かつて銀産業で栄えたアリゾナ州のトゥームストーンという町は、巨大な未確認生物で物議をかもした場所でもある。
1890年4月26日、地元の新聞『Tombstone Epitaph』誌に奇妙な記事が載った。ウィットストーンとワチュカ山の間の砂漠地帯で、大きな翼を持つ巨大な怪鳥が発見されたというのだ。今から約130年前のことだ。
この怪鳥は長い尾と巨大な羽毛のないコウモリのような翼をもち、その顔はワニに似ていたという。のちに「トゥームストーンの翼竜」と名付けられたこの怪鳥は発見時、かなり衰弱していて、ほとんど飛ぶこともできなかったらしい。
2人のカウボーイは、この奇妙な生物を馬で数マイル追いかけ、時々、空へ飛び上がろうとしたところを、ライフルで狙撃できる距離まで近づいて傷を負わせたという。
傷ついたこの怪鳥は、2人に向かって反撃してきたが最後は射殺した。
体長を測ってみたところ約28メートル、2本の脚があり、翼を広げると48メートルにもなったそうだ。
頭部周りは2.4メートル、鋭い歯が並ぶ強力な顎に、目はディナー皿くらいの大きさだったらしい。翼は薄い膜のようなもので覆われていて、体全体も、さらに薄いほとんど透けるような皮膚で覆われていて、毛も羽毛もなかったとのことだ。
カウボーイらは死体を引きずって町へ戻り、釘付けにした。広げた翼は完全に納屋の長さを超えていたという。
のちにこの怪鳥は「トゥームストーンの翼竜」と呼ばれることとなる。
Legend or Lie? Tombstone Thunderbird
本当に存在したのか?でっち上げなのか?
カウボーイらは、翼の一部を切り取って持ち帰り、その後、皮を剥いで、研究者に調べてもらうことにした。だが実際に、調査が行われたのかどうかははっきりしない。地元の新聞『Tombstone Epitaph』誌の記事は、これからなにが明らかになるのだろうか?という期待感で終わっているが、調査結果はどうだったのか?問題の怪鳥の死骸はどうしたのかについては、まったくわかっていない。
この話には、かなりの批判が浴びせられた。この生物の途方もない大きさももちろんだが、町に観光客と金を呼び込むためにでっち上げられた話としか思えなかったからだ。
当時、かつて繁栄を誇ったトゥームストーンの町は、町の活力源だった複数の銀山が洪水にみまわれ苦境にたたされていて、町の人々が低迷している町を有名にしようと必死だった。
だから、巨大な空飛ぶ恐竜のセンセーショナルは話題は、その手段のひとつとしてうってつけだったのだろう。
科学界に衝撃を与えたであろう、この驚くべき話が、ほかの地方紙には一切掲載されず、はっきりした写真も撮られていないという事実は、より一層疑わしさが増す。
当時の新聞は、話を大げさに盛ったり、まったくのでっちあげを掲載する習慣があったのだ。
当時のアリゾナ州トゥームストーンの町
トゥームストーンの翼竜の写真の謎
怪しげな話はこれで終わりにならず、未確認生物学最大のミステリーのひとつへと発展していった。この"トゥームストーンの翼竜"の話の信憑性について、数十年議論が続いた後の1966年、ジャック・パールという作家が、1886年の『Tombstone Epitaph』誌に、まさにこのトゥームストーンの翼竜、もしくは非常によく似た生物の写真が掲載されていたと主張した。
その記事によると、探鉱者のグループが、死んだ怪物を町まで運び、納屋の壁に貼りつけて写真を撮ったというのだ。
その写真は、6人の男たちが後方に立ってトゥームストーンの翼竜の翼をもち、前方には4人の男たちと2匹の犬がいるという構図のもので、翼の端から端までの長さは10メートル前後と推定された。
『Tombstone Epitaph』誌は一貫して、この写真の存在を否定し、バックナンバーやファイルまで調べてみたが、写真などなかったいう。
だが、この話はまだその後も消えることなく続く。
写真に関する話は、H.M. クランマーという作家が、1963年に『Fate Magazine』誌に載った記事で確認をとっていて、著名な未確認生物学者アイヴァン・サンダーソンが、実際にこの写真を所有していたが、紛失してしまったと言っている。
本当にトゥームストーン翼竜の写真は存在したのか?
そこから、トゥームストーンの翼竜は、"サンダーバード(雷神鳥)”の伝説と混ざり合い、噂に尾びれ背びれが付き、独り歩きし始めた。サンダーバードとは、アメリカの先住民の間に伝わる神鳥で雷を自由自在に操れる巨大な鳥のことで、トゥームストーンの翼竜のように、北米で発見される巨大な怪鳥はこれと同一視されるようになった。
トゥームストーンの翼竜の写真をテレビや本や雑誌で見たという人たちがどこからともなく現われ始めたが、いずれの場合も実物写真を追跡することはできなかった。
真偽のほどのはっきりしない問題の写真の存在は、フォーティアン(未確認動物。超常現象研究家)の世界で話題となり、熱い議論や推測が次々飛び出した。
出典元が見つからない写真探しが、まるで聖杯探しのような様相を呈してきた。作家のジョシュア・ホーリーは次のように言っている。
現存する本物と言われている写真でもっともよく知られているものは、翼竜のような生物が翼を広げて小屋の壁に貼りつけられているものだとされていて、翼幅はおよそ5メートル、数人のカウボーイたちが腕を広げて手をつなぎ、その生き物の実際の大きさを示しているという。しかし、この写真がどういうわけか見つかっていない。出版されたものは必ず人の目に触れるものだから、存在するのに見つからないのなら、まるで狐につままれているかのようだ。
長年の間に、雑誌でトゥームストーンの翼竜の写真を見たことがあるという人は多いだろうが、当時のトゥームストーン・エピタフ紙には写真を掲載する機能がなかったためそれは不可能だ。
大勢の人が見たと記憶しているものを探している中、まだ見つからないとしても、その記憶を植えつけて確かに見たと言うものだ
掲載元とされる地元紙に写真は掲載されていなかった
『Tombstone Epitaph』誌に問題の写真が掲載されていたのか、そうでないのかが、詳しく調べられた。しかし、この新聞のアーカイブを徹底的に調べても、このような写真が掲載された痕跡も、それを追いかける記事も見つからなかった。人々が写真を見たと言い張るさまざまな本のあらゆる版を調べたみたが、どの本にもそのような写真は掲載されていない。
写真は、絶対あの本に載っていたと断言していたのに、その本を実際に調べたら写真がなくなっていたという人もいた。
長年の間に、見つかっていない翼竜の写真だと言われる写真が登場することもあったが、どれも元々言われていたものや、人々が見たと言い張っていたものとは違うようだ。
超常現象やフォーティアンの世界でも、この写真を見たと確信する大物がいる。『モスマンの黙示』の著者ジョン・A・キールは、「1990年代に"私は確かに見たのだ! それだけでなく、それを見た多くの人たちと意見や情報を交換した」と言っている。
有名な超常現象専門誌『フェイト』は、かつてこの写真を手に入れて、掲載したことがあると主張していたが、やはりどこにも見当たらない。『ストレンジ・マガジン』のマーク・チョルヴィンスキーも、この写真について次のように述べている。
トゥームストーン翼竜の話は、物心ついたときから、興味をかきたてられていた。子どものときにこの話を読んで、たいそう驚いたことを覚えている。翼竜によく似た大昔の生き物が、1800年代になってカウボーイに射殺されるだって? こんなことはとてもありえないが、この話にまつわるさまざまな話や文献、なにより写真という形で証拠が現存している。
もっとも興奮したのは、やはり写真だ! 今でもそのときの興奮を、昨日のことのように覚えている。私がこの写真を見たのは間違いない。奇妙なことかもしれないが、たくさんの人が、非常に信頼のおける人たちも含めて、この写真を見たことを記憶しているのだ
多くの人が記憶しているトゥームストーン翼竜の写真の謎
いったい、なにが起こっていたのか? これほどたくさんの人が、翼竜の写真を見たことをこんなに鮮明に記憶していて、実在すると断言しているのに、写真そのものや、実在を証明する証拠が、まったく見つからないのはどういうことだろう?元々存在していないと思われる写真を多くの人が記憶している理由の説明は、理性的なものから、明らかに逸脱したものまで、さまざまなものがある。
ひとつは、単なる集団虚偽記憶で、暗示の力によって扇動されて広まり、共有された記憶だという説。
また、タイムワープやタイムトラベラーによって、問題の写真が盗まれた、あるいは写真を二度と見られないように、なんらかの方法で消えてしまうよう細工されたなどという突拍子もない説もある。
不特定多数の人が事実と異なる記憶を共有してしまうマンデラ効果と呼ばれる現象だという人もいる。
あらゆる証拠は、写真が実在しなかったことを示しているが、失われたトゥームストーン翼竜の写真は、相変わらず謎のままで、さまざまな議論の対象になっている。
いまだに執拗にこの謎を追いかけている人もいて、時間がたっても多くの説が出続けている。だが、本当の答えはまだ明らかになっていない。
References:The Strange Mystery of the Lost Thunderbird Photo | Mysterious Universe/ written by konohazuku / edited by parumo
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