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スコットランドの風光明媚な道を4Sで

text:Mike Duff(マイク・ダフ)
photo:Max Edleston(マックス・エドレストン)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
筆者は以前、次期ポルシェ・ボクスターは純EVになる可能性がある、と予想したことがある。今回は、AUTOCARの詳細テストで満点を獲得したポルシェ製の純EV、タイカン4Sでその未来を占ってみたい。

【画像】詳細テストで満点獲得 ポルシェ・タイカン バリエーションを比較 全78枚

春が来て、スコットランドへ出されていたロックダウンの規制が緩くなった。素晴らしい大地に広がる一般道、ノースコースト500は、大勢のドライバーで賑わうことは想像に難くない。実際、周辺の宿はどこも満室だ。

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ポルシェ・タイカン4S(英国仕様)

そこで筆者は、北東に進路を取った。同じくスコットランドのグランピアンズ山脈とアバディーンシャー地方には、ノースイースト250という道がある。ノースコースト500の観光的な成功で、運転を楽しむ道路整備が進められたのだ。

地図で見る限り、見事な景色の中に伸びる、素晴らしい道路のようだ。ただし大自然のルートなだけに、充電設備は充分に整っていない。ちょっとした、冒険的な要素も含まれそうだ。

期待を膨らませながら、スコットランド東部、ケアンゴームズ国立公園の南にあるスピッタル・オブ・グレンシーにタイカン4Sで到着。ノースイースト250の旅のスタート地点になる。

わたしにとって、高評価のポルシェ・タイカンに乗るのは今回が初めて。フォトグラファーのマックス・エドレストンと一緒の、処女旅行になる。

英国での4Sの価格は8万3580ポンド(1287万円)からだが、試乗車はオプションが盛られ9万7908ポンド(1507万円)に膨らんでいた。例えば、ボディとコーディネートするようにエンブレムを塗装するだけで、168ポンド(2万6000円)が必要になる。

2番目のタイカンでも呆れるほど速い

電動式の充電ポートにすると443ポンド(6万8000円)取られる。これで走りが一気に引き締まる、というのは冗談。最も重要なアイデムが、パフォーマンス・バッテリープラス。3906ポンド(60万円)となっている。

ほかにも、後輪操舵システムの装備に1650ポンド(25万円)。20インチのタイカン・ターボエアロホイールを履くには1524ポンド(23万円)が必要だ。

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ポルシェ・タイカン4S(英国仕様)

ポルシェ・タイカン4Sの第一印象。ボディの見た目はすごくイイ。

だが、インテリアはオプションで上昇した価格ほどとは思えなかった。ベーシックとは感じさせない、ミニマリスト。光沢あるタッチモニターが大きく、ダークカラーのプラスティックが用いられ、温もり感や触れた時の喜びは乏しい。

そんな気持ちを抱きながら発進する。下から2番目のグレードのタイカンでも呆れるほど速いことを体験してしまうと、車内のことなど忘れてしまう。運転したくて、スピッタル・オブ・グレンシーの観光スポットに立ち寄る時間も惜しい。

2014年の火事で廃墟になった、ススまみれのホテルがあるという。朝の8時半に訪ねるような場所ではなさそうだ。

A93号線が北に伸びる。この道は、クルマ好きが目指す目的地としての道路。スコットランドで最も優れた舗装路の1つに数えられる。路面の状態は美しく、視界が抜けていて、様々な起伏とカーブが入り混じっている。

技術が試されるようなタイトコーナーから、全開で抜けられる緩い曲部まで、雄大な山岳地帯に道が続く。タイカンは、春に川を遡上するサケのように、果敢に先を目指す。

旋回時の質量を完璧に制御できる

加速は瞬間的。どんなにレスポンスの鋭いエンジンでも、真似はできないだろう。アクセルペダルのストロークの30%くらいでも、気持ち悪くなるほどの加速を生む。

さらに、それ以上に横方向へ掛かるGが半端ない。息を呑むほどの直線加速を披露する純EVは、少なくない。しかし、タイカン4Sほど旋回時に質量を完璧に制御できるクルマは他に思い浮かばない。

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ポルシェ・タイカン4S(英国仕様)

ミシュラン・パイロットスポーツ4Sが生む強力なグリップ力と、トルクを自在に可変させる四輪駆動システム。それに後輪操舵が組み合わさり、連携し、2295kgという車重を感じざせないほど扱いやすい。

10分も運転すれば、能力の高さを明確に感じ取れる。640km、2日間の旅で、さらなる領域へ迫れるだろう。アバディーンシャー地方への道端に、「山から海までスコットランドのベスト」と記された案内看板が立っていた。

2kmも離れていない場所には、グレンシーのスキー場もある。雪の溶けたゲレンデでは、リフトが冬の到来を待っている。ロッジのカフェは1年中営業しているが、5月の今はひっそりと静まり返っていた。

出発して間もなく、雨が振り始めてきた。濡れた路面でも、四輪駆動システムが頼もしい。谷間にあるブレイマーの街を通過する。ここでは、帰りに休憩を取る予定。

ティー川に沿って東へ進む。王室が避暑地に使うバルモラル城の横を抜けて、北のトミントゥール方向を目指す。途中、長い湿原を走り、峠を越えた。景色はグレンシーほど壮観ではないものの、道は空いている。思いのままに運転できる。

ポルシェのタンクを満たす金額としては破格

タイカン4Sの航続距離は、実際の走行距離以上に速いペースで短くなる。積極的に運転しているから、当然のことだ。

休憩するには早いとはいえ、残りの電気で走れる距離は130km。予定の宿泊場所、バンフの街より手前で一度充電することになりそうだ。

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ポルシェ・タイカン4S(英国仕様)

シングルモルトで有名なハイランド地方に入ると、道は狭くなり、交通量が増える。グレンリヴェット、バリンダロック、グレンファークラスといった蒸留所が点在している。

多くを見送り、われわれが立ち寄ったのはクライゲラキの街にあるデュワーズ蒸留所。DC充電器が設置してある、このエリアでは貴重な場所だ。

今回の旅行の準備として、ハイランド地方の充電器を利用するために、RFIDカードを準備した方が良いと知人からアドバイスを受けていた。申請から2週間後、出発直前に届いたカードがなければ、充電器のロックは解除できなかっただろう。

クライゲラキに設置されていたのは、50kWの急速充電器。比較的短い時間で充電できるものの、サンドイッチとコーヒーの休憩を兼ねて、50分間つないでみた。蓄えられた電気は38kWhで、料金は11.03ポンド(1690円)。

ポルシェタンクを半分詰める金額として考えれば、かなり安い。筆者の経験では一番。

スペイ渓谷に沿うようにA95号線を北上。道路は混雑していて、ペースは上がらない。タイカンのもう1つの側面を確かめる機会だ。穏やかに流している時の上質さは、圧倒的なパフォーマンスと同じくらい印象深い。

この続きは後編にて。


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