「摘発ですか? 捕まった人がいたなんて…」梅田の地下街で体を売った女性が明かした“悲劇”と“抜け出せない理由” から続く

 大阪・梅田の地下街の待ち合わせスポットとして知られる「泉の広場」。ここで売春をしていた当時17~64歳の女性61人が、売春防止法違反で大阪府警に現行犯逮捕されていた。府警は令和元年から2年にかけて約1年がかりで捜査していたという。

 大都会の真ん中で、何が起こっていたのか――。この事件を取材して、文春オンライン上に「日本色街彷徨 大阪・泉の広場」として公開したのが、『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)などの著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏だ。「文春オンラインTV」(4月29日放送)では、八木澤氏にインタビューを敢行し、原稿に書ききれなかった出来事を語ってもらった。

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17歳から64歳までの女性が逮捕されていた

――この「泉の広場」を取材しようと思ったきっかけは何ですか?

八木澤 今年1月、産経新聞ネット版に「事件化された『客待ち』スポット 摘発された女たち」(2021年1月21日)という記事が出ていたことです。女性61人が現行犯逮捕されたと報じたこの記事を読んだときは、私も関東の人間なので「泉の広場」という名称も知らなかったのですが、調べると梅田から10分ぐらいの場所。そんなところに、立ちんぼが立っているスポットがあることが驚きでした。「どういうところなんだ?」という、自分の興味から取材してみたいと思いました。

――そもそも“立ちんぼ”とは、どんな仕事なのですか?

八木澤 要は路上で春を売っている人たち、ということですよね。例えば、ラブホテル街のようなところに立っていて、通りを歩く男の人を誘うわけではないんですけど、客の人も暗黙の了解で、「このあたりに立っているのであれば、そういう仕事を生業としている人かな」と分かる。東京であれば、新大久保や新宿などが多いでしょうか。かつては錦糸町にもあったんですが、摘発でどんどん減っていきました。

――今回、「泉の広場」では逮捕された女性が61人と多いだけでなく、女性たちが「大阪や京都、兵庫など関西圏のほかに、長崎や香川など遠方からも訪れていた」と先の記事で報じられたことに驚きました。さらに17歳から64歳まで年齢層も幅広かったそうですね。

八木澤 高齢の立ちんぼは、僕が最初に取材していた横浜の黄金町という街でもいましたね。64歳の方がいても、全然おかしくないと思います。

階段を上がって数分のところにはラブホテル

――実際に取材されて、「泉の広場」はどんな場所でしたか?

八木澤 大阪駅から地下街をずっと歩いて行くと、どん突きみたいなところに「泉の広場」があります。要は地下にある待ち合わせスポットで、地元の人たちに利用されている。その広場から階段を上がって数分のところにはラブホテル街があるので、お客さんを連れ込むのには、好条件だったんでしょうね

――「泉の広場」に売春を目的とした女性が立つようになったのは、いつごろからなんですか。

八木澤 新聞記事によると15年ぐらい前からと書かれている。ただ、正確なことは分からないですね。それこそ昔の遊郭だったら、合法的に利用できたので年月日がきちんと残っているんですが、立ちんぼの人たちは自然発生的に現れて、自然発生的に消えていきますからね。

――もともと、この地域は色町の名残があったそうですね。

八木澤 そうなんです。記事でも書きましたが、近松門左衛門の『曽根崎心中』の舞台になった曽根崎新地という江戸時代に始まる色街も近い。そこからちょっと離れたところに、「泉の広場」に近いラブホテル街、兎我野があります。だから源泉の部分では、梅田自体が大阪城を中心とした場合に大阪の外れに位置していて、色街が形成された場所ではあったんです。

――日本各地に色街はありますが、今回の「泉の広場」は違いがありましたか?

八木澤 僕の中ではあんまり感じなかったです。逆に実際に歩いてみると、いまは都会の真ん中ですけど、もともと色街だったことが分かって腑に落ちた。立ちんぼスポットができても全然おかしくないという気はしました。

女性は声もかけず「そこに立っているだけなんです」

――お店の摘発はよく聞きますが、なぜ今回「泉の広場」で摘発が行われたんですか?

八木澤 警察の言い分だと、周りのお店からの陳情ですね。やっぱり風紀が乱れると。それが第一の理由です。それに前々から警察の懸案事項として、いつか立ちんぼの摘発はやらなくてはいけないという話はあったらしいんです。それがなかなか取り掛かれなかった。というのも、地元の記者の話によると、女性が「行きましょう、行きましょう」って声かけてれば警察は摘発しやすい。だけど、泉の広場の女性たちは別に声もかけるわけじゃなくて、そこに立っているだけなんです。立ちんぼの女性たちを売春防止法で引っ張るためには、どんな形で摘発するかという問題があったそうです。

――女性たちは立っているだけなんですね。

八木澤 はい。それで今回は、売春防止法は五条三号の、売春を目的として立っているだけでも売春を示唆することになるという条文を適用した。ですから今回、警察は検察としっかり筋道を作って、何年も下準備をして摘発しているんです。

 これが外国人の立ちんぼであれば、在留資格の問題とかビザの問題とか、摘発する他の手立てがある。横浜の外国人の立ちんぼも今から15年前くらいに大規模な摘発に遭いましたが、その時も一晩に20人、30人と引っ張っていました。

――それは大々的ですね。

八木澤 「泉の広場」は2年がかりで61人ですけど、横浜の場合は、警察が一晩でバーッと連れていく。なぜ、そんなことができるかというと、やっぱり在留資格ですよね。罪状を見ると、基本的に売春防止法じゃない。「泉の広場」は日本人が相手だったので、そうはいかなかったんです。

広場でどうやって“立ちんぼ”の女性を見分けるのか?

――「文春オンラインTV」への書き込みでは、「広場でどうやって立ちんぼを見分けるのか」という疑問が出ています。

八木澤 「泉の広場」のような雑踏の中で、いろんな人が通りますから、時には普通に待ち合わせをしている人も間違えられたりしたと思います。私が取材した女性も、立ちんぼをするようになる前、ただ待ち合わせをしていたら、いきなり声をかけられたと言っていました。

――記事に寄せられたコメントでも、広場に立っていたら「いきなり『5万円?』と言われた」という書き込みもありました。一方で、広場を知っている方から「普通の人と明らかに違うからわかります」という書き込みがありますね。

八木澤 わかるとしたら服装ですかね。分かる人には分かるんでしょうね。

――でも、声を掛ける側の男性も、初めての方も居るわけですよね。そういう場合、「この人かな?」って、何となく思いながら声をかけにいくんですか?

八木澤 そうだと思います。全盛期だったら、立ちんぼの方が多く居て、「この人そうなんじゃないのかな」というのが分かりやすいと思います。あとは、わざわざ立ちんぼを買いに行く人は、いろんな風俗を経験して、「今度立ちんぼを買ってみようかな」という人が多いと思うので、雰囲気を感じることができたのかもしれないですね。

マッチングアプリで警察が近づいてきたことも

――八木澤さんは実際に売春目的で「泉の広場」に立っていた女性2人に取材されました。どのように接触されたんですか? 

八木澤 私も「泉の広場」に行って見つけようとしたんですけど、それらしき人が居なかった。それで、立ちんぼに立てなくなった女性が利用していると聞いたマッチングアプリを使って見つけてみようと考えました。マッチングアプリに詳しい知人にお願いして探してもらったところ、1週間ほどで返事があった。それで大阪に行って、お話を聞きました。

――取材された1人目は、杏梨さん(仮名)という30歳の方でした。

八木澤 明るい方でしたね。話し好きな方でしたが、突然「泉の広場の話を聞かせてくれ」なんてお願いだったので、とても警戒されました。「警察の方ですか?」なんて言われたので、僕も一応免許証を見せて、警察じゃないですよと説明して……。

――身分をしっかりと明かしたわけですね。

八木澤 僕のほうから出したんです。僕の名刺を出しても、杏梨さんからしたら、偽名かもしれないと思うじゃないですか。なので、名刺と免許証の住所が同じですとか説明しました。

 杏梨さんに会ったのは、大阪のとある街の、住宅街にある工場の近くでした。本当は、その前日にアポイントが取れていたんですが、彼女の都合が悪くなって会えなかった。それで改めてお願いして、「昼休みなら」と工場の近くのベンチで話を聞きました。

――それでも、最初は警戒されたのですね。

八木澤 彼女も「泉の広場」に居る時に、警察が張り込みをしているのを見ているし、私たちが使ったアプリを利用して、実際に警察が近づいてきたこともあったそうなんです。それで彼女の友人が捕まっている。だから、アプリを使って会う人も信用できないわけです。

女性の側からは絶対にお金の話は振らない

――杏梨さんは、いつまで「泉の広場」に立ってらっしゃったんですか?

八木澤 友人が捕まった昨年8月までです。

――そもそもですが、杏梨さんが広場に立った理由は何だったのでしょうか?

八木澤 生活費ですね。工場だけの収入だと、生活はできるけどギリギリのところなので。彼女は貯金もしたいというので、広場に立っていたそうです。

――新潟で夫からDVを受けて、大阪に移ってきたそうですね。

八木澤 別の所から新潟に嫁いで、子どもができてから旦那さんのDVが始まり、義理のお母さんともうまく折り合いがつかなかった。本当に精神的につらくて、とにかくすぐに離婚したかったそうです。子供の親権も手放すことになりました。

――杏梨さんは「泉の広場」で、どうやってお客さんをつかまえていたんですか?

八木澤 広場に立っていると、男性から声をかけてくるということでした。「泉の広場」に立ちんぼがいっぱい居た時代の話ですね。

――声をかけられて、そのままホテルに行くことになる?

八木澤 そういうことです。彼女が言っていたのは、警察の摘発もあったので、お金の話はその時点では全くしないと。

――広場では交渉はしないんですね。ホテルに行ってから交渉ですか?

八木澤 お金の話はホテルに行く途中ですかね。それでも女性の側からは絶対にお金の話は振らないそうです。

――彼女はいくら取っていたのですか?

八木澤 大体2万円と話していました。

制服を着た女子高生グループ

――杏梨さんは一緒に立っている友人も居たんですよね。

八木澤 いました。「どうやって知り合うんですか?」と聞いたら、アプリで知り合ったと言っていました。杏梨さんに「友達になってください」と連絡が来て仲良くなったと。それで、一緒に広場に立っていたそうです。

――その方以外にも、「泉の広場」で顔見知りになった人もいたそうですね。

八木澤 彼女の話によれば、60代以上の女性で、内輪で“妖怪”と呼んでいた女性グループが広場の一角に居たそうです。客層もいろんなお客さんが来ていて、サラリーマンや学生はもちろん、それこそ日銭で稼いだお金を握りしめて来る人も居た。いろんな階層の人が来ていたので、女性の側も色んな人がいたわけです。

――となると、若い子たちも居たのですか?

八木澤 杏梨さんによれば、制服を着た女子高生グループが居たそうです。彼女もどこの高校かは分からなかったそうですが、同じ学校から何人かが来ていたと。

――八木澤さんの記事でも紹介されていますが、2020年11月には女子高生に売春をさせていた容疑で男3人が逮捕されています。この事件は「泉の広場」の摘発から判明したそうですね。女子高生を背後で操っている男が居たわけですね。

八木澤 そうなんです。杏梨さんもこの事件は知っていました。杏梨さんはその男たちかどうかは分からないとしながらも、ヤクザ女子高生覚せい剤を常習させて、覚醒剤を買う金欲しさの売春をさせていたと証言しています。それが未成年の子で、杏梨さんが知るだけでも2人いたと。

――今回の「泉の広場」の摘発が、女子高生を救うきっかけにもなったのですね。

八木澤 そうですね。足を洗うきっかけになった。もちろん、他の場所でやっているのかもしれないですが、広場からは消えたわけです。

#2に続く)

「文春オンラインTV」の動画は下記のリンクから無料で視聴できます

文春オンラインTV「体を売った女性61人が現行犯逮捕された『大阪“ど真ん中”の待ち合わせスポット』で何が起きていたのか?《直撃ルポ》」

「ホテルに着いたら『お前、全部証拠はあるぞ』と…」大阪・泉の広場で会った男性が警察だった話〈体を売った女性61人逮捕〉 へ続く

(八木澤 高明/Webオリジナル(特集班))

大阪・梅田の地下街にある「泉の広場」 ©八木澤高明