S660は販売台数少なく、法規対応も困難
2020年度(2020年4月から2021年3月)の国内新車販売状況を見ると、軽自動車が38%を占めた。
【画像】惜別 ホンダS660【どんなクルマだった?】 全232枚
国内販売ランキングの上位にも、Nボックス、スペーシア、タントなどの軽自動車が多い。
好調に売れるカテゴリーだから、タフトのような新型車も投入されている。
その一方で、生産を終える軽自動車もある。
最近はスポーツカーのS660が受注を終了した。生産は2022年3月まで行う予定だが、S660は生産台数が少ないため、すでにすべての生産枠を売り切った。
S660が生産を終えた理由は、各種の法規対応が困難になったからだ。
今後は衝突被害軽減ブレーキを搭載せねばならないが、S660が採用するのは赤外線レーザーを使った低速用のみだ。このほかタイヤが発するノイズを含めた騒音規制、衝突安全基準の達成なども求められる。
この時に重視されるのが売れ行きだ。
大量に売られるクルマなら、コストを費やしても改良をおこなって法規に対応させるが、販売の低調な車種は難しい。改良をおこなっても、それに見合う売り上げが得られない可能性もあるからだ。
S660の2020年度における届け出台数は、1か月平均で234台であった。Nボックスは1万6492台だから、S660は1.4%に過ぎない。これでは対応が難しく、生産を終えることになった。
S660よりも古いコペンは生き残っている
軽自動車は薄利多売の商品だ。
S660の価格は全グレードが200万円を上まわり、軽自動車では高価な部類に入るが、開発や製造のコストはそれ以上だ。
エンジンをボディの中央に搭載するミドシップレイアウトで、サスペンションなども含めて独自の設計になる。
そうなるとコストが高騰するから、1か月平均の届け出台数が200台少々では採算を取りにくい。
ちなみに2015年にS660が発売された時の販売目標は、1か月当たり800台だった。それが実際の月販平均台数は、現在の200台少々を含めると約450台に留まる。これらの事情から、S660は法規に対応して売り続けるのが困難と判断された。
このようにクルマの開発は、売れ行きによってシビアに判断される。とくに1台当たりの粗利が低い軽自動車は、この傾向が強い。
軽自動車のクーペとしては、S660のほかにコペンもある。現行コペンの登場は2014年だから、2015年のS660よりも古い。
2020年度の届け出台数は、1か月平均で245台だからS660とほぼ同じだ。
そしてコペンは衝突被害軽減ブレーキを一切装着しないので、今後の法規対応はS660と同様に難しい。
S660の開発者からも「ダイハツさんは、コペンにどう対処するのだろうか」という声が聞かれた。
ダイハツの販売店に尋ねると「コペンに関しては、メーカーからは何も聞いていない。従来どおり注文も入れられる」という。S660が終了した今、コペンは貴重な軽自動車のクーペだ。
アルトはフルモデルチェンジ ワークスは?
軽自動車のスポーティモデルとしては、アルトワークスとNワンRSも挙げられる。
以前のキャスト・スポーツは生産を終えて、今は豪華指向のキャスト・スタイルのみになった。
アルトのノーマルグレードは、2021年から2022年にフルモデルチェンジを受ける。
スポーツモデルのアルトワークスは、ノーマルグレードと同時か、少し遅れて登場する可能性が高い。
アルトワークスのエンジンは、従来と同じくターボで、走行安定性やMT(マニュアルトランスミッション)の操作性を大幅に向上させる。
現行アルトワークスは、ターボRSの上級仕様として追加されたが、次期型では最初からワークスを含めて開発されるからだ。その方が商品力を高めやすい。
スズキの販売店では、アルトワークスの売れ行きについて以下のように述べている。
「最近は若年層のクルマ離れといわれるが、アルトワークスでは、若いお客さまも女性を含めて増えている。走行性能とあわせて、外観のカッコ良さと求めやすい価格が人気の理由だ。手頃な価格で買える運転の楽しいクルマは、中高年齢層も含めて、幅広いお客さまから好まれる。同様にスイフトスポーツの人気も高い」
アルトワークスの価格は153万7800円(5速MT)だ。スペーシアで売れ筋になるハイブリッドXと同等の出費で、専用にチューニングされたターボエンジン、サスペンション、レカロ製シート、エアロパーツなどを装着するスポーツモデルが手に入る。
スイフトスポーツも同様だ。専用にチューニングされた1.4Lターボエンジン、モンロー製フロントストラット&リアショックアブソーバー、エアロパーツなどを装着して、価格は201万7400円(6速MT)になる。
運転の楽しさと割安な価格を両立させて、アルトワークスとスイストスポーツは人気を高めた。
コンパクトスポーツは現代のニーズに合う
クルマを購入する場合、今も昔も価格を200万円前後に想定するユーザーが多い。この背景には、所得と車両価格のバランスがある。
平均所得は1990年代の後半をピークに下がっており、今でも約25年前の水準に戻っていない。
その一方でクルマの価格は、安全装備、運転支援機能、環境性能の向上と消費増税により上昇傾向にある。
20年前は約200万円でステップワゴンのようなミニバンを買えたが、今は240万円以上だ。
所得が下がる一方で、クルマの価格は20年前の1.2~1.3倍に増額され、購入可能な車種が小さくなった。
そのために今では国内で売られる新車の38%が軽自動車で、小型/普通乗用車の約40%をコンパクトカーが占める。小さなクルマのニーズが従来以上に高まった。
スポーティなクルマも同様だ。1台だけを所有する場合、S660やコペンのような2人乗りのクーペは選びにくいが、アルトワークス、NワンRS、スイフトスポーツのような実用性の伴ったコンパクトなスポーツモデルはユーザーニーズに合う。
コンパクトスポーツはクルマづくりのために必要
しかも最近は、MTを選べる車種が大幅に減った。
AT車の限定免許が普及して、乗用車のMT比率が2%以下に減った影響だが、AT限定免許の取得者はさほど多くない。
現時点で第一種普通運転免許を新たに取得した人のうち、AT限定の比率は69%だ。残りの31%はMTを運転できる。
それなのにMTを選べる乗用車が激減したから、スイフトスポーツやNワンでは、MTの販売比率が約60%に達した。
アルトワークスは80%前後だ。これらの軽自動車やコンパクトカーのスポーツモデルは、手頃な価格でMTを選べる貴重なクルマとして注目され、人気車になっている。
したがってクルマ好きのユーザーを満足させるには、ボディがコンパクトで価格も割安で、なおかつ適度な実用性と運転の楽しさをあわせ持つスポーツモデルが必要だ。
軽自動車やコンパクトカーの大量に売られるボディ、プラットフォーム、エンジンなどを活用して、いかに楽しいクルマを開発できるかが問われている。
ベース車の素性も大切だ。ベース車のつくりが良くないと、そこにパワーアップされたエンジンや足まわりを組み合わせても、上質なスポーツモデルは生まれない。
つまりコンパクトなスポーツモデルの開発は、日本車のクルマづくりを根底から引き上げる役割も果たすのだ。
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