千葉市の小学校でいじめを受けたのに放置されPTSDを発症したとして、大学1年の男性(19)が元同級生の保護者と市に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が6月3日、東京高裁であった。

白石史子裁判長は、保護者に慰謝料30万円の支払いを命じた一審・千葉地裁判決を変更し、いじめによりPTSDに準ずる症状が継続していることを認め、保護者と市に慰謝料など約388万円の支払いを命じた。

判決後会見を開いた男性は「なぜ自分が今こういう状況なのか、学校のせいではないのか疑問に思っていました。でも、証拠がないから認められないだろうとある種諦めていた節があります。意味のある判決だと思います」と話した。

●学校側の責任認める

判決などによると、男性は小学5年生だった2012年秋に、元同級生に叩かれたりものを投げつけられたりするようになった。担任に訴えたところ、「いちいち取り合わなくていい」「言いに来なくていい」などと言われ、精神的に追い詰められていった。2013年冬から不登校になり、2014年8月以降、複数の医師からPTSDの診断を受けた。

一審・千葉地裁は、元同級生の3つの暴力について責任を認めたが、担任や学校など市の責任を認めなかった。

これに対し、高裁判決は、元同級生から継続的ないじめ行為があったと認めた。

担任の対応については、「さらに強く指導する、家庭での指導を促す、元同級生と男性が接触しないようにする、男性の訴えを真摯に聴いて精神的に支える、他の児童が男性を支援するよう仕向ける、父母に報告するなどの措置をとるべきだったのに怠った」と指摘し、職務上の義務違反を認めた。

いじめとPTSDの因果関係については認めなかったが、頭痛やイライラフラッシュバックなど「PTSDに準ずる症状が継続している」として、逸失利益や慰謝料を認めた。

PTSDの認定の壁

代理人の杉浦ひとみ弁護士は「教員の責任について丁寧に認定してくれた」と判決を評価した。

「元同級生が暴力を振るわないようにするため放置してきた教員の態度について、功をそうしてなかったから指導は適切ではなかったと丁寧に認定している。『教員の裁量の中でやるべきことはやり、落ち度はなかった』『適切とは言えないけど違法とは言えない』といった判断をされ、学校側の責任が認められないケースが多い中、教員が教育すべきというところに重きをおいている」

また、いじめとPTSDの因果関係は認められなかったものの、「PTSDに準じる」と賠償を認めたことも「大きな成果」だという。

PTSDと認定されなければ、裁判所は賠償を認めてこなかったが、今回の判決は、PTSDに準じる場合でも損害が生じると認めた。ただ、医学的には、人が死に直面するものではなくても、PTSDの要件はクリアすると言われている。今後、PTSDの認定の壁を変えていく必要があるだろう」

●「特殊な事例ではない」

会見に同席した男性の父親は「いじめにより根底から揺らいでしまった安心安全、自信、コントロール感を息子が取り戻していくことは、とても時間のかかるものだった」と振り返った。

不登校ひきこもりの状態で、いじめの体験が生傷のまま温存されて苦しんでいる子どもたちや家族がいることを知っていただきたいです」

男性は「この案件は決して特殊な事例ではない」と訴えた。

「今からでも変えられることはあるのです。個別のいじめ事案に対して関心や興味をもつだけではなく、教育行政の構造的な問題点やいじめが起こる構造にも目を向けてください。一過性の話題になるのはもうたくさんです。過去に目を閉ざし、現状維持を良しとする社会に未来はありません」

千葉市いじめ訴訟、元同級生と市に388万円賠償命令 「PTSDに準ずる症状」認める…東京高裁