共同通信社2021年5月11日11時過ぎに「沖縄県尖閣諸島周辺の領海に10日午前から侵入していた中国海警局の船2隻が、11日午前8時40分ごろから相次いで領海外側の接続水域に出た。2隻は日本漁船1隻の動きに合わせて領海内を約21時間航行した」と配信した。

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 ほぼ1日も中国公船が日本の領海内を遊弋する状況は異常という以外にない。

 5月11日には別の2隻が接続水域を航行し、88日間連続で尖閣周辺において中国船が確認されているという。

着々と侵攻準備を進める中国

 米国のフィリップデービッドソン前インド太平洋軍司令官は在任中の3月9日、米上院軍事委員会の公聴会で、「中国はルールに基づく国際秩序を主導する米国にとって代わろうとする野心を一層強めている。他方、(米国の)通常戦力による対中抑止力が崩壊しつつあり、米国および同盟諸国にとっては最大の危機で、今後6年間のうちに中国が台湾に軍事攻撃を仕掛ける恐れがある」と証言した。

 4月30日に新しく就任したジョン・アキリーノ司令官は3月の指名承認公聴会で「この問題は大半の人が考えているよりもはるかに切迫している」との考えを示し、切迫の度合いははるかに高いと警告した。

 理論的には「6年間のうち」には「明日」も含まれるが、意識的には「今すぐ」ではなく「間がある」ように聞こえる。

 前司令官は「GDP(国内総生産)でも米国を指呼の間に収めるであろう習近平氏の次期政権間ということを示唆したかったのであろうが、アキリーノ新司令官は「そんなに間はないぞ!」と警告したわけである。

 台湾問題と尖閣問題は大いに関係している。にもかかわらず、日本国民の多くは無関心のようである。

 無関心の度合いを高めているのはコロナ禍の最中ということもあるが、それ以上に中国の巧妙な「サラミ戦術」にある。

 関係者以外は注意をひかないように、すなわちサラミをスライスするように、法などを整備しながら、気づいた時にはしっかり周りを固められているというものである。

 2020年12月26日に「国防法」を改正し、年明けから施行している。「中華民族の偉大な復興」が目標であることを明確にした。

 2021年2月には海上警備を担当する海警局に管轄領域で武器使用の権限を与えた「海警法」を施行した。

 当時こそ新聞も報道したが、今は何事もなかったかのようである。そして4月30日には海事局に領海を通行する外国船舶に退去を命じる権限を与える「海上交通安全法」を成立させ9月1日から施行する。

 尖閣を管轄領域とみる中国はこれらの法律で日本の漁船や巡視船を正当に追い出すことができるようになる。

中国の自信満々の発言

 2020年11月24日、中国の王毅国務委員兼外相が来日して茂木敏充外相と会談後、共同記者発表を行った。

 茂木氏が「尖閣諸島周辺海域に関する日本の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めた」と述べたのに対し、王毅氏は「一部の真相が分かっていない日本漁船が釣魚島周辺の敏感な水域に入る事態が発生している」と主張し、「引き続き自国の主権を守っていく」と強調した。

 翌日の菅義偉首相との会談後も、王毅氏は「偽装漁船が繰り返し敏感な海域に入っている。このような船舶を入れないようにするのはとても大事だ」と記者団に述べた。

 会談両日とも中国海警局の船が尖閣諸島周辺の接続水域を航行した。

 王毅氏の「敏感な海域」発言を聞いている日本以外の国民には、中国が〝主権を持っている管轄海域″に他国の漁船が国籍を偽装して侵入しているというように聞こえるのではないだろうか。

 こうした間違った発言を世界に向けて堂々とやり、いつしか嘘を「本当」にしていくわけである。

 その後の参院本会議で茂木外相は、王毅氏に対し「歴史的にも国際法上も疑いのないわが国の固有の領土で、有効に支配している。尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」と伝えたと釈明した。

 中国は聞く耳を持たずに、世界に向かって〝自分の管轄領域だ″と発信しているわけであるから、日本は中国の間違った立場を「その場で」「世界に向けて」否定しなければならない。

 凹型文明の日本は相手が間違ったことを言っても立場を忖度し穏やかな表現で事を荒立てないようにするが、凸型の中国は日本のそうした慮りをいいことにどんどん押してくる。

 そして、いつの間には尖閣は中国の管轄領域と世界に思い込ませてしまうのだ。

 王毅氏の一連の発言が3つの法律で根拠を得たかのようにみなされ、今後は主客転倒した取り締まりを行うようになるに違いない。

国民に尖閣の実態を知らせない日本政府

 実際のところ、尖閣諸島の現場の状況がどうなっているのか、漁船はどの付近で漁をしているか、日本国民は知っているのだろうか。

 これまでマス・メディアは「中国の海警船が接続水域に入った」、「〇時間領海に侵入し続けた」、「海上保安庁巡視船が近づき警告した」などと報道してきた。

 こうした報道から国民の多くは、尖閣諸島周辺で海保の巡視船が劣勢をものともしないで、接続水域や領海に侵入した中国船を追い出す素晴らしい活躍をしていると好意的に受け取ってきたのではないだろうか。

 しかし、国有化前後に何度も漁船で尖閣諸島に上陸を試みた女優でジャーナリストの葛城奈海氏が、数年前に筆者たちの主催した講演会で語ってくれた状況は全く違った様相で、驚くばかりであった。

 2021年2月25日付「産経新聞」のコラム「直球&曲球」の同氏記事が今日の状況を教えてくれる。

 海警法施行4日後の2月5日夜、石垣島から出漁した2隻の漁船(第1桜丸と恵美丸)が撮った写真を見ながら語っているものである。

「魚釣島のすぐそばで大きな顔をしている中国公船『海警1301』『海警2502』と、それに対峙しようという気迫を全く感じさせない海上保安庁巡視船という、驚くべき慣れ合いの光景だった」と書いているのだ。

 こうなったのは平成24年9月の国有化以降のことである。

「国有化までは、上陸こそ禁じられていたものの、手を伸ばせば島に届くくらい近づくことができた。漁師たちは島の目前で、潜り漁も行っていた」が、領有化後は「『1海里(1852メートル)以内への接近』を海保に阻まれるようになり、漁師たちも潜り漁ができなくなった」という。

 これだけならばまだしも、「日本国民を遠ざける一方で、(中略)中国公船は領海内(筆者注:12海里)どころか、島々の至近をわが物顔で遊弋している」というではないか。

 ざっくり言えば、日本人が入れない1海里以内に中国船は入って遊弋しているということである。

 この一文だけでも、国民は唖然とさせられるのではないだろうか。

 恵美丸が「海警1301」の後ろにつけても中国公船は何の反応もせず、左舷を追い越すように航行すると、しばらくして巡視船が間に入ってきたが、「かつてのように警告の汽笛を鳴らすこともなく、漁船を守るポーズをしている感じ」という。

「そんな実情を見せたくないのか26年以降、私たちは出港さえ認められなくなった」と葛城氏は言い、今回の同行申請が「政府によって阻止されたことは到底納得できない」と内幕を明かす。

 要するに、日本の漁船よりも島に近いところを中国公船が遊弋しているが、巡視船は警告もしないし、況してや追い出しもしない状況を告発しているのだ。

 王毅外相が「一部の真相が分かっていない日本漁船」「偽装漁船」と表現したように、現場はすでに主客転倒しているようである。

戦略のない日本の惨状

 1972年の日中国交正常化で訪中した田中角栄首相が尖閣を持ち出そうとしたとき、周恩来首相がさえぎった。

 友好的な雰囲気の中での話題としてふさわしくないということもあったであろうが、「明確化したくない」深謀を秘めていたからであろう。

 国交正常化という時にこそ提起して決めておかなければ、後で問題化して収集がつかなくなる恐れがある。

 特に長期戦略に長けた中国において、しかも都合悪い約束などは反古にして恥じない国との間ではそうである。

 雰囲気にのまれた幼稚な日本の外交はその後も続いた。1978年に日中平和友好条約の批准書交換のために来日した鄧小平尖閣諸島の棚上げ論を展開した。

 そのまま見過ごして日本が何の手も打たないうち中国は1992年に領海法を制定して自国領に組み込む。中国の「尖閣窃盗」は明らかで、日本はいろんな手段や広報で、中国の言い分を否定すべきであった。

 日本は尖閣諸島を目に見える形で施政権下に収めるチャンスは国交正常化前から何回もあった。しかし日本には尖閣諸島の重要性についての認識がなかった。

 国交正常化後も日本の力が勝っていたが日本は動かなかった。

 中国の執拗さに対して、日本の淡泊などとは言っておれない戦略の不在であり、危機管理意識の無さである。こうした意識が憲法問題に反映されていることはいうまでもない。

尖閣諸島開拓の記念碑

 いまさら言うまでもないが、尖閣諸島が日本の施政権下にあったことは紛れもない事実である。現在は石垣市が「尖閣諸島開拓の日」(1月14日)を設けて各種行事も行っている。

 同市には尖閣諸島を開拓し、事業を行った事績を祈念して「古賀辰四郎 尖閣諸島開拓記念碑」があり、現在は同地に駐屯する自衛官らも記念日に清掃奉仕など行っている(自衛隊OB機関紙「隊友」(令和3年3月15日付)による)。

 古賀辰四郎は1856年に八女市福岡県)に生まれ、23歳の時、特産物である八女茶の販路拡大を求めて沖縄に渡り、アホウドリの羽毛や夜光貝を採取・輸出して財を成す。

 1895年に政府が尖閣諸島を日本に編入すると、魚釣島と久場島を拠点に鰹節製造事業などを展開し、最盛期には200人以上の島民が定住して「古賀村」とも呼ばれたという。

 1909年に功績を認められ日本政府から藍綬褒章を受賞、1918年に死去した。

 1919年冬、福建省(中国)の漁民31人が遭難し、魚釣島に漂着した。石垣村民が救助したことに感謝し、翌20年に中華民国の駐長崎領事が感謝状を出している。

 すでに見つかっていた感謝状は救助者あてであったが、中国漁船の巡視船追突事案後に見つかった感謝状は村長宛となっている。

 文面はほとんど同じで、魚釣島を「和洋島」として、「日本帝国沖縄縣八重山郡尖閣列島内和洋島」と明記している。

 敗戦後、沖縄が米国の施政権下にある時、久場島が米軍の射爆場となった経緯も、戦前まで日本の主権下にあったからにほかならない。

主権行為としてやるべきこと

 安倍晋三前首相時代の習近平主席との首脳会談でも東シナ海を平和の海にするという合意などを行い、日本にはなんとしても平穏に解決したいという思いが強かった。

 しかし、昨2020年には、接続水域は言うに及ばず領海侵犯も頻繁で年間333日も周辺水域に滞在している。

 平和裏に解決という日本の思いは儚い一方的な夢でしかなかったようだ。もはや何もしないで無人島のままで傍観できる状況にはない。

 国際社会に向けて日本の施政権下にあることを明確にする必要がある。政府も公務員を常駐させるなど、かつては公言していたがいまだに実行されていない。

 公務員常駐の件で、4月初旬には自民党有志が勉強会を発足させてもいる。常駐以外にも船泊、ヘリポート、灯台、さらには放牧されたヤギなどの生息状況をはじめとした自然環境観測施設なども提案されている。

 山田吉彦・東海大学教授は米国が北西太平洋の離島を国の管理で「海洋保護区」に指定し、船舶の通過や観光、動物の捕獲を制限したように、尖閣諸島を「海洋保護区」として国際的な調査団などを入れるなど、世界の目で東シナ海の平和を監視する体制を提案している(「絶対に知っておきたい最新常識62」、『文藝春秋2013年4月号所収)。

 西原正・平和安全保障研究所理事長はどこまでも「戦わずして勝つ」戦略から、中国の対日依存を高める品目を増やすことのほか、尖閣に簡易気象観測所を設けて尖閣地域を天気予報に含めること、日本領であった歴史的事実の更なる喧伝、同諸島防衛の日米協議体制の立ち上げなどを提案している(「尖閣は『戦わずして勝つ』で守れ」、「産経新聞」令和2年11月16日付「正論」)

 航空自衛隊出身で東洋学園大学客員教授の織田邦男氏は、1970年代以降使用していない米軍専用射爆撃場である久場島・大正島を使い、日米共同で射爆撃訓練を実施することも挙げている(『正論』令和3年3月号、「隊友」令和3年4月15日号)。

 利用できる地積がほとんどなかったために放置されてきた視点からは、環境保護との兼ね合いもあるが、まずは埋め立てによる地積の確保があってもいいのではないかと思量する。

おわりに

 米国は中国のウイグル人に対する所業を「ジェノサイド」と認定し、英国も同認定を検討している。NATO北大西洋条約機構)も中国を「脅威」と認識し、「自由で開かれたインド太平洋」とするために空母や艦艇を派遣する計画である。

 国際社会から見れば、いまやインド太平洋が焦点になりつつあり、日本からみれば台湾や尖閣諸島を含む沖縄周辺が当面の課題である。

 しかし、中国が2010年に施行した国防動員法によって、日本にいる中国人が動員されることを忘れてはならない。この法律によって、日本にいる中国人が立ち上がる義務を負わされているからである。

 日本には技能実習生や留学生などを含む若者約50万人がいる。一部は来日前に「礼儀作法」という名目で人民解放軍の指導を受けているとされる。

 また、北海道から沖縄までの日本の至る所の土地や山林が中国系資本で買い漁られているが、立ち入り禁止等も多く、行政当局による実態把握が行われていない。調査はもちろん、無人機等による監視等も必要ではないだろうか。

 2008年北京オリンピック時の長野聖火リレーでは暴力事件を起こし、2011年東日本大震災時には新潟県で貸し出した体育館に日本人を立ち入れなかったことなどから、有事に彼らがトロイの木馬となって全国で立ち上がり、日本が南西地方に集中することを阻害しないとも限らない。

 しかし、国民のほとんどはそこまで考えることはない。

 作家の五木寛之氏は、かつては「マサカ」にあまり驚かなかったが、「近ごろ、専門家や情報通と呼ばれる人たちの予想が外れることが多(く)」、「マサカ、マサカの現実にぶつかる」という。

 そして、こうした状況を冗談に「心配停止状態」と呼ぶことがあるという(「『マサカ』の時代」、『新潮45』2018.1所収)。

 心配停止は「心肺停止」と通じるものであり、国民の多くが尖閣を「我がこと」として考えない状況は、「国家」の死に繋がりかねない。

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