(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授

JBpressですべての写真や図表を見る

 5月21日、日本で英アストラゼネカ製ワクチンの製造販売が特例承認された。ただし公的な接種は当面の間見送りとなった。

 私が韓国でアストラゼネカ製ワクチンを接種したのは、ちょうど日本で厚労省の専門家部会が同ワクチンの承認について議論している最中だった。

 私は大学で学生と接する機会が多いこともあり、なるべく早くワクチンを接種したいと思ってきたので、正直ホッとしている。2回目の接種は8月の半ば。それなら9月の第1週に新学期が始まるころには、抗体ができているはずだ。

チャンスは突然やってきた

 接種のチャンスは突然やってきた。5月20日のお昼過ぎ、ある病院から連絡があって、今日ならワクチンの接種ができるというのだ。

 私はまだ韓国では接種対象年齢ではない。いつ接種対象になるのか、現時点ではわからない。それでも韓国では、ワクチンを打てる制度がある。ノーショー(No Show:当日キャンセルワクチン制度(以下「ノーショー制度」)である。

 余ったワクチンの破棄を避けるために、接種を行っている病院では、対象年齢以外の接種希望者リストを作成している。余りが出た場合には、順番に連絡して接種していく。私の接種も、このノーショー制度の一環で行われた。

 韓国では現在、米ファイザーと英アストラゼネカのワクチン接種が進められている。だが、アストラゼネカのワクチン不人気だ。接種後に副反応が起こる確率が他よりも高く、さらには血栓が生じることがあるとされているからだ。効果も他のワクチンより劣ると言われている。

 韓国のネット上では、ノーショー制度でファイザーワクチン接種を狙っている人の書き込みが目立つ。アストラゼネカで良ければ、今のところ長期間待つほどではない。実際、私の場合、接種はあっという間に終わった。病院側は、みんながアストラゼネカを避けるので困っていたらしく、「わざわざお越しくださってありがとうございます」と感謝までされた上に、丁寧にソフトドリンクまで頂いた。

接種を受けるならファイザーと思っていたが

 血栓ができるかどうかなども含めて、1カ月近くは様子を見ないといけないらしい。だが、接種の翌日、よく噂されている発熱も、吐き気も、悪寒も、私の場合はまったくなかった。腰のあたりのリンパ管が多少腫れているような感覚があったくらいで、80%ほどのペースで仕事をしていた。

 とはいえ、これは私にはとても意外だった。なぜなら、ホスピスで仕事をする私の妻は2月にアストラゼネカの1回目を接種したところ、接種当日の夜に微熱と悪寒が続き、夜通しうなされていたからだ。

 いや、それでもまだ妻の場合は、まだ症状が軽かったらしい。38度以上、なかには40度を超えた発熱に苛まれた人もいると知人から聞いている。実際に、韓国でのコロナワクチンによる副反応の報告は、アストラゼネカはファイザーの7倍である(ただし、深刻な症状についてはおおむね同じである)。

 なので、私もファイザーワクチン接種を受けたいと思っていた。とはいえ、自分が接種対象になるのを待っていたら、9月に始まる新学期に果たして間に合うのか甚だ疑問だ。それに、そのときにはワクチンの種類は選べない。50代の私はアストラゼネカの対象年齢圏とされているので、アストラゼネカを指定される可能性も十分にありえる(アストラゼネカの接種は、英国では40歳以上、韓国では30歳以上、という年齢制限が設けられている)。

 そんなことを悶々と考えていたこの5月に、私はアストラゼネカを積極的に受けようと思うようになった。

 それは、アストラゼネカの開発国であり、アストラゼネカの接種を進めたイギリスで、感染者が激減したからである。何のかんの言われても、効果を発揮しているのだ。ドイツなどの周辺国でも、一時中断されていたアストラゼネカの接種が再開されている。アストラゼネカのワクチンには、南アフリカの変異株に対する効果がほとんど期待できないという指摘もあるが、それは承知の上だ。

 ドイツなどでは、60歳以下で1回目にアストラゼネカを接種した人には、2回目の接種でファイザーやモデルナのワクチンを打つ計画が立てられている。韓国でも、これから米モデルナのワクチンが入ってくるので、2回目、あるいは3回目はモデルナの接種ができるようになるかもしれない。

文大統領が取り付けた米ワクチンの国内製造

 アストラゼネカの接種が進められている韓国では、このワクチンへの不信感が渦巻いている。

 スペインの保健当局が、1回目はアストラゼネカ、2回目はファイザーを接種した場合、免疫力が飛躍的に向上すると発表すると、韓国で大々的に報じられた。あるメディアは、そのスペインの保健当局の発表を、「2回目の接種もアストラゼネカで行うのは勘弁してほしい」という論評とともに伝えていた。

 5月21日の米韓首脳会談で、文在寅ムン・ジェイン大統領は、韓国企業によるアメリカへの40兆ウォン(約4兆円)もの投資を約束し、その“見返り”として韓国へのインセンティブをバイデン大統領に求めたという。これにより、翌22日の朝には、モデルナ社と米ノババックス社のワクチンを韓国で委託生産する協定が結ばれた。

 協定が結ばれる様子は会場となったワシントンのホテルから生中継され、それを受けて韓国では、自国の製薬技術の向上への期待が高まった。だが24日には、モデルナ社が韓国のサムスンバイオロジックスに委託するのは、ワクチン原液の充填・包装という「低水準」にとどまると報じられた。文在寅政権を支持してきたリベラル系メディアのハンギョレも、この報道では衝撃を隠さなかった。

 ちなみにこの2社は、日本でも製造を行うことになっている。ノババックス社のワクチンは今年末頃から日本で製造が始まるという(武田薬品工業が製造)。モデルナのワクチンも、時期は未定だが、武田薬品工業第一三共などによる国内での製造が検討されているという(2021年5月21日日本経済新聞」)。

 ワクチンの委託生産が始まるのは第3四半期、早ければ8月頃という報道もある。そのため、今しばらくはアストラゼネカの打ち控えが続くように思われる。韓国社会にはいろいろと思惑があるようだが、庶民としては、年齢制限なく誰もが不安なく打てるワクチンを、1日も早く安定して供給してほしいだけなのだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「中国製ワクチンはいらない」ベトナムが見せる意地とプライド

[関連記事]

韓国・文在寅大統領の「朝貢外交」はひとまず成功

米韓首脳会談、バイデンは韓国の中国包囲網引き込みに成功せず

韓国の新型コロナ感染症ワクチン接種会場(2021年3月20日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)