北朝鮮の首都・平壌の郊外にある平安南道(ピョンアンナムド)の温泉(オンチョン)郡。その名の通り、名湯と呼ばれる龍岡(リョンガン)温泉があり、外国人観光客に人気の「ハマグリのガソリン焼き」でも知られている。

そんな温泉郡にある協同農場で今月初旬、稲の苗が枯れてしまったという。おりしも、朝鮮労働中央委員会と内閣の農業省が、都市住民を大量動員して一気に田植えを行う「田植え戦闘」に、全国規模で突入するとの指示文を各道の農村経営委員会に下す直前のことだった。

農場の関係者は大慌てで苗の確保に駆けずり回っていると思いきや、牢屋の中にいるという。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

温泉郡の中心部にある協同農場は、トウモロコシ、キビ、大豆がメインだった昨年までとは異なり、稲の生産ノルマが大幅に増やされた。農場の人々は、大急ぎで田んぼを増やすことになったが、稲作の経験に乏しかったため、冷床苗代に植えた苗のほとんどが黄色くなって枯れてしまった。

郡当局は、これは大事件であるとして、農場管理委員長、里(末端の行政単位)の朝鮮労働党委員長、農場の技師長、作業班の指導員など、農場のイルクン(幹部)をあらかた逮捕してしまった。

取り調べにあたっている検察所は、農民があぜ道に寝泊まりして苗の管理をしていたというのに、農場のイルクンたちはそれを行わなかったことを問題視した。また、海と塩田が近く、真水でも塩分が混じることがあるため、水の管理を徹底しなければならないが、イルクンたちはそれを怠ったという容疑もかけた。

「管理不行き届きで苗床にあった稲がすべて枯らせて、今年1年の農業をダメにした。これは党の政策の決死貫徹精神が不足していたからだ」(検察所)

逮捕されたイルクンには、国家財産浪費罪で10年以上の労働教化刑(懲役刑)が下されることが予想されており、家族たちは泣きながら面会に通っているという。

教化所は食糧事情が劣悪で、最も少ない受刑者には1日100グラムにも満たないトウモロコシ飯しか出されない。餓死を避けるためには、家族からの食べ物の差し入れが欠かせない。

地域住民からは「農業がそれほど大切ならば、(平安南道の)農村経営委員会の技術イルクンや研究者が来て、(苗の管理について)指導をすべきではなかったのか」「庶民ばかりを苦しめて責任をなすりつけ、少しの過ちでも党の政策の貫徹精神の不足で反動分子扱いするのだから、恐ろしい世の中だ」などと嘆いているという。

今回の件だが、「国家経済発展5カ年計画」の初期段階で、些細な過ちを犯した者を見せしめにし恐怖心を煽ることで無理やりノルマに持ち込むという目的があるものと考えられる。また、権力闘争のネタに使われた可能性も考えられる。

朝鮮人民軍傘下「第1116号農場」を現地指導した金正恩氏(2016年9月13日付労働新聞より)