じた。5月24日には開設される予定となったが、17日から予約を受け付けるという。しかし、インターネットのみの受付であり、高齢者がうまく対応できるかどうかは問題である。1日に東京が1万人、大阪が5000人の接種を予定しているというが、その思惑通りに進むのかどうか。

接種完了予定の自治体数を数えても無意味なのに

 会場となった大手町の合同庁舎には東京都神奈川県埼玉県千葉県の、大阪府立国際会議場には大阪府兵庫県京都府の高齢者を受け付けるが、勤務先が両会場の近くにでもないかぎり、あまり便利はよくない。インフルエンザの予防接種のように、自分の病歴などを熟知してくれているかかりつけ医が最適なのであるが、開業医に接種させるという選択肢が考慮されたようには思えない。

 それには、マイナス80℃で管理せねばならないというファイザーのワクチン特性もあるが、医師会と行政が連携すれば不可能ではない。自衛隊に大規模接種を任せることは、自衛隊本来の任務にも支障を来すし、各地の医師会傘下の開業医を使ったほうが遙かに問題が少ない。

 さらには、自治体自衛隊大規模会場の二重予約防止の措置も十分ではない。防衛省厚労省総務省自治体との連携も上手くとれているとは思えない。省庁間の調整役として河野大臣がいるはずだが、機能していない。まさに、「船頭多くして船山に上る」を地で行く展開である。

 菅首相は、高齢者のワクチン接種を7月末までに完了すると述べ、86%の市区町村が7月末に終了可能と回答したと自慢げに語った。しかし、離島の村も人口93万の世田谷区も同じ1つの自治体と数えても意味がないのである。要は人口で、何人の高齢者が2回の接種を終えることができるかということである。つまり、3600万人の高齢者の何%が7月末に終わるのか、その数字こそが大事なのに、マスコミは大本営発表を垂れ流すだけで、人口比の調査すらしないという無責任さである。

このコロナ禍拡大は安倍・菅両政権の失策のツケ

 新型コロナウイルスの感染が日本でも確認されてから、もう1年以上が経つが、政府の対応は失敗続きであった。その典型はアベノマスクである。全世帯への配布を始めたのが4月17日であるが、郵送が終了したのは2カ月後の6月20日頃で、その頃にはマスク不足は解消していた。費用は460億円もかかっている。昨年7月時点で、アベノマスクを使っていたのは3.5%のみという失望すべき結果であった。国民の評価も最低であった。

 これは官邸官僚の提案を安易に受け入れた安倍晋三首相の失敗である。しかも、異物混入など品質にも問題があり、さらには調達元の企業についても様々な疑義が呈されたのであった。

 安倍長期政権の下で、忖度官僚が跋扈するなど、官僚機構が劣化していき、側近政治で諫言する者もいなくなっていったのである。平時にはそれでも何とか統治できたが、パンデミックのような有事にはとても機能しない政権だったのである。安倍首相は健康上の理由で退陣したが、コロナ対応の失敗の責任をとる意味で身を引いたと言ったほうが正確である。後継は菅官房長官であるが、安倍首相の番頭として官僚を動かしてきたのは彼である。したがって、菅政権になって、これまでの失敗を反省し、抜本的な改革を断行することができないでいる。

 旧来の路線を跛行しながら歩んでいると言うほかはない。

 まさに、安倍政権、菅政権の失敗の連鎖が、今日のコロナ惨状をもたらしたのである。

 前回も指摘したように、感染者対策の基本は「検査と隔離」であり、徹底したPCR検査を行うことが対策の第一歩でなければならない。ところが、これを怠ってきており、それは今も続いている。今回の第4波の感染の背景には、強力な感染力を持つ変異ウイルスの存在があるが、その変異株の検査すら不十分な状況が続いている。

(参考記事)【舛添直言】検査徹底を怠ったツケ、宣言延長で高まる五輪中止論https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65207

緊急対応がまるでできない政府、その煽りで倒産・廃業も

 すべてが、「遅い」、「不十分」であり、先手必勝の真逆を実行し続けているのが今の政権である。

 昨年春に全国民に一律に給付された10万円の現金支給にしても、遅れに遅れ、しかもインターネットでの受付のほうが混乱するという恥ずかしい状況すら現出したのである。緊急性を要するので、一律に支給したのであるが、それが遅れれば意味がない。

 しかし、その後、飲食店などに休業や営業時間の短縮を要求する代償としての補償金を支払う場合にも、一律支給というこの「手抜き作業」を行い続けた。政府や自治体の財務当局には税務データが完備されているはずである。どうして、そのデータを活用して、たとえばドイツのように昨年度の売り上げの75%を支給するということができなかったのか。役人にとっては、できるだけ仕事は少ないほうがよい。黙っていて税務担当官僚が動くはずはない。行政のトップの座にいる政治家が指示を出すべきなのである。それを怠り続けておいて、「GoToトラベル」、「GoToEat」などの手法に頼るのは間違っている。

 しかも、観光業界、飲食業界などを代表する特定の人物と菅首相は親しい関係を維持しており、彼らの要望は容れてきたのである。それが感染防止対策を意味のないものにしてしまったことは疑いえない。

 度重なる緊急事態宣言の発令で、飲食業や観光業をはじめ、多くの業界が青息吐息である。営業の停止や時短に対する協力金なども不十分だったり、支給が遅かったりしており、廃業の余儀なきに至るケースも多い。

 生活困窮者も今年2月の生活保護の申請件数が1万7424件と6カ月連続の増加である。今、全国で生活保護を受けているのは163万7143世帯であるが、3度目の緊急事態宣言で、今後もさらに増える可能性がある。経済への深刻な打撃への対応についても、落第点である。一方で、中小の店など、協力金バブルで、モラルハザードが起こっている。

「遅れ」と言えば、病床再編もそうである。1年もの時間があったのに、医療資源の最適配分という仕事を政府は怠ってきた。その結果、世界でトップクラスの医療資源を持ちながら、重症者が千人を超えると、医療崩壊を訴えざるをえなくなっている。13日も、重症者は1214人と過去最多を更新している。

 重症者がある程度回復した状態で、中軽症者用の医療施設に移さねばならない。ところが、その受け皿となるべき民間の中規模の病院は、風評被害を恐れて手を挙げようとしないのである。

 コロナ重症病床1床あたり1500万円の補助金を支給することを決めている。それはもちろん助けにはなるが、感染して入院してから治療を終えて帰宅するまでのプロセスの中で、症状に応じて1~2回は転院するという流れができていないのである。こうして、重症者用の病床が不足する羽目になってしまったのである。

 各地の病院配置は、自治体の長とその地の医師会がよく知っているはずである。ここでも、両者の連携が上手く行っていない。そのために、医療先進国でありながら、病床不足という馬鹿げたことが起こっているのである。全国の大学病院もコロナ重症者用に十分な病床を提供していない。大学は文部科学省の管轄である。ここでも厚労省との連携が取れていないのである。

コロナを担当する大臣が3人も、なのにこのワクチン接種の遅れ

 コロナ感染で入院できる患者は、大阪で10%、兵庫で15%という驚くべき数字が出ている。第4波で自宅で死亡した人が大阪と兵庫で38人に上る。これは医療が発達した先進国の姿ではない。ワクチン接種も医療関係者すら2回接種したのは4分の1のみである。

 田村憲久、西村康稔、河野太郎と3人もコロナ担当大臣がいて、しかも加藤勝信官房長官は厚労大臣経験者である。それに、菅首相を加えれば、5人でコロナ対策を行っていると言ってもよい。その結果が緊急事態宣言をいつまでも延長し、ワクチン接種もG7で最も遅いという結果である。

 NHK世論調査(7〜9日)では、内閣支持率が35(−9)%、不支持率が43(+5)%と、昨年9月の内閣発足以降最低を記録している。政府のコロナ対策については、「評価」が33%、「不評価」が63%、ワクチン接種に関しては、「遅い」が82%、「順調」が9%、東京五輪については、「中止」が49%、「観客制限で開催」が19%、「無観客で開催」が23%、「これまで同様開催」が2%である。

 また、読売新聞世論調査(7〜9日)では、内閣支持率が43(−4)%、不支持率が46(+6)%である。政府のコロナ対策については、「評価」が23%、「不評価」が68%である。東京五輪に関しては、「中止」が59%、「観客数を制限して開催」が16%、「無観客で開催」が23%であるが、緊急事態宣言対象6都府県では「中止」が64%、東京都では「中止」が61%である。

 いずれも、菅政権にとっては厳しい結果となっているが、コロナ対策の失敗が支持率を下げていることは疑いえない。

 東京五輪については、世論は突き放し始めている。IOCも日本政府も「開催する」と繰り返すのみである。しかし、柔道のロシア国際大会から帰国した選手団で新たに1人がコロナに感染したことが12日に判明した。これで2人目である。ロシア大会には4人の選手と6人のスタッフで参加したという。感染者の詳細、感染経路などは不明であるが、柔道は相手と組合う濃厚接触の競技である。感染防止対策をきちんと講じていても、100%の安全は確保できない危険性があることを示している。

 IOCバッハ会長は、5月17日に来日する予定であったが、それを6月に延期した。しかし、そのときに日本でのコロナ感染状況がどうなっているか分からない。

 米元サッカー五輪選手の政治学者のボイコフ教授が、5月12にNYタイムズに寄稿し、「科学に耳を傾け、危険な東京五輪は中止すべきだ」と主張した。日本のワクチン接種が2%未満で、6割の国民が開催反対だという数字も引用している。教授は「IOCは公衆衛生ではなく、あくなき利益の追求ばかり考えている」と痛烈に批判している。

 バッハ会長を「ぼったくり男爵」と揶揄したワシントンポストに続き、また有力誌のニューヨークタイムズの批判である。世界が東京五輪を見つめる目は厳しさを増している。

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5月11日、衆議院本会議にて。右から菅義偉首相、河野太郎ワクチン担当大臣、田村憲久厚労大臣(写真:つのだよしお/アフロ)