日本の防衛装備品を輸出する方針を政府が打ち立ててから7年が経ちましたが、思うような実績を挙げられていません。インドネシアへの軍艦の提案も実を結びませんでした。なぜ売れないのか、日本はふたつの理由で不利といえます。

「防衛装備移転三原則」から7年 売れた軍艦ゼロ

日本がイタリアに敗けました。防衛装備品のセールスにおいて。

イタリアの造船メーカー、フィンカンティエリは2021年6月10日(木)、インドネシア国防省との間で、「FREMM」(Fregata Europea Multi Missione )級フリゲート6隻の新規建造契約と、現在イタリア海軍が運用しているマエストラーレ級フリゲート2隻を、同国海軍から退役後にフィンカンティエリが近代化改修して売却する契約を締結したと発表しました。

インドネシア海軍は老朽化したアフマド・ヤニ級フリゲート5隻を更新し、さらに水上戦闘艦戦力を強化する計画を打ち出していました。この計画に対しては、日本も海上自衛隊が建造を進めている「もがみ」型護衛艦の原型として三菱重工業主導で開発された「FMF」(Future Multi-mission Frigate/将来多用途フリゲート)を提案しており、インドネシアやその他の外国の一部メディアは、FMFが最有力候補なのではないかとも報じていました。

2014(平成26)年4月1日に条件付きで防衛装備品の輸出や共同開発を認める「防衛装備移転三原則」が政府方針として制定されて以降、日本は各国に向けて防衛装備品の輸出に向けた話し合いを進めてきました。

海外への防衛装備品の輸出のうち、自衛隊で余剰となったアメリカ製航空機や航空機部品の無償譲渡は着実に進んでいますが、インドネシアへの水上戦闘艦の輸出も含めて国内開発された防衛装備品の輸出は難航しており、2020年8月に契約が締結された、フィリピンへの警戒管制レーダー4基の輸出の1件にとどまっています。

ふたつの課題で日本は不利

航空宇宙産業に携わる企業団体の一般社団法人日本航空宇宙工業会(SJAC)は、2021年5月28日東京都内で会長会見を行い、この席でも村山滋 会長(川崎重工業特別顧問)に対して出席した記者から、なぜ防衛装備移転三原則の制定から7年が経過したにもかかわらず、なかなか成果が上がらないのかとの質問が寄せられました。

この質問に対して村山会長は、先進国以外への防衛装備品の移転にはサポート体制の構築や「オフセット取引」といった、民間企業だけではクリアできない問題が存在しており、これも成果が上がらない要因となっているとの見解を示しています。

先進国以外の国へ防衛装備品を輸出する場合は、引渡し後も一定期間、輸出国で訓練や運用の支援をすることが求められる事も多く、輸出実績の豊富な国は、自国の軍隊で輸出した防衛装備品を運用している現役の軍人や、企業に雇用された運用経験を持つ退役軍人を輸出国に派遣することでその要求に応えています。対して日本には、官民ともにその要求に応える能力がなく、これが防衛装備品の輸出を行う上で、不利な要素になっていると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)も思います。

そしてもうひとつの「オフセット取引」とは、輸出した防衛装備品の部品の生産などを輸出国の企業に委託したり、あるいは輸出した国から工業製品や農作物などを購入することで、輸出で得た利益を輸出国に還元する取引をいいます。日本ではあまり馴染みがありませんが、世界的の防衛装備品市場では、この取引が主流となっています。

鶏肉を買って輸出したサーブ 時期悪く…

スウェーデンサーブは同社が開発した戦闘機JAS39グリペン」を、チェコハンガリー南アフリカ、タイ、ブラジルに輸出しています。

サーブ南アフリカ空軍でグリペンが採用された見返りとして、同国に採用されたグリペンC/Dの 主脚収納部を含む中央胴体などの製造を、南アフリカの航空機メーカーのデネルに、通信装置の製造を同国の通信機器メーカーのグリンテックに委託することで、利益を還元しています。

また南アフリカ以上に大きな航空産業の基盤を持つブラジルに対しては、同国が採用したグリペンE/Fの機体の約80%を、ブラジル国内で製造して雇用を生み出すとともに、ヘッドアップ・ディスプレイやコックピットの大型液晶ディスプレイなどもブラジル企業に発注しています。

南アフリカやブラジルほど大きな航空産業の基盤を持たないタイに対しては、スウェーデン政府がタイ産の鶏肉を購入することで、利益の一部を還元したようです。ただ購入した時期に鳥インフルエンザが大流行したため、スウェーデン政府は鶏肉の売りさばきに苦労したという話もあります。

スウェーデン政府とサーブグリペンの輸出にあたって、競合国の政府やメーカーよりも高い利益の還元を提案しており、チェコに対しては一般的に100%程度の利益還元率を150%%に設定し、それが輸出成功の大きな要因のひとつになったと言われています。

現在の防衛装備品の世界市場は、品質や性能が高ければ売れるという、甘いものではありません。

日本の防衛装備品の輸出に関しては国内でも賛否両論がありますが、輸出によって国内の防衛産業や航空宇宙産業の維持発展を図るのであれば、民間企業の力だけでは実現不可能な輸出国へのサポート体制の構築やオフセット契約を、官民一体となって提案できる体制づくりが必要であると筆者は思います。

インドネシアが採用を決定した「FREMM」級フリゲート(画像:フィンカンティエリ)。