宝塚歌劇団の男役として人気を博し、退団後は女優、タレントとして活躍している遼河はるひさん。インテリアやアードが大好きとのことで、今気になっているガラス作家、イイノナホさんのショップとアトリエを訪れました。
キラキラとした作品を間近にして感動したという遼河さん。「いつか素敵なガラス作品が似合う家に住みたい」という願いをますます深めることになりました。
遼河はるひさんが、ガラス作家・イイノナホさんを訪問「作品が似合う家に住みたいな」直接作品に触れられるショップをオープン
遼河:キラキラしたものがいっぱい! 素敵なお店ですね。
イイノ:2019年にここ、千駄ヶ谷にオープンしたのですが、それまではオンラインショップや取引のあるお店で購入していただくという形でした。作品を直接見ていただけますし、オーダーも受け付けています。
遼河:大きなシャンデリアも、とってもキレイ。あれはどういうところで使うんですか?
イイノ:あのシャンデリアは、2019年、銀座のポーラ ミュージアム アネックスで展覧会を行ったときにメインの作品として制作したもので、「時の花」といいます。400枚くらいのガラスがぶら下がっていて、もちろん1枚1枚模様がちがいます。
遼河:作品のインスピレーションは、どこからくるんですか?
イイノ:とくに何かからインスピレーションを受けるということはないのです。ひとりの時間、集中しているときに出てくることが多いですね。
遼河:そうなんですね。
イイノ:作品のことは常に考えているので、何も思いつかないとか、何もつくれなくなるということは、これまでなかったです。つくりたくなくなったこともありません。ただ、これでいいのか、と自問自答することはありますね。
(左)1枚1枚手づくりされた花びらのようなガラスのパーツに見惚れる遼河さん。「こんな素敵なシャンデリアが似合う空間が欲しいです」。(右)400枚のガラスのパーツを使って花を表現したシャンデリア「時の花」。そっと回すとガラス板同士が触れ合って、美しい音が鳴ります。
コロンとしたフォルムのフラワーベース「Balloon vase」(1万780円)。温もりが感じられる、やさしい形と色みがイイノさんの作品の特徴です。
「この指輪、かわい~」とテンションが上がる遼河さん。「日常的に使うには少し重いですが、パーティなどにオススメです」(イイノさん)。
気に入ったものを見つけて空間づくりのきっかけに
遼河:何がきっかけでガラス作品の制作を始めたのですか?
イイノ:小さい頃から光っているもの、キラキラするものが大好きでした。ガラスを使って作品をつくり始めたのは20歳を過ぎた頃。本を読んでいたときに、「すべてのものは溶けてガラスになる」という言葉に出会い、「ガラスって何だろう」って。ガラスという素材自体にすごく魅力を感じました。それまではなんとなく日常品のイメージだったんですけど(笑)、身近なものすぎて深く興味を持てませんでした。25歳くらいから、本格的に吹きガラスを始めました。
遼河:どれもすごく素敵ですけど、飾れるような空間がまだなくて…。
イイノ:シャンデリアなどは注文を受けてお客様の空間に合うものをつくらせていただいていますので、気軽にご相談ください。「これを飾りたい」と言って店頭のものを買ってくださる方もいるんです。
遼河:いいですね! それに合わせてソファの色も決めたりとか。
イイノ:気に入ったものが見つかったら、それをきっかけに空間づくりを考えるのもいいと思います。
イイノさんの作品はカラフルでかわいらしく、カラーバリエーションが豊富なのも特徴。工房の棚には、色ガラスの素となる材料もずらりと並んでいます。
1300℃で溶かしたガラス。窯から入れたり出したりを繰り返しながら、徐々に形を整えていきます。細かい部分はガスバーナーで溶かしながら成形。
東京・中野にあるイイノさんのガラス工房「iino naho glass garden」で、作品づくりを見学する遼河さん。熱せられて赤く膨らんだガラスは、素早く成形されていきます。
工房内の壁には、溶けてやわらかくなったガラスをつかんで形を整えたり、余分な部分を切り落としたりするのに欠かせない道具の数々が、整然と並んでいます。
カラフルでキュートなシャンデリア「verysweet」(36万9000円から/受注生産)は、イイノさんの代表作のひとつ。NYのニューミュージアムにも採用されています。
窯は1300℃に!想像以上に過酷な制作現場
夏の作業場内の室温は50℃以上になるそう。加えて、溶けたガラスを形づくるのは時間との勝負。なのに、イイノさんは淡々と、エレガントに作業を続けます。
イイノ:工房の中はとても暑いですが、大丈夫ですか?
遼河:寒がりなので背中があったかくてちょうどいいです(笑)。番組で吹きガラスの体験をさせてもらったことがありますが、夏は暑くて大変でしょうね。
イイノ:冬はあたたかくて心地良いですが、夏は工房内の温度が57℃くらいになるので、慣れていない人には相当過酷だと思います。ガラスを溶かす窯の温度は1300℃になるのですが、ガラスが溶けるところって、まるで生き物のようで、とてもキレイで神秘的。これを見られるのはガラス作家の特権だと思っているので、暑さを忘れてしまう時があります。
その後、急激に冷やすと割れてしまうので、徐冷窯に入れて、徐々に温度を下げていきます。窯の火はずっと焚き続けていて、火を消すのは1年に1回です。
遼河:火はつけっぱなしなんですか?
イイノ:そうなんです。一度火を消すと中の窯が冷えて割れてしまうので、全部取り替えなくてはなりません。
遼河:どういうときに消すのですか?
イイノ:夏、「もうこれ以上耐えられない」というときに(笑)、メンテナンスを兼ねて。あとは年末とか。そういうときは、1か月くらい窯をお休みします。
窯の火を消すのはいちばんホッとできるときでもあるのですが、なんとなく寂しいような気持ちもあり、毎回、不思議な感覚を味わっています。
イイノさんの作品をチェック!
イイノさんの作品はカラフルで華やかなシャンデリアのほか、身近に楽しめるアイテムも充実。最も有名なのは、ガラスの中にガラスでつくられた四つ葉のクローバーが浮かんでいるペーパーウェイト(左上/6380円から)で、20種類ほどのバリエーションがあります。
ガラスに手描きの文字やイラストが描かれた「memo glass」(右上/9900円~)も定番商品。写真は、サッカーとラグビーがモチーフ。ほかにもキャンドルホルダー(左下/1万5000円~)や、フラワーベース38万円、アクセサリー(右下/イヤリング1万2000円~)など、温もりと遊び心にあふれたアイテムが揃います。
仕事とプライベートは無理に切り離さない
遼河:火を消してお休みするときは、どんなふうに過ごされるのですか?
イイノ:あまり休まないというか、家でのんびりというのができないタイプなので、お芝居を観に行くなど、常にあれこれ動いています。
遼河:分かります。私もあまり休みたくないタイプ。
イイノ:自宅と工房が同じ敷地内にあるので、「どうやって切り替えているんですか?」とよく聞かれるのですが、私の場合、無理に切り替えようと思っていないんです。仕事も、家のことも、すべてが日常なので。
遼河:私もそう。ありがたいことに好きなことが仕事になっているので、無理に切り離さなくてもいいと思っています。
イイノ:ご主人がサッカー選手だったのですね。うちの娘が小学生から中学生までサッカーをやっていたので、よく試合を観に行きました。
遼河:意外なご縁(笑)。夫は現役を引退して、今はコーチをしています。選手のときは別々に暮らしていたのですが、やっと一緒に住めるようになったので、イイノさんの作品が似合うような素敵な空間をつくっていきたいです。
ガラスがあったかい!?そのワケとは…
遼河さんが大事そうに手のひらに載せているのは、「宝珠」と名付けられたペーパーウェイト。「中に蓮の花が入っていて、とってもキレイなんですが、それだけじゃなくて、ほんのり温かいんです」と驚いた様子の遼河さん。
これは、前日につくられたものだそうで、「急激に冷やすと割れてしまうので、480℃で10時間冷まし、さらに12時間くらいかけてゆっくり冷まします」とイイノさん。時間をかけて冷ましていくという作業に、「移り変わっていく時間をそのまま閉じ込める」というイイノさんの言葉が思い浮かびます。
宝珠のシリーズには「蓮の花」や「ゴールド」などがあります(1万8000円から)。
「目の前でガラスを吹いて作品をつくるところを見せていただき感動しました(遼河さん)。
●遼河はるひさん
1976年愛知生まれ。宝塚歌劇団の男役として人気を博し、退団後は女優、タレントとして幅広く活躍中。2019年にサッカー選手と結婚。『突撃! 隣のスゴイ家』(BSテレ東)に出演中
●イイノナホさん
武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。1997年よりガラス作家として活動し、住宅や店舗、美術館向けのシャンデリアなどの製作も。2019年「iinonaho sendagaya shop」をオープン
撮影/林 紘輝 ※情報は「リライフプラスvol.36」取材時のものです
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