数年前からひそかな盛り上がりを見せていた「車中泊」が、コロナ禍で再燃しているという。車中泊=生活に困っている車上生活者というイメージは払拭されつつある一方、いまだ残るリスクとは? 最新事情を追った。

◆「車中泊の旅」はコロナ禍救世主か?

 リーマンショックの煽りを受けて失業した女性が家を失い、車上生活の旅に出る物語『ノマドランド』が今年の米アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞を受賞。日本でも数年前から車中泊ブームになっているが、取材班の調べによると最近の傾向としては、以下の3つのタイプに分かれるようだ。

ドライブや旅行好きがコストや効率性を追求した結果
②経済基盤が潤沢でライフワークや趣味として楽しむケース
③事故や天災、経済的事情によりやむなく行うケース

 車中泊歴20年というカメラマンのndtk氏は①のタイプ。大ざっぱに行き先を決め、気の向くままに運転し、地元料理に舌鼓を打つ。「宿泊場所にかけるカネを節約して、その分ほかの楽しみに注力できるのが魅力ですね」

◆最大の問題点は就寝時の駐車場

 東日本大震災で住んでいたアパートが傾いてしまったのがきっかけで、車中泊を始めたエスパーヨシカワ氏は②のタイプだ。北海道から沖縄まで、パチンコパチスロの旅打ちを楽しんで今年で4年目。他に株式投資をしており、その間に持ち家も購入したため経済的には不安はない。道中ではジムに通って体を鍛え、地元の食材を車内で料理する優雅な車上生活だ。

ストレスゼロのこの生活を当分やめる気はない。車中泊がキツい年齢になったらまた考えます」

 だが、車中泊は当然楽しいことばかりではない。まず健康面では、就寝時に座席をフルフラットにしないとエコノミー症候群などを発症する可能性があるため、後部座席の改良は必須だ。

 最大の問題点は、就寝時の駐車場所である。近くに水場とトイレがあるのが理想的なので、前出のndtk氏はもっぱら「道の駅」の駐車場で仮眠。エスパーヨシカワ氏は24時間営業のジムやパチンコ店の駐車場を利用している。

トラブルに遭遇することも多い

 一方、チャンネル登録者40万人超えの車中泊YouTuber・らんたいむ氏は、そうした場所は一切使用しないという。

「そもそも道の駅国交省が宿泊はご遠慮くださいと発表している。レジャー目的や、私のように配信で収益を得ている場合は他人に迷惑をかけぬよう、人一倍注意するところ。極力、人のいない静かな場所を探して車中泊し、簡易トイレで用を足しています」

 また、突然の台風や地震などの災害、野生動物との遭遇、車上荒らしなどの事態に遭遇することも多々ある。

たまたま地元のヤンキーが集まる場所に駐車してしまい、取り囲まれたことも。彼らが興味を失うまで車内でやり過ごした後、すぐに発車して逃げました」(車中泊者)

◆家族連れの場合車内クラスターは免れない

 さらに、昨今の車中泊において無視できない問題が新型コロナウイルスの影響だ。コロナ禍において安全かつ気軽な旅行手段として車中泊を選択する人が急増しているが、感染対策を万全にしておかなければ、特に家族連れの場合は車内クラスターは免れない。

 ここ数年人気の軽キャンピングカーを購入し、休日に夫婦で各地を旅する動画を上げているクーピー氏は、仕事先の相手がコロナに感染し、「濃厚接触者」となってしまった。さらにその時、妻が出産を控えていたが病院では立ち会えず、退院後も自宅駐車場に停めた軽キャンの中で6日間、妻子と隔離された車上生活を送ることに。

 しかし大容量のポータブルバッテリーがあったのと、キャンピングカーのため自炊もできたのが不幸中の幸いだったという。

「ただ、いつもの旅とは違う閉塞感を感じていました」

新参者たちによるモラル崩壊が深刻化

 また緊急事態宣言中、県をまたいでの移動はモラル違反であるという批判もある。

ゴールデンウイーク中に車中泊を楽しむ人が急増したようですが、私は逆に予定していた山形への旅を断念しました。地元の人の気持ちも考えるべき」(ndtk氏)

 さらに道の駅トイレで洗濯をする、焚き火をする、夜中にエンジンかけっぱなしなどマナー違反も目立ち始め、宿泊や仮眠禁止になってしまった場所もあるのだとか。

「停車時はエンジンはかけない、ゴミは持ち帰る、大騒ぎしないなど、他の方に迷惑がかからないよう配慮した上で車中泊にトライしてもらいたい」(らんたいむ氏)

◆明暗がくっきりと分かれる車中泊

 一方で、貧困などによりやむなく車上生活となる人々も増加している。

 高橋宏輝さん(仮名・42歳)もアルコール依存症と度重なるカードローン、離婚による養育費などで家賃を払えなくなり車上生活に。勤務先の最寄りの道の駅に駐車しているが、「職場にバレたらどうなるかわからない」という。フラットシートは搭載されておらず、座席を倒して寝るため疲れは取れない。

「これから暑くなるし、ますます不安ですね。道の駅車中泊禁止の場所が増えているのも心配」

 アルコール依存症の治療は継続しているが、断酒はできていない。

 車上生活のおかげで飲酒量が半分に減ったというが……。

「勤務の前は飲まない、飲酒運転をしないことだけは守っていますが、続くかどうか……」

 高橋さんのようにやむを得ず車中泊をする人には明らかに負担が大きい。コロナ禍で一躍、注目を浴びる車中泊だが、その明暗はくっきりと分かれるようだ。

<取材・文/和場まさみ 撮影/根田拓也>

―[車中泊天国と地獄]―


らんたいむ氏の車内。限られたスペースに最新の調理器具と寝具、インターネット設備が無駄なく詰め込まれている