自民党が今国会での「LGBT理解増進法案」の提出を見送ったことを受け、東京五輪パラリンピックを契機に法案成立を求める国際キャンペーンをおこなってきた当事者団体や支援団体などは6月18日文科省で会見し、「非常に残念だ」と遺憾の意を表明した。

自民党保守派の異論で見送りに

同法案は、性的指向や性自認を理由とした差別は許されないなどと明文化したもので、与野党で合意されていたが、自民党保守派から「差別だと訴える訴訟が増える」などの異論があり、今国会での成立に至らなかった。

フェンシング元日本女子代表で、トランスジェンダーであることを公表している杉山文野さんは「本当に残念でなりません。根深い差別と偏見を感じています。こういう国のどこに希望をもって、当事者として生きていけばよいのか、言葉もありません」と語った。

五輪憲章では、性的指向による差別を禁止しているほか、G7でも日本以外の6カ国で性的マイノリティに関する差別を禁止する法律が整備されており、五輪開催を前に同法案の成立が望まれていた。

●「安心して学校に行き、仕事に行ける日常生活を」

会見で、同法案成立を支援してきた国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗弁護士は「五輪憲章の中でには、性的指向による差別禁止が明記されていますが、五輪が始まる直前にもかかわらず、この法案を成立させられなかった日本に対し、国際社会は失望と驚きを感じているというのが現実です」と指摘した。

LGBTの差別を禁止する法律は世界80カ国以上にあります。しかし、日本の今回の法案は差別禁止法ですらなかった。世界の中でも、きわめて薄い法律でありながら、それさえも通せなかった日本に対し、一刻も早い差別禁止法の成立が国際社会からも望まれていると思います」と語った。

また、同法案の今国会提出を求める緊急声明に賛同する弁護士・法学者の署名も1285筆となった。呼びかけ人の一人で、同性婚訴訟弁護団のメンバーでもある寺原真希弁護士は、当事者から相談を受ける立場から、次のように語った。

「これまで、性自認や性的指向によって差別され、解雇された方や、いじめにあったりしたお子さんなど、具体的な被害を目の当たりにしてきました。偏見が根深い日本社会の中で、今この瞬間も苦しみながら、必死で生きている方々がいらっしゃいます。

彼らが求めているのは特別扱いではなく、ただ安心して学校に行き、仕事に生き、日常生活を送ることです。そのために必要なのは、差別を許さないことが社会に認知されることであり、法律の存在意義は非常に大きいと考えています」

当事者団体や支援団体などは今後も法律の制定を求めていくという。

LGBT法案見送りに当事者らが遺憾表明「この国のどこに希望をもって生きればいいのか」