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あたらしい時代に向けた大きな転換期

text:Kenji Momota(桃田健史

2021年5月23日(日)、日本と欧州でモータースポーツに関する大きなニュースがあった。

【画像】ホンダF1とモナコ【写真で振り返る】 全25枚

まずは、日本での「トヨタの水素」だ。

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水素パワートレイン    トヨタ

舞台は、富士スピードウェイ静岡県駿東郡小山町)で開催された、「スーパー耐久(S耐)シリーズ 第3戦 富士24時間レース」である。

スタート時間は2021年5月22日(土)午後3時で、その24時間後となる23日(日)午後3時にチェッカーフラッグが振られた。

ST-Qクラスに章典外として参加したトヨタ本社直轄下のチーム、カーナンバー32番「ORC ルーキーレーシング カローラH2コンセプト」が358周を走り24時間を完走した。

総合トップのDAISHIN GT3 GT-R(763周)とは周回数で2倍もの開きがあるが、水素を内燃機関で燃焼させるレースマシンが大規模レースに出場するのは今回が世界初。

大きな技術的チャレンジを成し遂げたといえる。

またレースで使用する水素にもこだわりがある。産学官で連携して運用する、福島水素エネルギー研究フィールドで精製された再生可能エネルギー100%由来の水素である。

さらに、同マシンには「モリゾウ」こと、トヨタ自動車の豊田章男社長が自らステアリングを握った。

F1やルマン24時間参戦経験がある小林可夢偉選手ら5人のプロレーサーと共にレースに挑んだことが世界的に大きなニュースとなった。

キモは「アジャイル開発」 必然に

スーパー耐久は、1991年から市販量産車をベースに日本を発祥として誕生したレースでプロとアマチュアのレーサーが仲間となり集う場だ。また、スーパー耐久のレース主催団体は「限りない資源を大切に使い、環境に配慮しながらモータースポーツ社会の発展につなげていくことを目指す」と開催の理念を掲げている。

そうしたスーパー耐久に、トヨタが参戦を決めたのはごく最近だ。

豊田社長は「2020年、わたしはコロナ禍において(豊田市内の)研修所で『疎開生活』をしていた。そんなときに、技術部がわたしにクルマに乗って欲しいと研修所の横にあるダートコースにいろいろなクルマを持ち込んでくれた」という。

そのうちの1台が水素エンジン車だったのだが、そこから1年以内での実戦参加はトヨタとしても異例の早さだ。

この点についてガズー・レーシングカンパニープレジデントの佐藤恒治氏は、「モータースポーツでの開発時間軸は圧倒的に早くて、アジャイルだ」と表現する。

アジャイル開発はソフトウエア開発などで使われることが多く、小さい単位のプロジェクトを集中して短期間に行う手法を指す。

量産車の開発では今後、CASE(コネクテッド/自動運転/シェアリングなどの新サービス/電動化)に向けて、まさにアジャイル開発が必然となる時代。

今回のレース完走は意義深い。

ホンダがモナコ優勝 セナ以来32年ぶり

富士24時間レースがフィニッシュした約9時間後、日本では5月24日に差し掛かろうとしていた頃、欧州モナコの地ではホンダが美酒を浴びていた。

F1世界選手権2021シーズン第5戦のモナコグランプリで、レッドブルレーシングホンダマックス・フェルスタッペン選手が優勝した。

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マックス・フェルスタッペン    ホンダ

ホンダモナコグランプリを制するのは、なんといま(2021年)から32年前。勝者は、あのアイルトン・セナだった。

今回のレースでは、フェルスタッペン選手は予選2番手だったが、ポールポジションを獲得したフェラーリシャルル・ルクレール選手が予選時のクラッシュの影響で決勝は出走できなかったため、フェルスタッペン選手がトップでスタートしレース全体を上手くコントロールした。

これで今季2勝目となり、ドライバーズポイントはトップに躍り出た。

また、ホンダとしては通算80勝目となり、マニュファクチャラーズポイントで30年ぶりにトップに立った。

ホンダF1は第1期(1964~1968年)、第2期(1983~1992年)、第3期(2000~2008年)、そして現在の第四期となり、今シーズンをもって事実上の完全撤退となる。

そうした時期に、セナ時代のホンダF1黄金期を彷彿させる今回のモナコ勝利を見て「F1撤退を撤回してほしい」というファンも多いだろう。

だが、ホンダとしてF1撤退の意思は固い。

来たるべき2040年目標への試練

2020年10月のホンダF1撤退発表時、当時の八郷隆弘社長は「来たるべきカーボンニュートラル時代を見据えて、人材や予算などを思い切って振り分ける」と次世代ホンダに向けた開発体制の大転換を強調した。

その半年後の2021年4月、三部敏弘社長は社長就任会見の中で「2040年までに、グローバルで新車EV/FCV 100%」という高い目標を掲げた。

また、モータースポーツについて三部社長は、国内スーパーGTを継続するとともに、EVなどで「ホンダとして参戦する意義があるものがあれば、参戦を検討する」と発言している。

前述のトヨタ水素エンジン車のように、ホンダの次世代量産車をアジャイル開発する場として、モータースポーツを活用する可能性は十分にあるということだ。

ただし、その昔のように、「走る実験室」「走る広告塔」といった発想だけでは、ホンダの本格的なレース参戦はないだろう。

なぜならば、ホンダがこれまで掲げてきた「パワード・バイ・ホンダ」という企業思想が転換したからだ。

パワーは、単なる原動機やモーターを指すのではない。

新たに「意思を持って動き出そうとしている世界中全ての人を支えるパワーとなることで、人々の可能性を拡げていく」と定義している。

セナのモナコ制覇から32年目の優勝を受け、ホンダが新たな道を歩み始めていることを実感した。


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