新型コロナウイルスの感染拡大で注目されているのが「おひとりさま限定」の飲食店です。複数人での食事は感染リスクが高いとされるため、「来店を1人客に限定すれば感染が広がらず、通常営業できるのでは?」という考えから注目されました。ある調査でも「1人客限定であれば、飲食店は通常営業できるのではないか」という意見が4割を占め、「1人での食事は感染拡大に影響しない」と唱える専門家もいます。

 しかし、注目されてから時間が経過した現在も、既存の飲食店が「おひとりさま限定」に衣替えして営業している様子をほとんど見かけません。なぜ、「おひとりさま限定」の飲食店は増えないのでしょうか。飲食店コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。

ターゲット変更の困難さ

Q.コロナ禍以降、既存の飲食店が「おひとりさま限定」の店に衣替えした例はどれくらいあるのでしょうか。

成田さん「コロナ禍で、どれくらいの既存の飲食店が入店を『おひとりさま限定』にしたのかという調査は私が知る限り、ありません。テレビなどマスメディアでは『コロナ禍での、おひとりさま限定の飲食店』が注目されているようですが、コロナ禍だからといって、ターゲットを『おひとりさま限定』にしたお店は、私の感覚ではほとんどないように思います」

Q.なぜ、「おひとりさま限定」の飲食店は増えないのでしょうか。

成田さん「多くの飲食店は開店する段階である程度、ターゲットを絞っており、急にターゲットを変更することが物理的にも難しいからです。例えば、居酒屋など、複数人をターゲットにしている飲食店が『コロナ禍になり、複数人で食べながら会話をすることは感染リスクが高い』という理由から、来店を1人客に限定するというのは困難です。

ターゲットを変えるためには、業務の流れや人員配置、座席の変更、メニュー設定などに至るまで多くの改修が必要となり、時間も労力もコストもかかります。また、ターゲットを変えると飲食店の雰囲気が大きく変わるため、これまでの常連客が離れる可能性もあります。リスクが非常に高く、既存の飲食店が『おひとりさま限定』にするのは難しいでしょう」

Q.既存の飲食店が「おひとりさま限定」にするのは難しいとのことですが、「おひとりさま限定」店にメリットはないのでしょうか。

成田さん「コロナ禍では『1人客限定であれば、飲食店は通常営業できるのではないか』との意見も4割あるとのことですので、多少の集客は見込めるかもしれません。もちろん、リスクの方が大きいと思われますが。

既存の飲食店が『おひとりさま限定』になることはほとんどありませんが、開店当初から、『おひとりさま限定』の飲食店はあります。こうしたお店は『1人でも気兼ねなく入店できる雰囲気がある』『利害関係のない客同士で楽しく会話ができる』などが魅力で、リピート客が付きやすく、客単価も複数人の場合より高くなる傾向があります。

また、昨今は単身世帯が増えており、農林水産省の調べでは、35歳以下の単身世帯の外食率が男性で58.1%、女性で45.9%と高水準になってきています。この層をターゲットにした飲食店がここ数年で増えてきているのは事実です」

Q.コロナ禍が長引く中、飲食店はどうなっていくのでしょうか。また、開店当初から「おひとりさま限定」の飲食店は増えていくと思われますか。

成田さん「飲食店業界はコロナ禍をきっかけに大きく変わろうとしています。複数人で食事をしたり、飲み会をしたりといった『人が集う場所づくり』を目的にした飲食店は実際に減り始めています。『飲食店の食事だけ』が目的の人は自宅で楽しめるテークアウトやデリバリーをアフターコロナでも利用するでしょうから、その流れにうまく乗った飲食店は生き残るかもしれません。

『おひとりさま限定』の飲食店は単身世帯の需要があるので、今後もある程度は増えていくと思いますが、飲食店にわざわざ出向くメリットをターゲットの客層に伝えられなければ、どのような形態の飲食店でも、今の時代は長くは続けることができないと考えます」

オトナンサー編集部

「おひとりさま限定」、なぜ増えない?