(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)

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 韓国のソウル中央地裁は6月7日、徴用工問題に関する裁判において原告側の請求を棄却した。その判決骨子は「(1965年に結ばれた日韓基本条約があるために)原告が訴訟を起こす権利は制限される」とするものである。日本にとっては至極真っ当な判決と言える。

 ただ、この判決に対して韓国の世論は怒り狂い、裁判官に対する弾劾の請願が6月9日の時点で20万を超えたという。韓国では請願が20万を超えた場合、政府はなんらかの回答を出さなければならないとされるから、文在寅政権がどのような回答を出すのか見ものである。

 本来この判決は6月11日に言い渡されるはずだったが、急遽7日に変更された。その理由は11日から開催されるG7に、文在寅ゲストとして出席するからとされる。その前に日本との和解を少しでも印象付ける必要があった。

韓国に息づく政治に関する考え方

 それにしても、裁判所を含めて韓国の判断はなぜこのようにコロコロと変わるのであろうか。裁判所の判断を、法律論に基づいて解釈を試みてもくたびれるだけである。

 そんな韓国の社会や政治を理解するためには李氏朝鮮の歴史、特に戦争に関連した歴史を知る必要がある。李氏朝鮮の戦争の歴史を知れば、判決が180度ひっくり返った理由を明確に理解できる。

 李氏朝鮮では朱子学を根拠にして屁理屈をコネくり回す政治が行われていた。李氏朝鮮日清戦争後に大韓帝国と名前を変えたものの、1910年まで約500年間もの長期間にわたり存在した。そのために現在になっても、朝鮮半島に住む人のものの考え方の根底には李氏朝鮮時代の記憶が濃厚に存在する。

 李氏朝鮮時代の政治に関する考え方は、次のように要約できよう。

(1)自己の正当性を強く主張し、相手を徹底的に非難する。ものごとを相対的に見ない。妥協は悪であり、全てを善悪で判断する。そのために相手を口汚く罵ることも多い。

(2)国際関係では力のあるものに付こうとする傾向が強い。いわゆる事大主義である。

(3)状況が変化した時には、態度を素早く変える。そのためには、これまでの敵になびき、味方を攻撃することも厭わない。日本のような恥の文化がないから、そのような行為を恥ずかしいとは思わない。だから反省することもない。

米国の本気度を感じ取って方向転換

 そもそも、韓国が従軍慰安婦や徴用工の問題を取り上げた背景には、自国の経済が日本に追い付いたとの思いがあった。日本の経済力が圧倒的に強い時は黙っていたが、日本が相対的に弱く見え始めたので、文句を言うことにした。それに中国の台頭が拍車をかけた。21世紀は中国の時代になる。日本は没落する。そう考えたので日本を叩くことにした。日本叩きは朴槿恵政権になった頃から顕在化したが、それは保守・革新にかかわらず韓国人の本音と見てよい。

 しかし、バイデン政権が誕生してから、雲行きがおかしくなってきた。トランプ政権は中国を叩きながらも、どこかで落とし所を探っていた。それはプロレスに似ており、相手を攻撃するフリをしながらも妥協点を見出そうとしていた。その時分、米国は韓国に対して中国包囲網の一員に加わることを要請しなかった。そのような状況の下で、韓国は日本叩きに走ることができた。

 だが、米国の世論は大きく変化した。現在、米国の庶民も「中国は米国にとって危険な存在である」と思うようになった。米国は中国を敵視し始めた。それを受けてバイデン政権は中国封じ込め政策に出ている。だが、そんなバイデン政権にとって、韓国は米国の核の傘の下にありながら、中国に擦り寄る憎々しげな存在に映った。

 韓国が米国の本気度を感じたのは3月18日にブリンケン国務長官とオースティン国防長官が訪韓した時だろう。米国は韓国に、中国につくのか米国につくのか選択を迫った。その時、韓国は咄嗟に返事ができなかったが、米国の本気度を感じ取り、これまでの方向を180度変更することにした。

 ブリンケン国務長官は中国包囲網を作る上で日本との連携は欠かせないから、韓国が日本と和解することを求めた。国務長官らが帰国した後に、文在寅らは国際情勢を再検討した。朝鮮半島に住む人々は、400年ほど前に「明」が滅んで「清」が作られた際に選択を誤って酷い目にあったことがある。そんな経験から、事大主義は徹底している。常に強いものの味方になる。

 韓国政府が中国の今後に不安を感じたということもある。韓国経済は日本以上に中国と密接な関係にある。そのため、中国の不動産バブルが深刻な状況にあり、また高齢化が進行し始めたために将来に不安があることを日本以上によく理解している。それに加えて米国による中国包囲網である。中国の先行きは暗い。そうであるなら、米国につかざるを得ない。そう判断した。その結果が、今回の判決となって現れたと言ってよい。

韓国の裏切りに怒り心頭の中国

 韓国人文在寅も、イギリスで開催されたG7に招かれたことが嬉しかったようだ。先進国の一員として認められた気分であり誇らしい。その会場でなんとか菅首相と言葉を交わしたい。それは日本と和解するためではなく、日本と和解しようと努力していることを米国に見せるためである。

 このような情景を苦々しく思って眺めているのは中国だろう。21世紀に入った頃から韓国は中国に対して忠誠を尽くしてきた。朴槿恵2016年に行われた抗日70周年記念の軍事パレードに参加している。中国は韓国との間に大きな貿易赤字を抱えているが、韓国が自分は中国の子分であるというので、貿易赤字を容認してきた。

 しかし、今回、韓国はその方針を180度転換した。中国を見捨てて、米国になびいた。中国は韓国の裏切りに怒り心頭である。王毅外相は6月9日、韓国外交部に米国に擦り寄るなと警告したが、そもそも中国包囲網を話し合うためのG7に喜んで参加したこと自体が、中国包囲網に加わるという意思表示になっている。中国は今後、時期を見て報復に出るはずだ。まずは警告的に、なにか韓国が嫌がることを行うだろう。

 だが、韓国は中国の反発を十分に考慮に入れた上で今回の一連の行為に及んだわけではない。なぜなら歴史的に、朝鮮半島に住む人々は長期的な視野に立って物事の判断を下すことが苦手だからだ。その場その場で強いものの味方になる。それは歴史が証明している。そんな韓国だから、中国から強烈なしっぺ返しを受けた時には、大いに慌てることだろう。

(筆者からのお知らせ) 筆者の新刊『中国、朝鮮、ベトナム、日本、極東アジアの地政学』(育鵬社)では、このような韓国人の行動原理をさらに詳しく説明しているので、本稿とあわせてご一読いただきたい。朝鮮半島の戦争の歴史を知れば、無礼でもあり不可解でもある韓国や北朝鮮の行動を理解できるようになる。彼らの「心の中の戦争」を知れば、彼らの行動を予測することはそれほど難しいことではない。

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