古代の女性官僚: 女官の出世・結婚・引退
『古代の女性官僚: 女官の出世・結婚・引退』(吉川弘文館)著者:伊集院 葉子

従来の「女官」のイメージを覆す

時代小説ドラマでお馴染(なじみ)の「女官」。絢爛(けんらん)たる宮廷に咲く才色兼備の女性たち・・・・・・というイメージが先立つが、実像はどのようなものだったのか。本書は、古代の女官(=女性官僚)たちの選抜から業態、出世、俸給、結婚から引退に至るライフコースを詳解し、日本最古のワーキングウーマンの素顔に迫っていく。

特筆すべきは、女官に代表される古代日本の律令(法体系)の独自性である。日本の律令は唐の法体系を手本に作られたが、女官については彼我でまったく異なっていた。

「唐の女官は後宮という隔絶した空間のなかで皇帝の『家』のために奉仕したが、日本の古代女官は、律令によって規定された行政システムの一部」だった、と著者は指摘する。なぜなら、日本では村や共同体から宮廷、さらに国政に至るまで、マツリゴト(政治)に女性が関与してきた歴史は、律令が導入されるより古く、国家システムの基盤を担ってきたからだ。

それゆえ日本の古代女官は、皇帝や国王に属す側妾(そくしょう)候補ではなく、結婚もタブー視されてはいなかった。それどころか、奈良時代には官僚のトップである大臣の妻が女官という夫婦は、ごく普通に見られたという。従来「夫の七光り」で送り込まれたと見られてきた女官だが、むしろ夫の死後目覚ましく出世する妻も目立つことから、古代日本の共働きエリート夫婦は、実力本位の「二人三脚型」だったことも推測される。

日本に去勢した男性官吏である宦官(かんがん)がいなかったのも、もともと男女がともに働いていたため導入する理由がなかったから、と著者は指摘。原則として上位階層の「氏」から一人ずつ、厳しく選抜され出仕した女官たちは、一族の浮沈を一身に背負い懸命に務めたに違いない。日本社会の基底部に根差す女性の役割について、既存のイメージを一つ一つ覆す著者の説明は、精到にして爽快である。

[書き手] 水無田 気流(みなした きりう
1970年神奈川県生まれ。詩人、社会学者。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。現在、國學院大學経済学部教授。詩集『音速平和』(思潮社)で中原中也賞を、『Z境』(思潮社)で晩翠賞をそれぞれ受賞。『「居場所」のない男、「時間」がない女』(ちくま文庫)、『多様な社会はなぜ難しいか 日本の「ダイバーシティ進化論」』(日本経済新聞出版)、『社会を究めるースタディサプリ 三賢人の学問探究ノート(2)』(共著・ポプラ社)、『背表紙の社会学』(「掲載書評」所収・青土社)など著書多数。

【初出メディア
朝日新聞 2015年2月

【書誌情報】

古代の女性官僚: 女官の出世・結婚・引退

著者:伊集院 葉子
出版社:吉川弘文館
装丁:単行本(246ページ)
発売日:2014-11-20
ISBN-10:4642057900
ISBN-13:978-4642057905
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