「このままではいけない」「過去の負の資産から抜けださないと本当にやばい!」レガシーな意思決定プロセス、個人情報含むデータ管理、ジェンダー問題・・・現在の日本社会には変えていくべき「仕組み」は身近にたくさんあります。

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 ではどうやって一歩踏み出せばいいのか?信頼と共生を軸にこれからの社会のあり方を考える座談会を社会活動家石山アンジュ氏、UDS代表黒田哲二氏をゲストにIBM Future Design Lab.と私、HEART CATCH西村真里子が実施しました。結論から先にお伝えすると当座談会では「仕組み」を考える以前に我々一人ひとりの「心」や「意識」「視座」が大事であるという方向性で登壇者の意見は集約されました。業界を率いるエバンジェリストの視座と、現場で働くビジネスパーソンの等身大の本音がグラデーション豊かにこれからの信頼と共生を軸にした社会について話しが映し出された座談会の様子を「心」や「意識」「視座」を軸に切り取ってお届けいたします。

恋愛の面倒くささを前提に社会をとらえる、ビジネスモデルを考えるーー信頼社会か?安心社会か?

 今の日本は様々なサービスが存在し、過去に比べると便利な世の中になりました。サービスを組み合わせれば一人でも生きていけるような気にもなります。

「共生」無くとも生きていけるような錯覚に陥ってしまうのですが、コロナにより我々の社会は医療従事者やエッセンシャルワーカーの方々に依存して成り立っていることに多くの人が気付きました。社会を構成する人間同士の「共生」「信頼」の意識を深めるためにはどうしたらいいのか?

 その一つのヒントとして石山アンジュ氏は「恋愛」を例に挙げました。全員に当てはまるとは一概に言えませんが、たとえば恋愛状態にあると、好きだし別れたくないから、価値観が異なっても、お互いを理解しようと努力したり、自分も内省して変えられることはないか自己変容しようとすると思います。この「恋愛」のような面倒くさい「意識」「態度」が信頼をベースにした社会では一つの必要ファクターとなるのではないか?という視点です。彼女自身はシェアリングエコノミー協会理事やPublic Meets Innovationというミレニアル世代の官僚と弁護士やイノベーターで構成されるシンクタンクの代表であると同時に「拡張家族」という社会実験の旗振り役でもあります。この「拡張家族」は0歳から60代までが100名ほど「家族」となり多拠点に散らばりつつも共同生活をしているそうです。

「拡張家族」では組合費の使用目的などを話し合い決定し、困っている人の救済費などの支援にも使うそうです。彼女自身はそれを「恋愛」の拡張とも称しているのですが、一見すると面倒に見える話し合いや人間関係を経てこそ「信頼」や「共生」が生まれるというのです。

 今の世の中は便利だけどなんか希薄で、みんながバラバラな方向に向いているなぁと思うことがある私としては石山アンジュ氏の言う「恋愛のような面倒くささ」を社会生活にも取り戻すことにより、「信頼」「共生」の意識で人と人が交じりあえるのかもしれません。今の社会に対する欠如感は「面倒くささの希薄化」からきているのかもしれない、と。

 また、彼女はスライドを使って「安心社会」と「信頼社会」の違いを軸に視座を深めてくれます。「安心社会」が相互監視や制裁、データ管理で人間同士の結びつきの不確実さを解消していく社会(顕著な例だとコロナにおける中国のようなデータを軸にした監視社会)だとすると、「信頼社会」は「恋愛のような関係性」であり相手に裏切られるかもしれないリスクを理解しつつ、相手に求めるだけではなく自分自身も変わっていく者同士が作り上げる社会を指しています。

「共同購入型」「貢献型購入」が信頼社会を加速させる

 さて、今回の座談会では「信頼」「共生」を軸に社会をアップデートさせることをテーマにしているので「信頼社会」に向けてどのような行動をとるべきか?も気になるところです。我々社会を構成する一人ひとりはどうしていけばいいのでしょうか?

「国、行政が何もやってくれない!」と不平不満を募らせるだけではなく、自分達が主体となって「どうあるべきか? どうなりたいか?」という主体的な「意識」を持つことも我々一人ひとりに必要な社会的役割であると石山アンジュ氏は続けます。

 また、そのような「信頼社会」でのビジネスモデルはどのようなものがあるのか?と質問したところシェアリングエコノミーはもちろん、「共同購入型」が一つの解であると石山アンジュ氏は述べます。クラウドファンディングを例に出し、応援したいという意識を集めて購買に結びつけることが信頼社会のビジネスモデルとしては良い例と述べます。

 登壇者の一人、IBM Future Design Lab.の髙荷力氏がコロナ以降の「生活者DX調査」実施した際に、購買行動の一つとして「高くても、国産品を選ぶ」「自分の地元に貢献したい」割合が増えたことを紹介していましたが、これからの信頼社会では「共同購入型」しかも「貢献型」というのが多く支持を得ていきそうです。

 私もコロナ以降、浜松のみかんの木のオーナーになりました。特定の時期にみかんを狩りに行きます。面倒ではあるのですが、その分愛着もあり、浜松三ヶ日にも少しは貢献できているかな?という満足感も喜びを増幅させます。スーパーで買うみかん以上に美味しくも感じます。面倒くささ半分、愛情半分の恋愛思考的「共同購入型」、「貢献型」のサービスは信頼社会には必要になりそうです。

中央集権への挑戦、建築も地産地消へ

 UDS代表の黒田哲二氏は「信頼」「共生」社会の到来を都市集中型からの移行と重ねながらとらえます。そのアプローチとして気になっているのは人間の生活圏に太古の昔より寄り添っている「川」を中心に考え直すという視点。川の流域に広がり営まれていた生活地域が、廃藩置県で川を境に分断されたことが、地域ごとの豊かな生活が失われた一つの原因ではないか、という考え方です。そして、川を中心とする生活圏のなかで、建築をはじめとした暮らしの様々な面に地域資源を生かしていくことにより、地域ごとの、豊かな「共生」社会が取り戻せるのでは、と考えていらっしゃいます。確かに地元の木材を建材として活用することで様々な「共生」が生まれそうです。黒田哲二氏のUDSに特徴的な住居・ホテルなどの「場」を企画から設計、運営まで手がけるスタイルにより地域内経済循環が活性化する共生社会が色鮮やかに生み出されそうです。

 日本IBM田中茂氏は「信頼社会」を構築するためのヒント町内会にもあるのではないか?と述べます。「地方にはまだ残っている町内会や婦人会のような共生の意識、つながりを社会全体で適用することが大事なのではないか?」と。また、田中茂氏が仕事として関わっているヤマト運輸の事例も紹介されました。いままでヤマト運輸の専用ドライバーが配送の川上から川下まで担っていたものが、人口減少や新たな価値観、働き方の変化により、全部を自社で抱え込むのではなくヤマト運輸のアセットをオープンにしつつギグワーカー(オンラインのフラットフォームを介して単発の仕事を請け負う労働者)にも気持ちよく働いてもらえる「共生」の仕組みも作り上げていると述べられました。

面倒くさくても問い続ける。新しい形のラボ

 IBM Future Design Lab.の藤森慶太氏は新たな「共生」「信頼」社会をつくるためには問い続ける姿勢も大事だと述べています。既存の仕組み、既存のサービス、コロナにより人々の意識が変わったいま「そのサービスはこれからも欲しいものですか?」と改めて問い直して、不必要なものは終了させ、新たに生み出していくことの必要性を述べています。問い続けるという姿勢はある意味面倒なことでもあります。ですが、面倒くささを受け入れつつ、コロナで変わった意識を社会に根付かせていく必要があると述べます。そのために、IBM Future Design Lab.という組織も作ったとのことです。

 当座談会では藤森慶太氏には未来を感じる発言があったときに「オニワラくん(鬼が笑うほどの未来を感じるポイント)」を登場させてもらうという遊びの要素も入れているのですが、今回の座談会では石山アンジュ氏の「(政府や社会などに不満を言うだけではなく)相手が変わらないのであれば自分を変えていく「意識」も大事である」という発言の際に「オニワラくん」を登場させていました。
 

―――
 社会活動家、建築・地域デザイナー、IBMというテクノロジーカンパニーのメンバーとこれからの「共生」「信頼」を考えていく90分の座談会では一貫して我々一人ひとりの「心」や「意識」「視座」の変化が社会を変えていくという意見に終始しました。座談会の中では今までの資本主義とは別の豊かさを求めるという議論も出てきました。この座談会を振り返り鴨長明の「方丈記」の最後の節を思い出しました

夫、三界は只心ひとつなり。心、若やすからずは象馬七珍もよしなく、宮殿楼閣も望みなし。(それ、さんかいはただこころひとつなり。こころ、もしやすからずはぞうめしっちんもよしなく、きゅうでんろうかくものぞみなし)
鴨長明方丈記」)

「全世界の現象のすべては、ただ心ひとつにかかっている。心がもし安らかでなければ金銀財宝も何の意味もない。宮殿楼閣もなんの意味もない」という意味なのですが、いままさに我々は「心」の大切さを痛感し、それを社会活動に置き換えていくプロセスの中にいるのかもしれません。

―――以上でレポートは終了です。たくさんのキーワードに溢れた座談会のエッセンスをIBM Future Design Lab.の中村芽莉氏のグラレコでも感じていただけましたら幸いです。

 

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