なぜ、モンスターは野に放たれたのか……?

 ’19年、茨城県内で起きた一家4人殺傷事件で茨城県警は岡庭由征容疑者(26)を逮捕した。

◆矯正不可能な「元少年」を社会はどう包摂すべきか?

 岡庭は中学生の頃から、セミやカエルを切り刻んで遊び、高校では切断した猫の生首を教室に持ち込むなど、少年時代から「サイコキラー」の片鱗を見せていたという。

 異常行動は年を重ねるごとにエスカレートし、岡庭が16歳だった10年前には、隠し持っていた刃物で中学3年生の女子生徒と小学2年生の女児を襲撃。

 この「連続通り魔事件」の公判で岡庭は、凶行に用いた包丁に付着していた被害女性の血を舐め、自慰行為に及んだことを告白しているが、少年法の壁で刑事罰を受けることはなかった……。

「『第2の酒鬼薔薇』のようだ」

 今回の事件はまだ容疑段階であり、全容解明が待たれるが、岡庭の常軌を逸した残虐性に、’97に年神戸連続児童殺傷事件を起こし、社会を震撼させた酒鬼薔薇聖斗こと少年Aとの類似点を指摘する声も多い。

◆酒鬼薔薇聖斗こと少年Aとの共通点

 精神科医の片田珠美氏は岡庭と少年Aとの共通点をこう分析する。

「2人とも性的サディズムです。他人を傷つけたり殺したりすることに性的快感を覚えており、性衝動と攻撃性が密接に結びついています。また、猫を殺すなど小動物を虐待することから始まって、徐々に攻撃をエスカレートさせ、ついには殺人に至った点も共通しています。

 さらに、岡庭容疑者も少年A動物虐待や殺人そのものに性的興奮を覚えており、快楽殺人犯です。ふつうの人が性行為で得る快楽を、殺人で得ていると考えられます」

 連続通り魔事件後、岡庭は家裁から検察に逆送される。再犯の恐れもあり、刑事裁判にかけられたが、精神鑑定で「広汎性発達障害」と診断がおり、医療少年院に送られることとなった。

◆当時の司法判断は正しかったのか?

 果たして、当時の司法判断は正しかったのか?

「岡庭容疑者はゲミュートローゼ(情性欠如者)である可能性が高いと思います。これは精神病質人格の一種で、思いやりや良心を持たず、反省も後悔もしない。だから、人を殺しても罪悪感を覚えない。10年前の通り魔事件の裁判ではニヤニヤして反省の色が見えないと報じられましたが、ある意味、当然です。医療少年院で治療を受けてはいますが、更生は極めて難しい。

 彼は’18年に医療少年院を満期出所し、’19年に茨城一家殺傷事件を起こしているので、医療少年院で治療にあたった精神科医を批判する向きもあるようです。しかし、満期出所なので、少なくとも早めに野に放ったわけではない。しかも担当した精神科医が治療困難と感じていても、現行法では規定以上に長く少年院に留め置くことはできません」

◆「また起こすだろう」繰り返される悲劇

 神戸連続児童殺傷事件、光市母子殺害事件をはじめ、少年による数々の凶悪事件を取材し、ルポルタージュを刊行してきたジャーナリストの門田隆将氏は「またも起きてしまった」と悔しさをにじませる。

「快楽殺人者たちは他人の痛みに対して、共感性を持たず、生きものに憐憫の情を抱くということがないモンスターです。岡庭もそう。周りの誰もが『また事件を起こすだろう』と思っているのに少年法によって止められない。どうして裁判では医療少年院の期間を5年程度と決めたのか、裁判官は遺族にきちんと説明するべきです」

 来春、民法改正によって成人の年齢が20歳から18歳に引き下げられる。それに伴い、少年法改正の議論も今国会で大詰めを迎えているが、改正案では18~19歳を「特定少年」に位置付け、少年法の保護対象のまま。ただ一部の犯罪については、これまでは原則匿名だった実名報道が起訴後は解禁される。

「そもそも山口二矢(’60年に日本社会党浅沼稲次郎委員長を殺害)や永山則夫(’68年に4人を連続射殺)の名前や顔を知っている人はいるのではないでしょうか? それは新聞やテレビが報じたからです。彼らは犯行時に17歳と19歳で未成年でした。

 実名や写真を禁止する少年法61条ばかりが取り上げられますが、少年法1条には、少年法の目的は『非行のある少年に対して』特別の措置を講じること、とある。つまりカッとなり、殴り合って殺してしまったなどの殺人ならまだ非行の延長ですが、最初から殺意を抱いて人を殺すことは非行とはまったく違います少年法の適用範囲をその段階で超えているわけです。だから凶悪事件の少年は実名で報じられていたのです」

◆「犯人には“犯罪者にならない権利”もある」

 被害者遺族だけでなく、多くの加害者への取材も重ねてきた門田氏は、「犯人には“犯罪者にならない権利”もある」と訴える。

「取り調べでの供述や裁判の証言で、サイコキラーたちは自らの性癖や欲望を赤裸々に語っています。岡庭も通り魔事件で逮捕されたとき、捜査員に『人を殺したかった』と語っています。それは将来『俺を殺人者にしないでくれ』という心の叫びでもある。彼らには、“犯罪者にならない権利”もあるのです。

 たとえば、再犯率の高い性犯罪者には、米国の半分以上の州で出所後もGPSをつけさせています。イギリスフランスドイツ、韓国もそうです。日本では日弁連や一部のリベラルを称するマスコミが、そのような社会全体で犯罪を防ごうという声を人権無視だと潰してきた。その陰で悲劇が繰り返されているのです」

 次の「酒鬼薔薇聖斗」の出現は防げるのか。

◆岡庭は新たな事件を計画していた?

 ’20年、埼玉県警は殺人予備容疑で岡庭の自宅を家宅捜索した。自室からはサバイバルナイフや鉈など計78本の刃物のほか、有毒な硫化水素を発生させる原料となる約45kgもの硫黄や猛毒のリシンを含有するトウゴマ、さらには熊撃退用の催涙スプレーも押収されている。岡庭は次の標的を探していたのか。

<取材・文/週刊SPA!編集部>
※週刊SPA!5月18日発売号より

写真/時事通信社