
国際宇宙ステーションに6年間保存した冷凍乾燥(フリーズドライ)精子で妊娠した母マウスが、無事に元気な赤ちゃんを出産したそうだ。子供たちは地球上の精子から生まれた子たちと何ら変わりなかったとのことだ。
2017年に行われた実験では、宇宙ステーションで288日間(約9か月)フリーズドライしたマウスの精子から赤ちゃんが誕生したが、今回の実験では2,000日以上(約6年)と、その記録を大きく上回ったことになる。
この実験は、将来人類が宇宙移住を果たした時、多種多様な遺伝子を持つ地球内生命体が子孫繁栄が可能になるのかの道しるべとなる。
宇宙は生物にとっては過酷な環境だ。地球と違って上下を定めてくれる重力がほとんどないし、あらゆるところに宇宙線が飛び交っている。きちんと保護されていなければ、DNAが破壊されたり、突然変異を起こしたりする恐れがある。
DNAの異常は子供に遺伝する可能性もある。そうなれば宇宙に滞在した本人だけでなく、後世にまで問題を伝えてしまうことにもなりかねない。
これから火星を目指そうという人類だ。地球外に長期間滞在したのちも、きちんと健康な子供をつくることができるのか是非とも知っておかねばならない。
そこで山梨大学の若山照彦博士らは、フリーズドライしたマウスの精子を国際宇宙ステーションで数年間保存して、とりわけ宇宙線が哺乳類の精子に与える影響を確かめようとしている。
その実験では、まずマウスの精子をガラス製のアンプルに入れ、それから水分をすべて蒸発させてフリーズドライ化。その一部を2013年に宇宙まで打ち上げ国際宇宙ステーションで、残りを地球で冷凍保存していた。
フリーズドライしたマウスの精子を宇宙に送るために使用された小さなガラス製のアンプル
image credit:Teruhiko Wakayama, University of Yamanashi
宇宙で約6年フリーズドライしたマウスの精子から赤ちゃんが誕生
9ヶ月目に一部を地球に持ち帰り、途中経過を観察(関連記事)。残りは1010日目(2年9ヶ月)と2129日目(5年10ヶ月)に地球に持ち帰り、これを使ってマウスのメスを妊娠させた。『Science Advances』(6月11日付)に掲載された研究によると、メスは無事子供を出産。地球で保存されていた精子から生まれた子供たちと比べても、まったく違いはなく、異常もなかったそうだ。
長期間宇宙に保存されたことでDNAの損傷やその発現に問題が生じていないか検査もされたが、特に異常は見つからなかったとのこと。宇宙線が飛び交う宇宙空間に対して、精子は大きな勝利をあげたようだ。
研究グループによると、フリーズドライ処理されていたことが、DNAを守った可能性があるようだ。というのも損傷の一部は、精子の細胞に含まれる水分が原因になるからだ。
さらに遠い宇宙ではどうか?
ただし国際宇宙ステーションは地球のそばを周回しており、地球の磁場によって危険な宇宙線から守られているために、さらに遠く離れた宇宙空間でも同じ結果になるかどうかはわからない。現在、NASAをはじめとする各国の宇宙機関は、月軌道プラットフォームゲートウェイを建設しようと計画を立てている。
今回、少なくとも国際宇宙ステーションでは問題なしという結果が得られたので、今後はゲートウェイでも同様の実験が進められる可能性はあるだろう。
Top image by Teruhiko Wakayama, University of Yamanashi / References:'Space pups': Mouse sperm stored on ISS produces healthy young/ written by hiroching / edited by parumo
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