新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、多くの大学が昨年から、オンライン授業を実施していますが、対面授業の場合と学費がほとんど変わらないことから、ネット上では「オンライン授業では高い学費を払う意味がない」「オンライン授業だったら、通信制大学の方が安い」など不満の声が上がっています。

 では、通信制の大学の学費は通学制に比べて、どの程度安いのでしょうか。また、「経済的に厳しいが、それでも大学に進学したい」として、通信制大学への進学や編入を考えた場合、就職や転職で差はないのでしょうか。ファイナンシャルプランナーと転職コンサルタントに聞きました。

通信制大学のメリット

 まずは、通信制の大学の4年間の学費総額や後悔しない学校選びについて、ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。

Q.大学によって異なるとは思いますが、通信制の大学の学費は通学制の大学に比べて、どの程度安いのでしょうか。

長尾さん「通信制大学として有名な放送大学の4年間の学費(入学金含む)は70万6000円です。また、日本大学の通信教育課程である日本大学通信教育部の場合、学費を抑えたい人向けのコースの学費は4年間で63万4000円、スクーリング(大学の本部キャンパスや主要都市などで実施する対面授業)を多めに受講したい人向けのコースの学費は4年間で79万4000円です。

一方で、通学制の大学は比較的学費が安い国立大学でも入学金28万2000円、授業料が年額53万5800円で、4年間の総額は242万5200円(※標準額の場合)なので、通信制大学の学費はかなり安いといえます。

ただし、学費が安いとされる通信制大学の中には、ソフトバンクグループが設立した通信制大学サイバー大学(卒業までに必要な学費は293万8000円)のように、通学制の国立大学より高額な大学もあります。入学前に各大学の情報をよく調べてみることが大切です」

Q.学費が安いこと以外の通信制の大学のメリットとは。また、デメリットや注意すべきことについて教えてください。

長尾さん「通信制のメリットはやはり、時間と場所を選ばずに学習できることです。そのため、大学の授業以外にも、自分がやりたいことに時間を使うことができます。そのメリットを生かし、通信制大学で学びながら、専門学校に通う人もいます。

一方で、デメリットは時間の管理や勉強に対するモチベーションの維持が難しいことです。通信制大学の在籍4年での卒業率は平均で15%以下といわれています。その理由は仕事が忙しい社会人学生が多いことの他、やはり、モチベーションを維持するのが難しくなり、単位を落としてしまう学生が多いこともあると思います。

通信制でしっかりと学び、4年間で卒業するには、モチベーションや時間を自己管理できる力が必要です。また、就職支援が通学制の大学ほど手厚くない場合も多く、大学が自宅から遠い場合は、キャリアセンターや図書館など大学施設の利用が難しくなるので注意が必要です。

通信制大学といっても、卒業に必要な124単位のうち30単位以上はスクーリングかメディア授業(オンライン授業)で修得することになっています。スクーリングの場合、授業は夏季・冬季にまとめて実施したり、夜間・週末に実施したりする場合があります。

学習理解を深めたり、モチベーションを高めたりする目的や単位を効率的に取得する目的でスクーリングを積極的に活用する学生も多くいるので、その場合は自分が通いやすい地域でスクーリングの受講が可能か、事前に確認した方がよいでしょう」

Q.「親の収入が少ないので経済的に厳しいが、それでも大学で学びたい」という高校生や「通学制の大学に通っているが、コロナの影響でこのままでは学費が払えない」という大学生もいると思います。その場合、通信制の大学への進学や編入を視野に入れてもよいのでしょうか。

長尾さん「通信制大学であっても大学卒業資格は取得できますし、テクノロジーの進化で充実した授業が提供されている大学も増えています。また、2014年に創立され、わずか数年で世界最難関ともいわれるレベルに成長したアメリカのミネルバ大学は、授業が全てオンラインで行われることで有名です。昨今の技術革新や社会変化から通信で学ぶことに対する社会の見方は随分変わっています。

ただし、通信制では学べない分野もあります。ファイナンシャルプランナーの視点でいえば、大学にかかる『費用』ももちろん重要ですが、社会に出た後に得る『収入』もとても大事なことなので『自分が大学で何を学びたいのか』という目的や『大学で学んだことを将来どう生かしたいのか』といったキャリアプランをよく考えた上で、通信制大学が適しているか判断する必要があります。

『学費が安いから』という理由だけで入学すると、モチベーションを維持できなくなって、時間もお金も浪費することになりかねません。また、先述のように、通信制大学は通学制に比べて、就職支援は手厚くない場合が多いので、就職支援の状況や過去の就職実績をよく確認した方がよいでしょう」

就職・転職で不利にならない?

 通信制の大学ということで、就職や転職のとき不利になる恐れはないのでしょうか。転職コンサルタントの瀧本博史さんに聞きました。

Q.通信制の大学に進学、または通学制の大学から通信制の大学に編入した場合、通学制の大学生に比べて、就職や転職で不利になる恐れはないでしょうか。また、有名大学の通信課程の場合、同じ大学の通学制の学生と評価は違うのでしょうか。

瀧本さん「就職や転職の採用試験において、企業が特定の大学や学部の学生だけを採用したり、通学制の大学生だけを採用したりした場合、その職務の特性上、やむを得ない場合を除き、『就職差別』に当たる可能性が高いため、基本的に通信制(通信課程)の学生が通学制の学生に比べて、低く評価されることはありません。同様に、有名大学の通信課程の学生が同じ大学の通学制の学生と比べて、低く評価されることもありません。

ただし、通信制の大学は通学制の大学に比べて、卒業が難しいといわれており、4年間での卒業率が10%程度という大学もあります。5年以上、大学に在籍している状態で就職活動に臨んだ場合、企業側から留年の理由を聞かれる可能性もあるので、面接官を納得させる回答を用意しておく必要があります」

Q.「通学制の大学生よりも低く評価されることはない」とのことですが、通信制の大学に通う人の中には、就職や転職に不安を感じる人もいると思います。就職や転職を決めるには、日頃から、どのような心構えや対策が求められるのでしょうか。

瀧本さん「就職については、通信制は昼間部の通学制に比べて、OBやOGが少なく、また、通信制の学生の多くは仕事に就きながら学んでいます。そのため、新卒で就活をするには情報が少なくなり、働くためのイメージがつきにくくなってしまうので注意が必要です。

一部には、オンラインを活用した就職支援サービスを行う大学もありますが、基本的に大学が実施する就活支援サービスを受けるには、通信制に在籍していても大学に行く必要があります。通信制の学生の中には、大学から離れた場所に住んでいて通学が難しい人もいるので、そういった人たちは自力での就活を余儀なくされることが多いです。大学の就活支援サービスについて、入学前によく確認しましょう」

Q.「親の収入が少ないので経済的に厳しいが、それでも大学で学びたい」という高校生や「通学制の大学に通っているが、コロナの影響で学費が払えない」という大学生もいると思います。その場合、通信制の大学への進学や編入を視野に入れてもよいのでしょうか。

瀧本さん「先述のように『卒業が難しい』『大学の就職支援サービスを受けにくい』というデメリットもありますが、それでも、通信制の大学への進学や編入を視野に入れることはとてもよいことです。国家資格の試験に対応する科目を開講している大学もあり、資格によっては大学卒業と同様に取得可能なケースもあるので、学費を抑えながら、自分の将来の可能性を高めてくれます。

また、スクーリングが必要なく、オンライン学習でよい大学もあるので、昼間は働きながら、お金をためつつ、自身の学びを深めていくこともできます。転職を考えている人には、今までの学歴を評価してもらえる編入制度や必要な単位だけを修得できる制度などもあるため、自身の教養の幅を広げたり、既に取得している資格のステップアップとして活用したりすることも可能です」

オトナンサー編集部

通信制大学のメリット、デメリットは?