5月17日、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』に炎柱・煉獄杏寿郎が“参戦”すると発表された。
2020年3月に制作が発表されて以降、これまで小出しで情報が解禁となっている同タイトル。昨秋公開された劇場アニメが爆発的ヒットを記録したことで、注目度・話題性もここにきてさらに高まりを見せている。
(参考:【写真】『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』の美麗なアニメーション)
『鬼滅の刃』にとって初となる家庭用ゲーム作品は、商業的成功と評価を両立できるのだろうか。本稿では、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』が認められるために乗り越えるべき課題を考える。
■“国民的作品”となった『鬼滅の刃』 初のゲームタイトルは3D対戦格闘に
『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』は2021年、アニプレックスから発売予定の対戦アクションゲーム。いまや説明不要の人気作品となった『鬼滅の刃』を原作とするメディアミックスタイトルだ。対応プラットフォームは、PlayStation5、PlayStation4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)となる予定で、『NARUTO -ナルト-』シリーズなど、漫画・アニメ作品のゲーム化に定評のあるサイバーコネクトツーが開発を担当。映画の大ヒットでさらに話題性を増す、2021年屈指の注目タイトルとなっている。
同タイトルには、今回発表となった煉獄杏寿郎のほか、竈門禰豆子や我妻善逸、嘴平伊之助、冨岡義勇、鱗滝左近次、錆兎、真菰、胡蝶しのぶといった主要キャラクターたちの“参戦”が決まっている。
メディアミックスするたびに異例のヒットを記録してきた『鬼滅の刃』。ゲームの分野ではどこまでの結果を残せるのだろうか。
■商業的成功と評価は両立可能?『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』に課せられた“3つの課題”
このように発売が待望される『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』だが、ゲーム化にあたり、懸念点がないわけではない。注目度・話題性相応の評価を獲得できるかは、“3つの課題”をクリアできるかにかかっていると言える。
1つ目の課題は「対応プラットフォームと支持層の乖離」だ。
先に述べたとおり、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』は、PlayStationやXbox、PCを対象にリリースされる。どちらかと言えば、これらはコアゲーマー向けのプラットフォームで、ユーザーが原作のファン層に合致しているとは言い難い。もともと少年漫画誌で連載されていた『鬼滅の刃』は、アーリーアダプターこそ、こうしたゲーム機のメインターゲット(2~30代の男性)を主な層としていたが、ある程度の人気を獲得してからは、キッズ層やシニア層、女性へと支持を広げ、“国民的作品”となっていった。彼らにとって馴染み深いプラットフォームは、ファミリー機のNintendo Switchであるため、原作への支持の大きさが同タイトルのセールスへとつながらない可能性がある。
この課題を解決するためには、
・『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』が圧倒的評価を獲得し、ライト層が対応ハードを購入する動機となる
・やがてスタートするアニメ2期をはじめとしたメディアミックスの成功がさらなる熱狂を生み、ゲームへの注目度が高まった結果、ハードごと購入されるほどの需要が生まれる
・Nintendo Switchへと移植される
といったプロセスが考えうるが、どれも現実的ではないだろう。この課題が同タイトルの成功へと与える影響は大きいに違いない。
2つ目の課題は、対戦格闘ジャンル特有のハードルの高さについてである。
対戦格闘はFPSなどと並び、最もハードルの高いゲームジャンルに数えられる。初心者がオンライン対戦でそれなりの勝率となるには、数か月の努力を必要とするケースも珍しくない。上達のためには(未経験者にとっては複雑な)コマンド入力の安定が大前提であり、その先にコンボの習得や立ち回りの強化、キャラ・技の相性の把握など、さらに複雑な要素が山積する。経験者からすると、“未経験者にはおすすめできないジャンル”の筆頭なのだ。
また、対戦ジャンル特有のプレイヤーのマナーの悪さも、ライトユーザーの体験を悪化させる恐れがある。
・サブアカウントを使うなどして低ランクを騙る上級者が、プレイの覚束ない初心者を一方的に痛めつける「初心者狩り」
・決着後に敗者に対して侮辱的な態度をとる「煽り」
・勝負に納得がいかなかったことを理由に、プラットフォームのメッセージ機能を使って罵詈雑言を相手へとぶつける「ファンメール」
こうしたネガティブな要素は、対戦ジャンルの日常だ。
『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』が仮に前段の課題をクリアできたとしても、その先にはジャンル特有のハードルの高さ・マナーの悪さが横たわる。おそらく同タイトルには、簡易コンボといった“初心者救済要素”が盛り込まれると予測するが、既存の対策のみでライトユーザーが本当の意味で楽しめるタイトルなるかは、正直微妙なところだろう。初めて対戦格闘に挑戦するプレイヤーが多いと想定されるだけに、評価へと直結するであろうジャンル特有の課題を見つめておかなければならない。
最後に挙げる課題点は、原作のある作品を対戦格闘にする難しさについてだ。
対戦格闘というジャンルにおいては、能力や特性、技の種類・強さなどによって、キャラクター間に性能格差が生まれやすい。こうした差はネット上で標準化・一般化され、各キャラクターには「SS」から順に、個別のキャラランクが割り振られていく。長期的にはアップデートなどで調整されていくが、常時この格差は存在し、最上位と最下位では致命的な差となっている場合も珍しくない。ここに原作のある作品を対戦格闘にする難しさがある。
ご存知のように『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』は、漫画『鬼滅の刃』を元にしたゲームタイトルであり、原作はすでに完結を迎えている。つまり同タイトルは、完成されたストーリーの上に制作された対戦格闘であるのだ。この点が作品の評価やゲームバランスに与える影響は大きい。それはなぜか。原作シナリオとの決別が難しいためだ。
例えば、今後参戦が予想される敵側のトップ・鬼舞辻無惨が、調整によって最弱キャラとなれば、原作の世界観を壊すゲームバランスに異を唱える者も出てきかねない。一方、そういった状況に“忖度”し、常に主人公の竈門炭治郎が最強キャラの一角なのであれば、対戦格闘としてゲーム化する意味はゼロに近くなる。
過去に私がプレイしたタイトルでは、ストーリーの展開によってキャラの性能が乱高下した上、シナリオの一線を離れたキャラは、二度と上位のランクに割り振られることがなかった。特定のキャラを愛用していく傾向が強い対戦格闘において、この問題はプレイヤーのモチベーションにもつながるクリティカルな問題だ。特に原作の人気が先行する『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』においては致命的と言える。この課題をいかにクリアするかもまた、同タイトルのゲーム作品としての評価を二分する重要なポイントとなるだろう。
とはいえ、これら3つの課題をクリアすれば、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』は、話題性に勝るタイトルとなれる可能性を秘めている。商業的成功と評価を両立できるか。シリーズ化へ向けての試金石となりそうだ。
(結木千尋)
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