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(写真:時事通信

全国の新型コロナウイルス感染者数は減少傾向にあるものの、9都道府県への緊急事態宣言6月20日まで延長されるなど、収束の兆しが見えないコロナ禍。厳しい状況は依然続いている。

5月26日の重症者数は過去最多となる1千413人を記録。猛威を振るう英国型変異株よりも感染力が強いとされているインド株も、すでに広まりつつあるとみられています」(医療ジャーナリスト)

そんななか、大阪大学が“衝撃の新発見”を発表した。一般的に新型コロナウイルスに感染すると、体内ではその後、新型コロナに感染しにくくなる抗体(=中和抗体)が作られているといわれている。

しかし、同大学の研究グループは新型コロナ感染者の体内で生まれた70種類あまりの抗体を研究。その結果、新型コロナ感染者の体内でウイルスが細胞に感染しやすくなる作用を持つ抗体も作られていたことを突き止めたのだ。同グループはこの抗体を「感染増強抗体」と名付けている。

この研究を主導した大阪大学微生物病研究所の荒瀬尚教授は、こう解説する。

「病原体が体に入ってくると、体内ではさまざまな抗体が作られます。抗体にはいろいろな種類があり、中和抗体は感染を防ぐとされている“よい抗体”。

いっぽう、新型コロナの突起部分であるスパイクに結合すると逆に感染性を高める抗体が感染増強抗体です。この抗体がウイルスに結合すると、抗体が直接ウイルスに作用して、細胞への感染を強めることがわかりました。これは世界で初めてわかったことです。これまでほかのウイルスでもわかっていなかった全く新しい抗体の作用がわかったんです」

■非感染者も悪玉抗体を保持している可能性が…

新型コロナ感染を促進する“悪玉抗体”の発見。さらに恐ろしいことに、新型コロナ感染者にとっても人ごとではない。研究グループが発表した論文によると、非感染者でも「感染増強抗体」を保持しているケースがあったというのだ。

「感染増強抗体を保持していた非感染者は検査した48人中2~3人でしたが、調べる数を増やさないと正確には1%なのか5%なのか、割合はわかりません」

感染者が感染増強抗体を保持する理由についてはまだ解明されていないが、保持する人には看過できない傾向が見られたという。

感染者の抗体の差を調べた結果、特に重症患者で感染増強抗体が多かったです。どの程度重症化に影響するかは不明ですが、感染増強抗体を持っている人が感染した場合、重症化しやすい可能性もあります」

重症化のトリガーとなりかねないだけでなく、日本でも日夜接種が進んでいるワクチンにも不安をもたらしかねない要素が……。

「この感染増強抗体がいくら産生されても、中和抗体が十分にあれば全く働きません。今使われているワクチンの接種では中和抗体が十分に作られるので、感染増強抗体は機能しません。ですので、感染増強抗体を持っている、いないにかかわらずワクチンを打った方がいいでしょう。

現時点のワクチンインド株も含めて、中和抗体が十分に作られることはわかっています。ただ今後、さまざまな変異株が現れて、中和抗体が作用しないという場合、感染増強抗体だけが残る可能性もあります」

■悪玉抗体活用で重症者を事前に検査できる可能性も

これだけ聞くと、ますます新型コロナの脅威が高まるばかりのようだが、「感染増強抗体」の発見は“希望の光”でもある。

発展途上の日本のワクチン開発の一助になりうる未来を荒瀬教授は指摘する。

「新たな変異株で感染増強抗体のほうが強く働くことが起きた場合、感染増強抗体を増やさないワクチン開発が必要になることもあるでしょう。今回、明らかになった感染増強抗体の認識部位を改変することで、中和抗体の産生のみを特異的に誘導するワクチン開発が可能になるかもしれません」

日本各地で新型コロナ感染者によって病床が埋まり、本来の診療ができず、救える命が失われている。こうした医療崩壊を防ぐことができる可能性も秘めている。

「感染増強抗体の量を事前に検査することで、重症化しやすい人かどうかを調べることができるかもしれません。また治療方針にもつなげられる可能性があります」

緊急事態宣言の度重なる延長、東京オリンピックの開催と不安な日々が続く日本。“悪玉抗体”を上手に利用して、少しでも安心できる状況が生まれることを祈るばかりだ――。