(北村 淳:軍事社会学者)

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 COVID-19新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響によりヨーロッパアメリカ、そしてアジア各国で開催されていた海軍関係の展示会なども中止あるいはオンラインの開催に追い込まれていた。

 しかしながらアメリカや西欧では、ワクチンを打ちまくりビジネスを再開させる動きと軌を一にして、今夏から軍需業界の対面での展示会も再開される見込みとなってきた。そのような動きに応じて、久々の対面での海軍関係展示会「MADEX(国際海洋防衛産業展) 2021」が6月9日から12日にかけて韓国・釜山において開催された。

 MADEX 2021の出展企業は韓国海軍や韓国軍需関連企業が中心であり、国際的にはそれほど大規模な海軍関係展示会というわけではない。だがヨーロッパアメリカの軍需メーカーも出展しており、久しぶりの対面での国際的な展示会であるため、米海軍などでもそれなりの関心は持たれていた。

なぜCVXが必要なのか?空母推進派の主張

 とはいえ実際にMADEX-2021が開催されると、展示会場の敷地は3分の1以上が韓国海軍の航空母艦(CVX)開発計画関連の展示にあてられており、艦載戦闘機なども含めてCVXにまつわる展示が半数以上を占めているような印象だったという。

 韓国海軍が計画しているCVXは以前よりたびたび取り沙汰されていたが、今回の展示会では新たにデザインされたCVXの模型なども展示された。韓国海軍は、以前本コラム(「韓国が海軍大増強へ、一体どこと戦うつもりなのか」)でも触れたように、航空母艦リチウム電池潜水艦原子力潜水艦、それにアーセナル艦(ミサイルや火砲を多数搭載し強力な攻撃力を保有した軍艦)などの保有を目標に掲げているが、とりわけCVXの開発には積極的である。

 韓国海軍が計画しているCVXは、強襲揚陸艦を拡大した軽空母に分類される航空母艦である。最大4万トン(全長265m、全幅43m)程度で、F-35B艦上ステルス戦闘機16機と各種ヘリコプター8機を運用する。航空要員を除いた乗組員は440名。探知距離300kmのSバンドレーダーシステムと、より短距離探知用のXバンドレーダーシステムを備え、それらと連動するK-SAAM艦対空ミサイルを装備する。建造費は20億米ドル、運用コストは毎年4500万米ドルと見積もられている。

 韓国海軍などの空母推進派によると、CVXを韓国海軍が手にすることにより、韓国のシーレーン防衛能力が強化され、北朝鮮に対する抑止能力も強化されるため、韓国の防衛力は強固なものになるという。それに加えて人道支援活動や災害救援などでも活躍が期待されるという。

 また、中国海軍が複数の航空母艦を建造し配備を開始しており、海上自衛隊ヘリコプター空母をF-35B用軽空母に改装する予定であるため、それら隣国に対抗するためにも韓国海軍も少なくとも軽空母を保有して、国家として、そして海軍としてのプライドを保つべきであると空母推進派は主張している。

 このほかにも、CVXは最終目標ではなく、将来的には韓国海軍が保有すべき超大型空母を開発・運用するためのステップであり、CVXで空母建造・運用経験を積むことにより超大型空母保有に一歩ずつ近づかなければならないといった意見もあるようだ。

「CVXより攻撃原潜を」の声

 これに対して、韓国国会やシンクタンクなどの軍事関係学者、それに世論の多くは、莫大な予算が必要となるCVX計画に強く反対している。

 たとえば、「北朝鮮に対する抑止力は見込めない」という指摘がある。CVXを運用することで対北朝鮮抑止力が強化されるという論者は、狭い韓国内の航空基地は北朝鮮によるミサイルや長射程砲による一斉攻撃によって壊滅してしまう可能性が高いため、CVXを運用することによって、万が一の場合にも海上から航空機による反撃が可能であるというオプションを確保しておくべきであると主張する。だが、北朝鮮軍の一斉砲撃によって韓国空軍機が全滅する事態は現実的ではないうえ、わずか20機ほどのCVX艦載戦闘機による反撃能力によって強力な抑止効果が生ずるとは考えにくいという反対意見がある。

 あるいは、そうしたテクニカルな考察の結果として「CVXは期待可能な価値を考察しても、あまりにも高額すぎる」というコストパフォーマンスの観点からの反対が、とりわけ国会関係者などから強く唱えられているようである。そのため、韓国海軍が要求したCVX関連の研究費9000万ドルは89万ドルにまで削減されてしまった。

 国会や専門家たちの間からは、CVXに多額の国防費を投入するならば、原子力潜水艦を開発した方がコストパフォーマンスは高いという声も上がっている。韓国海軍が攻撃原潜を運用すれば、戦略ミサイル潜水艦を開発している北朝鮮への強力な抑止力を手にすることが可能になるからだ。

 それだけではなく、いくら韓国海軍がCVXを運用しても強大な中国海軍に対抗することは不可能に近いが、攻撃原潜を数隻運用すれば中国海軍に対してある程度の対抗力を手にすることができる。また、CVXと違い攻撃原潜ならば日本列島太平洋側にも進出することが可能である。そのため日本へ睨みを効かすことも可能になるのである。

 以上のように、韓国海軍がそのプライドを保つために熱望しているCVX計画は、韓国内では極めて苦戦を強いられている。

 そのため韓国海軍は、MADEX 2021という久々に開催された国際海軍関連展示会でCVX計画を国際社会に向かって大々的にアピールすることによって、国内での評判を盛り返そうとしたものと思われる。それはあたかも、日本国内で評判が良くない五輪開催をG7で国際社会にアピールすることで日本国内での劣勢を少しでも挽回しようとした管政権と同様の目論見だとも言えるだろう。

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