世界に向けて日本の魅力を発信し続けている英国人YouTuber、クリス・ブロードによる連載『ガイドブックに載っていない日本』。第5回のテーマは「外国人の視点から見た日本」。クリスが考える日本人特有の性質とともに、新型コロナウイルスの感染拡大で思うこと、変化していくYouTube活動についても語ってもらった。

(参考:外国人YouTuberの僕が、“奇妙ではない”日本のアイデンティティに惹かれた理由

■“日本人の人間性”と“イギリス人の人間性”

 日本は島国として孤立しているからか、独特な文化を持ち、他の国とはまったく違う個性があると感じています。日本語そのものもそうですが、直接的ではなく、遠回しな言い方をするなど、コミュニケーションも特徴的です。

 日本人は、礼儀正しくて内気、言い換えると、他人行儀で従順だと思います。そのせいか、日本に来た当初は友人作りに随分と苦労しました。私自身が内向的な性格で日本語を話せなかったこともあると思いますが、日本人とは打ち解けるまでにとにかく時間がかかりました。しかし、一度打ち解けると日本人はとても親切で、ホスピタリティに溢れているとも感じます。

 また、他人と同じであることを求める人も多いという印象です。それは新型コロナウイルス感染が蔓延しているなかで、みなが協調してマスクをする、というポジティブな行動にもつながっていると思います。しかし一方で、その“おそろい精神”が窮屈に思えることもあるんです。

 例えば、日本では車を選ぶとき、意識的か無意識的かを問わず、目立ちすぎないことを基準にする人が多いように思います。海外では、車は自身の経済力を誇示する側面が日本より強く、メルセデス・ベンツBMWRANGE ROVERなど、目立つ車が好まれます。しかし、私の日本の友人であるレストラン経営者は、一時期ベンツに乗っていたものの、注目されたり、冷やかされたりするのが嫌で、最終的には国産の一般乗用車に乗り換えました。目立つことをよしとしない日本人らしい発想で、それは美徳でもありますが、車くらい自分の好きに選んでもいいのに、と思うこともあります。

 とはいえ、実は私も日本人的な考え方で、ホンダのフィットという小型乗用車を買いました。本当は運転するのが楽しいBMWのような車を買おうと思っていたのですが、悪目立ちしてしまってはその楽しみは半減し、車を買う意味がなくなってしまう。そもそも、私は海外の成功したYouTuberがわりとそうであるように、豪華な家に住んだり、高価な装飾品を買って自慢するような趣味はなく、むしろ小さなアパートに住み、YouTubeを始めた頃と同じような生活を維持したいと考えているんです。

 もちろん、「目立ちたくない」という思いが先に立つあまり、自分の意見を飲み込み、ストレスを溜めてしまうようなことはよくないと思いますが、それも一つの文化、考え方です。私は「郷に行っては郷に従え」で、日本にいるときは日本に相応しい立ち居振る舞いをしたいと考えています。だから、日本人の友人と一緒にいるときは、自己主張が少し抑えられています。日本語を話すときは別人格を使っている、という感覚かもしれません。

 一方で、私の母国であるイギリスの人々は、オープンで自己主張が強い。どんな質問にも本音で答える人が多いですし好奇心が旺盛で旅行好きです。こういうと日本人と対照的に思えるかもしれませんが、実は気遣いができる人が多い、というのは共通点と言えそうです。

 例えば、イギリス人とアメリカ人の性格の違いを表すこんな話があります。

 イギリス人は街で有名人を見かけても見て見ぬふりをするが、アメリカ人は有名人に近寄ってサインを求める。日本人も基本的に前者ですし、その点では共通しているように思います。

 他方で、アメリカ人との比較でいうと、イギリス人の方がシニカルだとされます。例えば、アメリカ人は誰もが大統領になれる、成功者になれると思うが、イギリス人は誰もが大統領にはなれず、成功もできるわけではないと考える。私がフィルムメーカーになりたいという夢を人に話した時も、イギリスでは「へえ、そうなんだ」というリアクションしかもらえませんでした。アメリカだったら、「絶対なれるよ!」というポジティブな声をかけてくれる人が多いはずです。

 夢を追いかけにくい、というのは日本も似ていて、それはリスクを背負って起業する人が少ないことからもわかります。

 私はイギリスオフィスで働いていたとき、昼休みになると毎日のように夢に向かって本を読み、勉強していました。しかし、そんな私を同僚たちは微笑うんです。彼らにとって、ランチタイムはテーブルを囲んでスポーツやニュースの話をするのが常識で、夢追い人の私が滑稽に見えたのでしょう。別にいじめられていたわけではないのですが、イギリスは自分の夢を応援してもらいづらい国なのだと思います。あまりにシニカルだと将来の可能性を潰しかねないので、その意味ではアメリカ人のように楽観的なマインドに憧れます。

 日本人でも、イギリス人でも、私に大きな夢を語ってくれたら、「きっとできる、大丈夫だよ」と、ポジティブな声をかけてあげたい、と考えています。

■外国人から見た日本の“不便さ”

 日本は何をするにも基本的に便利な国ですが、事務処理の多さに辟易することがあります。

 例えば車を買うにしても、欲しいと思ってすぐに手に入るわけではない。購入予定の車が駐車場に入るのかどうかを確かめるために警察官が家までやってきて、駐車場の大きさを測る。それから市役所に行って書類の記入。不備があれば、書き直し……と、車を買うだけで2週間もかかりました。ちなみにイギリスなら、ディーラーに行ってお金を払うだけで車が手に入るので、その日のうちに乗って帰ることが可能です。

 また外国人からすると、判子文化も面倒に思います。自分はファーストネームだけのものとフルネームのものの2つを持っているのですが、フルネームの方は保険会社に言われて作ったものです。判子は色々とルールがあり、「押し方が悪い」だなんだで何度もやりとりが発生した後で、最終的にサインでもいいと言われたこともあります。

 また、判子の重要性を認識していなかった時期に、銀行の届出印を捨ててしまい、窓口の方たちを慌てさせてしまったこともありました。銀行員が10人ほど集まって、40分ほど話し合っているのです。最終的に届出印がなくとも対応してくれることになりましたが、軽い騒ぎになってしまい、その深刻さにこちらが驚きました。日本は技術的に発展しているのに、こと判子に関してはオールドファッションを貫いていますね。

 イギリスにはない文化なので物珍しさから判子を喜んだこともありましたが、無くすたびに家中をひっくり返して探すのを繰り返しているので、今では面倒臭いと思っています。ペンさえあればできるサイン文化の方が便利です。

 また不便というより、外国人にとって単純に大変なのは、物件の借りにくさとビジネスの始めにくさが思い浮かびます。仙台に引っ越すときに素敵なアパートメントを見つけたのですが、僕が外国人だという理由で、オーナーに断られてしまいました。

 イギリスで外国人であることを理由に賃貸拒否をしたら間違いなく大問題に発展しますが、日本なら仕方のないことかもしれません。日本に住む外国人の数は多くなく、ある日突然、日本を去ってしまう可能性も捨てきれません。よく考えるとリスクはわかるのですが、私としては断られるなんて想像もしていなかったのでかなり驚きました。ビジネスの始めにくさも、同じ理由から来ているのでしょう。

 また、これは田舎特有のことかもしれませんが、外国人の接客に慣れていないからか、モーゼの十戒で海に道ができたように、店員さんたちが引いてしまうことがあります(笑)。もっとも、東京ではそんなことないので、これは不便というより面白い体験として捉えています。

■外国人から見た日本の変わるべき部分

 日本はもっと男女平等になるべきだと思います。日本で生まれて生活していると感じづらいことかもしれませんが、海外の目線から見ると、日本は明らかに男性優位の社会で、女性も男性と同じようにチャンスに恵まれることを願っています。

 政治家を見ても、男性の比率の方が圧倒的に高く、企業のトップもほとんどが男性です。小池百合子都知事がいい例ですが、日本では人の上に立つ女性=怖いと思われがちです。強い女性が日本の伝統的な女性像と異なるからかもしれません。

 イギリスでは、女性は男性と同じように活躍しています。大企業を率いる女性も多く、性別に関係なく様々な可能性が広がっています。ボリス・ジョンソン首相の前は、テリーザ・メイという女性が首相(2016年~2019年)でした。マーガレット・サッチャー党首(1975年~90年)のことは日本でもよく知られているでしょう。政党にも多くの女性が在籍しており、大多数が男性ということはありません。

 数年前に安倍晋三元首相が「女性活躍推進」を唱えたことがありましたが、現実的には、女性は仕事か子どもかの二者選択を迫られると女友達から聞いています。仕事を選んだら子どもが持てないなんて、馬鹿げていませんか。結婚しても、子どもを持つのはキャリアを構築してから、と先延ばしにする人がいると聞きます。育児休暇に入っても、職場に復帰した際にかつての役職が保証されるわけではなく、降格させられることもある、とも。母親になっても会社にいられるけれど、仕事の内容は変化することが多いとも聞いています。これは日本にとって大きな問題と捉えるべきではないでしょうか。

 女性の権利が守られていると言われている国でも、蓋を開けてみれば女性が苦労していることは、もちろんあります。しかし、男女平等を世界ランキングで見ると、日本は先進国でありながら底辺レベルです。日本だけでなくどの国でも女性の権利は決して男性と同じとは言えませんが、アメリカと比較しても日本はかなり遅れています。これは非常に残念なことです。

 その原因のひとつに、高齢の男性がリーダーで居続けることが挙げられるでしょう。日本は技術がこんなにも発達しているのに、高齢者に合わせるために、いまだ紙文化を大切にし、FAXを使わせることもある。東芝やオリンパスといった大企業が低迷したのは、若い人の意見やアイディアに耳を傾けなかったからだと指摘されています。新しいアイディアが出ても、日本では若者の意見が取り入れられることは容易ではありません。紙文化が守られすぎていることと、高齢者が会社のトップに立っていることは、日本の根本にある問題点のひとつだと思います。

 私の母国イギリスでは、会社は年功序列ではなく、パフォーマンスがものを言います。何歳であろうとパフォーマンスが悪ければ、会社にい続けることはできません。これは資本主義的で無慈悲とも言えるかもしれませんが、日本はパフォーマンスに関わらず高齢者を雇い続けた結果、大きな企業が傾いているという側面もある。もちろん、生活の面で高齢者を守ることは極めて重要ですが、ビジネスの面でも守られ、陣頭に立ち続けた結果、従業員を露頭に迷わせてしまったら本末転倒です。

 こういった会社のあり方を含め、広い視野をもつためにも、日本人はもっと海外に出て外の世界を見る必要があると思います。10~15年前と比較すると、海外へ留学する日本人留学生も減っています。経済的な理由も大きいと思いますが、外の世界に出て、異なる考え方を母国に持ち帰ることは大きな意味があります。

 私が教えていた生徒たちの多くが海外に行ったことがありませんでした。日本にはアメリカやイギリスに住んだことのない英語の先生がたくさんいますが、生徒たちに英語を勉強するモチベーションを持たせるためには、先生自身がそういう経験を持つ必要もあるでしょう。

新型コロナウイルスが与えた影響

 とは言え、現在は海外に渡航するのは難しい状況です。COVID-19は、私のYouTube活動に様々な面で影響を与えました。

 まず、ステイホームによりYouTubeを楽しむ人が増え、私のチャンネルの登録者数も一気に増加しました。ただ、それに伴って広告収入も右肩上がりになったわけではなく、YouTubeで広告を展開する企業が減少したため、全体の広告収入は減りました。

 動画の内容は、屋外から室内撮影メインのものへと変化しました。私は旅動画を得意としていますが、新型コロナウイルスが蔓延している状況では、人に移動を勧めることは控えなくてはなりません。なので、外出自粛で自分自身2ヶ月ほどアパートに篭り、少ないアセットでも最大限のポテンシャルを活かせるようにとグリーンスクリーンの使い方を学び、自分の考えを語る動画にシフトしました。その時の勉強の成果が、自粛中にアップロードした「Why I DON’T Watch JAPANESE TV」です。

 この時の動画はここ1~2年に私が作ってきた動画の中で2番目に好評で、コメント欄が多いに盛り上がりました。1番人気の作品は「What Teaching English in Japan was REALLY Like」という、日本での英語教師時代の経験を語ったものです。どちらも慎重に脚本を書きましたし、画面の向こうのひとりひとりを意識しながら、友人に語りかけるように撮影しているので、視聴者に親近感を持ってもらえる動画にもなっていると思います。

 しかし、時間と労力を費やした大作よりも、考えをただ話すだけのこの動画の方が、喜ばれたというのは驚きました。

 私は屋外に出て難しい撮影に挑戦することに楽しみを見出しているので、そうした活動は今後も続けていきますが、今後は初心に戻ってトークメインの動画もバランスを見ながら増やしていこうと思いました。屋外に行って苦労して撮ったものだけが優秀なコンテンツと限らないということは認めなくてはなりません。

■コロナ禍で撮った「What Driving in Japan is REALLY Like」

 新型コロナウイルスが猛威を奮い出した2020年の1月2~月は、月に室内撮りの動画を3本ほどアップロードしましたが、その後はドローンの扱い方と車内撮影の方法を学びながら、日本で車を運転することがどういうことなのかを紹介した「What Driving in Japan is REALLY Like」を作りました。

 山形で英語教師をしていた頃は、学校が終わるとリラックスするために音楽を聴きながらひたすら車を走らせたものです。しかし、街中を運転することが好きではないので、仙台への引越しを期に手放してしまいました。

 最近になって改めて車を購入したのは、COVID-19も理由のひとつですが、これからはもっと田舎の方にも自由に足を伸ばしたいと考えたからです。車窓から見える日本の田舎の景色は、いつだって息を飲むほど美しく、心から魅せられます。都会が一番だと言う人もいますが、私は水田や山、神社といった田舎の風景に強く惹かれるんです。新型コロナウイルスで家から出られない人たちが少しでも開放的な気分になれるよう、外の景色を楽しめるようにと思いを込めて作りました。

 YouTube動画制作に時間がかかってしまい、アップロードの期間が空いてしまう際にはその穴埋めとして、ライブ配信を頻繁に行うようにしています。また、これはいつものことですが、自分がどんなプロジェクトを進行しているのか、クラウドファンディングPatreonで舞台裏映像を公開し、サポートしてくれている人たちに進捗状況を把握してもらっていました。コロナ禍でも前向きに活動しているということを、支えてくれている人たちに知っていてほしいのです。

(中川真知子)

撮影=池村隆司