先週、本コラムで「抜本的なワクチン接種体制の見直しが必要」と2度にわたって強調しました。

JBpressですべての写真や図表を見る

(「ワクチン接種でトンデモミス、中身が生理食塩水だった」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65302

(「大丈夫かワクチン接種:生理食塩水の次は使用済み注射器再使用」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65374

 果たして、今週に入ると起こるべくして起こる「薄いワクチン」事故が相次いで報じられています。それも、いまのところほぼ連日発生する形になっています。

 ここで、極めて誤解を生みやすい変な用語が使われている。この「薄いワクチン」とはいったい何か?

 本稿では末尾で「水増しワクチン」のリスクを検討していますが、報じられているのは「水増し」の水準にも達しない、ただの「水」に過ぎないのが実態と思われます。

 少し考えてみてください。仮に、家で醤油の瓶が空になったとしましょう。それを燃えないゴミに出すとき、液だれするといけないので念のために瓶の中に水を入れて洗浄したとして、その廃水を「薄い醤油」と呼ぶでしょうか?

 瓶の中を洗った後の「水」に、瓶内に付着していたごく少量の醤油が溶けているだろう水は、あくまで水であって、醤油ではないない。

 万が一、これを「薄い醤油」と呼べるのなら、カラになったウイスキーの瓶を水洗いして、その廃水を「薄い水割り」と称して販売するのと変わらない。

 そんな水割りを売った店があったら、何が起きるか考えてみるとよいでしょう。ロクなことにはなりません。

 不思議な報道造語「薄いワクチン」は、まずこれと同様の状況です。「ワクチン」と呼ぶのは間違いです。

 ごく少量のワクチンが付着した瓶を洗浄した「生理食塩水」を、あちこちの接種会場で注射しているというのが実情と考えておくのが無難と思われます。

 5月24、25日と立て続けに判明した「薄いワクチン」、もとい「ワクチン風味の生理食塩水接種」事故の実際を確認していきましょう。

「食塩水接種」江東区の事例

 最初のケースは5月22日土曜日の午前中、前回事故が連発した奈良県ではなく東京都江東区で発生しました。

 江東区有明の「有明スポーツセンター」で、新型コロナウイルスワクチンの「高齢者向け集団接種」が行われた。

 午前の時間帯には高齢者125人が接種を受けることになっていました。しかし、接種が終了した後、「ワクチンが残ったままの注射器が余った」ために、何かのミスがあったことが判明。

 調査の結果、すでに一度中身を出してしまった「使用済みのワクチン空き瓶」(ワクチンの入っている瓶は「バイアル瓶」と呼ばれます)に、再び生理食塩水を注入して、先ほどの「カラの醤油瓶」「カラのウイスキーの瓶」みたいな状況から「液」を注射器に充填して「5人分」の注射器が準備された。

 空き瓶の中を洗っただけの生理食塩水を「接種」された人が5人出た、という状況が確認された。

 ここで5人という人数に注目しておきたいと思います。

 すでにこの連載でも解説しましたが、1つのバイアル瓶にはワクチン原液0.45㎖が入っており、これを1.8㎖の生理食塩水で薄め、1人0.3㎖ずつ注射していきます。

 合計2.25㎖=0.3×7.5人分とはならず、注射器のデッドスペースで無駄になる分があり、0.3㎖接種する際に1本の注射器に0.4㎖程度吸い込んでしまうので、実質的には1本のバイアルから5人分程度しか取れない。

 そこで「ロー・デッドスペース注射器」が工夫され、それを使うと無駄になるワクチン液が減り、1バイアルから6人分取れるメカニズムを解説しました。

 ここでは125人、1本あたり5人と報じられているので、有明の会場で用いられていたのは「ローデッドスペース」のシリンジ(注射器)ではなく、通常の、無駄になるワクチン液が多いタイプのものであった、と判断されます。

 ということは、使用済みバイアルの中に、薄めたワクチン液が残っていたはずで、そうした現場では、ことさらに「すでに注射器に液を分配した後の、実質的な空き瓶バイアルと、未使用の新品とを厳密に区別する必要があった。

 そして、それが怠られた。

 125人の高齢者に接種ということは、25本のワクチン原液が入ったバイアル瓶が解凍されていたはずです。

 そこそこの分量ですが、きちんと整理して希釈やシリンジ充填の作業が行われれば、このような初歩的なミスは起こさずに済んだはずです。

 また だらしなく行えば、25個の瓶の1つを取り違えるなど、何の不思議もありません。

 2時間ほどの間に125人に接種するには、医師が3~4人投入されていたと察せられますが、それをサポートするパラメディカル、看護師の人手も不足していただろうし、希釈関連のマニュアルが十分整備されていないために、こうした事故が繰り返し起きている。

 江東区はまたしてもお決まりの「健康に害はない」を繰り返しつつ「ワクチンが効果を発揮しない恐れ」とも説明している。

 そりゃそうでしょう。ウイスキー空き瓶を洗った水で酔っぱらえるのなら酒屋は要らない。

「薄いワクチン」でもなければ「恐れ」でもない。ただの水と変わらない液体を接種して、防疫効果が上がるのなら誰も苦労しません。こんなもの「ワクチンの接種になっていない」と明言するのが正解でしょう。

 125人のうち、誰が「水だけ」接種だか分からない。全員観察対象として抗体検査を続けていくという・・・。

 実施体制の見直しが必要と、またしても同じセリフを繰り返さざるを得ません。

「食塩水接種」福岡県久留米市の事例

 有明の「水接種」が判明した5月24日月曜日、今度は九州、福岡県久留米市の大規模接種会場で、今度は「6人」に、食塩水を「接種」していた「らしい」ことが分かりました。

 会場は久留米アリーナ。正確には「久留米総合スポーツセンター」(https://shisetsu.mizuno.jp/m-7411)で、報道からは施設内のどこで接種が行われたか判別できませんでした。

 ホームページには「観客席3000、臨場感あふれるメインアリーナ」とあり、大型の会場を借用しての接種が行われたようです。

 実際この日にワクチン注射を受けた人は714人に上り、その中の「6人」が「食塩水接種」になってしまったらしいのだけれど、一体誰だかさっぱり分からないという事態が発生したというのです。

 これも報道の数字を読み解くのは簡単です。714人というのは1バイアル6人の「ローデッドスペース注射器」使用の接種で「119」個分。

 元来こんな数で計画するわけがありませんから、120バイアル720人で計画され、当日キャンセルなどで714人分119瓶を使ったつもりが、1日終わってみたら、118本しか使用しておらず、1瓶余ってしまった・・・。

 まあ、それはそういうことかとも思うのですが、全くもって大問題なのは「その1瓶、6人分が、午前午後のどの時間帯、どの医師が接種した注射器なのか分からないらしいという点です。

 報道されない部分から垣間見える現場のずさんさが、かなり致命的に問題であると思われます。

 一言でいえば「給食」か「総菜工場」みたいな状況。悪い意味で流れ作業というか、分業というか、雑な仕事というか・・・。

 再び問題なのは、これに対する久留米市のコメントです。

「714人全員に2回目の接種をした後、抗体が出ない人に3度目の接種」というのですが、ぴったり6人だけ「抗体出ません」などとなるわけがなく、3度の接種が行われて本当に大丈夫なのか、というのが一点。

 1日に720人からの人数に接種するためには、最低でも医師(注射する人)は6人以下とは考えられず、多数の医療従事者が「流れ作業」で業務に当たっているのだと思われます。

 作業が流れ過ぎてワクチン接種自体が形だけの「お流れ」になってしまう現実的なリスクを懸念します。

 久留米市は「今後はワクチン希釈の手順や希釈後の小瓶の適切な管理を徹底し、再発防止に努める」というのですが、こんなものは各々の自治体がバラバラに「希釈の手順」や「希釈後の小瓶の管理法」を工夫して再発防止に努めるような性質の問題ではありません。

 厚労省以下、本質的な接種体制からマニュアル整備まで、発生した現実の事故をよく検討、構造要因を解明し、是正していく必要があるでしょう。

 さもないと「当日受けた2000人を観察継続、抗体反応がなかった人には3度目の正直」といった、冗談にもならない事態が予想されるリスク頻度程度に(何万人という単位で)出てきて不思議ではない。

 しかし、それ以上に大問題と思ったのは、毎日新聞によるこの事件の報道(https://mainichi.jp/articles/20210525/k00/00m/040/295000c)の末尾に記された一文です。

 そこにはほんの一言、「使用済みの小瓶にもわずかにワクチンが残っていたという」と書かれていた。

 これは、ことによると相当危なっかしい可能性も懸念される状況です。

 というのもこの会場で用いられていたのは薬液を無駄にしないローデッドスペースの注射器、つまり最後の最後まで吸い取らないといけない状況です。

 1つのバイアル瓶から0.3㎖ずつ6人分、きっかり採らねば、規定量のワクチン液を注射することはできません。

 一本一本手で希釈し、手で注射器に詰めていくワクチンの使用済みの小瓶、いったい何本に「わずかにワクチン」が残っていたのか・・・。

 仮に 118本すべてに結構な量の薬液が残っていたとするなら、6本採るうちの6本目が、のきなみ3㎖に達しない可能性が考えられるでしょう。

 しかし現実には、そういう2㎖しか入っていない注射器というのは考えにくい。

 であるとすると、もう一つ考えられるのは、考えたくないですが薄める食塩水を1.8㎖より多く入れた「本当に薄いワクチン」を作ってしまい、それを714人全員に打っている可能性がある。

 だとすれば、のきなみ全員「効かない」ワクチンを打たれているリスクすら検討しないわけにはいかないかもしれません。

「バイアルの中に薬液が残る」といった事態を軽視して、「形だけ接種したことにして、ノルマ消化」といったモラルハザードは、本来決して起きてはならない事態です。

 毎日新聞が小さく記した1行は、その可能性を示唆している。

 食塩水だけなど論外ですが、瓶を洗った水だけとか、水増しで形だけつけた「本当に薄いワクチン」とか、それこそ「仏作って魂入れず」ならざる「ワクチン打って薬液入れず」といった、総おざなり状況すら、懸念せざるをえない。

 報道されているだけで1度ならず3度まで発生してしまったこの手の事故。

 ひとり厚労省の責任という以上に、政府としてトップ以下、わが国の防疫体制全体として、ワクチン接種体制の抜本的な見直しが必要な状況に達しつつある。そう観察せざるを得ないのです。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  大丈夫かワクチン接種:生理食塩水の次は使用済み注射器再使用

[関連記事]

ワクチン接種でトンデモミス、中身が生理食塩水だった

ついにインドで始まったか、大型医療崩壊

ワクチン接種で次々と事故が報告されている