『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、温暖化ガス排出ゼロを目指す「グリーン成長戦略」から「原発活用」のフレーズ削除された裏事情を推測する。

(この記事は、6月14日発売の『週刊プレイボーイ26号』に掲載されたものです)

* * *

温暖化ガス削減に向けて菅政権が打ち出したグリーン成長戦略から、ある文言が削除されたことが波紋を呼んでいる。

2050年温暖化ガス排出ゼロを目指すこの戦略は昨年12月に取りまとめられ、今年6月中にもその改定案が公表される予定だった。そして6月2日に示されたその改定案を見ると、20年12月版にあった「(原発)を引き続き最大限活用していく」というフレーズがきれいさっぱりと削除されていた。

今年4月に原発リプレース(建て替え)を推進する議員連盟が結成され、最高顧問に安倍晋三前首相が就任するなど、自民党や財界を中心に原発推進派が攻勢を強めてきた。グリーン成長戦略の策定を「渡りに船」とばかり、温暖化ガス削減のためにはCO2を排出しない原発を活用すべきとの大合唱が始まっているのだ。

当然、誰もが改定案でも原発活用の方針は維持されると予想していた。なのに、なぜそのフレーズは消えたのか?

報道によれば、フレーズの削除は再生可能エネルギーを重視する小泉進次郎環境大臣や河野太郎行政改革担当大臣らの意向が背景にあるとされている。ある官邸筋も、河野大臣は菅首相に削除を熱心に進言していたという。また、別の政府関係者によれば、小泉大臣も公明党山口那津男代表を訪ね、脱原発の声を上げるべきと口説いたそうだ。

その効果があったのか、公明は5月末に「将来的に原発に依存しない社会を目指すべき」という提言を菅内閣に提出している。与党である公明のこの提言が「原発活用」のフレーズ削減に大きく貢献したのは確かだ。

ただ、実際にフレーズ削除に踏み切った主役は菅首相本人だったと私は考えている。自民党の正式機関である総合エネルギー戦略会議はすでに原発推進の大合唱を受け、原発のリプレースや新増設を進める提言を取りまとめている。それでもグリーン成長戦略にその要素が入らなかったのは、首相が自らの判断で原発の「最大限活用」というフレーズから距離を置こうとしたからと考えるべきだろう。

その理由として私が考えていることがふたつある。一点は支持率の維持だ。原発ゼロを求める世論は根強い。もしここで原発推進を明確にすれば、さらに支持率が下落しかねない。総選挙を前に、不人気な原発推進政策をぶち上げるのは得策ではないと判断したのだろう。

もう一点はポスト菅選びで主導権を握ろうと動きだしている「3A」(安倍前首相、麻生太郎副総理、甘利明党税調会長)への牽制(けんせい)だ。3Aは原発推進の中心にいる。菅首相はグリーン成長戦略に「原発活用」のフレーズを盛り込まないことで、3Aの求心力に水を差そうとしているのではないか? 

今年11月イギリスで開かれるCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)に備え、今夏にはエネルギー基本計画も改定されると報じられている。日本のエネルギー政策、グリーン成長戦略はどうあるべきか。それを考える上で、「原発をどうするのか」を議論することは不可避だ。

コロナ対応や五輪開催の陰に隠れて、自民党内の原発推進をめぐる綱引きは激化するが、推進派は、今は死んだふりをして選挙後に勝負をかける可能性もある。今後の政局と密接不可分になっている原発政策の行方に要注目である。

古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

「コロナ対応や五輪開催の陰に隠れて、自民党内の原発推進をめぐる綱引きは激化するが、推進派は、今は死んだふりをして選挙後に勝負をかける可能性もある」と語る古賀茂明氏