3500人もの社員を抱えるGMOインターネットグループでは、「宗教」を参考にした組織運営を行っている――。2014年2月3日に東洋経済オンラインに掲載された「強い組織創りのヒントは、『宗教』にあり」で、GMOグループ会長の熊谷正寿氏が語っている。

熊谷氏は、命をかけて創ってきた会社が「自分が死んだらなくなってしまうと悲しい」という。そして、自分の会社を100年単位で成長させ続けたいと考え、組織として長く続いているのが宗教だと気づいた。自らもクリスチャンである熊谷氏は、宗教に共通する5つの点を挙げている。

「感動を売ろう」「笑顔の領地を広げよう」と唱和

1つ目は「定期的に集っていること」、2つ目は「同じものを読んだり、歌ったりしていること」。熱心なクリスチャンは毎週日曜に教会に通い、賛美歌を歌っている。

GMOグループでも、毎週月曜日にグループ会社の社長や幹部70~80人が集会を開催。そこで社訓「スピリットベンチャー宣言」を唱和する。GMOのウェブサイトを見ると、

「ビジネスは、戦(いくさ)である。誇りとナンバーワンのサービスを武器に感動を売ろう。そしてお客様の笑顔の領地を広げよう」

といった内容が含まれているようだ。

3つ目以降は「同じものを身につけている」「同じポーズをしている」「神話がある」というものだ。過去記事などによると、同グループでは社員全員に徽章を付与するほか、人差し指を立て右腕を突き出す「No.1ポーズ」を制定している。

熊谷氏が将来のビジョンを定めた「55カ年計画」は、同グループの「神話」に当たる。熊谷氏は、従業員に給料を払っている会社ですら、創業5年後には7割以上の企業がなくなっていると指摘。

「でも、宗教組織というのは、(信者から)お金をもらっているんですよ。もらっているにもかかわらず、通常の会社よりも長く続いている」

と、宗教組織の強さを強調している。

ただ、会社の思惑を社内に浸透させるのは簡単ではない。キャリコネの口コミを見ると、30代の男性SEが、毎週読み上げさせられる宣言文について「実際書かれていることが社内で徹底されていないので、、正直少し苦痛」と明かしているのも事実だ。

ジョブズは「制服導入」に大反対され頓挫

会社の規模が大きくなると、従業員や組織の統率が取れなくなってくる。それを再びコントロールするために、宗教的な要素を導入する会社は少なくない。

松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助氏は、昭和7年奈良県天理教の神殿を見学。大勢の信者が回廊拭きなどの労働奉仕に従事する姿に感銘を受けたという。この経験を元に独自の「水道哲学」を宣言し、5月5日を「創業記念日」と定めたほどだ。

あるグローバル企業でも、海外拠点が急速に拡大し、外国人従業員の割合が4割を超えた時点で「グループソング」を策定。各拠点の従業員が同じ歌を歌いながら出演するミュージックビデオを作成することで、「人心をつなぎとめようとした」そうだ。

アップルの故スティーブ・ジョブズも、ソニーの工場の従業員の制服姿に感動し、自社の工場にもロゴ入りの制服を採用しようとした。しかし従業員に大反対され、頓挫したという。ヒトラーファシズムに対する抵抗感が残るヨーロッパでは、さらに困難だろう。画一的な服装に抵抗感を抱かないのは、同質性の高い日本人の特徴だろうか。

宗教的マネジメントも、労働環境が良好で報酬が十分に払われていなければ、単なる「労働搾取」になりかねない。過労自殺者を出したワタミグループが「地球上で一番たくさんの"ありがとう"を集めるグループになろう」というスローガンを掲げていることに対し、ネットには、

「新しいカルト宗教の誕生である」

と揶揄する書き込みが見られる。若い世代には、会社が従業員を洗脳して思考停止に陥らせ、経営への疑問や批判を封じ、過重労働に仕向けることを「労働教」と呼んで、反発する動きもある。宗教的手法も万能とはいえないのかもしれない。

あわせて読みたい:任天堂の「復活」はあるか