生物は「自然淘汰(自然選択)」によって進化すると考えたチャールズ・ダーウィンだったが、それでは説明できない事象を目の当たりにしていた。
豪華な尾で美しく身を飾るクジャクのオスや、勇ましいツノを誇らしげに誇示するシカなど、一部の種ではなぜだかオスとメスがかなり違う特徴を備えている。
そこで彼は、もう1つの理論として「性淘汰(性選択)」を考案した。大きなツノや牙、あるいは飾りなど、交配相手を引きつけ、子孫を残すチャンスを上げるための特徴が進化するという考えだ。
ダーウィンの考えでは、性淘汰が進むのはオスとメスの個体数の比率が不均衡であるときだ。たとえばオス1匹に対してメスが少ない状況では、オス同士のメスをめぐる競争が激化し、それだけオスにメスを魅了するための特徴が発達することだろう。
だが英シェフィールド大学などの研究グループが『Evolution』(5月22日付)に掲載した研究によれば、どうもダーウィンの予想とは逆であることが明らかになったそうだ。つまり、メスが多いときの方が性淘汰が目立ってくるというのだ。
研究グループの1人、英バース大学のタマス・セーケイ氏の解説によれば、性別の不均衡はダーウィンの時代より観察されてきた。
そのもっとも極端な例は有袋類で見ることができる。たとえばフクロネコ科のアンテキヌスは繁殖期が終わるとオスが全員死んでしまうために、一時的に妊娠したメスしかいないという状況が発生する。
それとは逆に極楽鳥の多くは、メスよりもオスがずっと多く、その比率は6対1になもなる。
性別の不均衡が生じる理由
このような不均衡が生じる理由ははっきりとはわからないが、部分的には寿命の違いによって説明できるかもしれない。人間を含め、一般に哺乳類はオスよりもメスの方が長生きだ。人間の女性は男性よりも5%平均寿命が長いし、アフリカライオンやシャチなら50%も長く生きる。
捕食動物の狩りの傾向もまた関係しているかもしれない。
アフリカライオンよって殺されるバッファローは、メスよりもオスの方が7倍も多い。これはバッファローのオスが単独で行動するのに対して、メスは群れで守られているからだ。
その反対にチーターがガゼルを狙うときはメスを選ぶ。それはメス(特に妊娠した個体)の方が簡単に追いつけるからだと考えられる。
さらにオスとメスでは罹患する病気や寄生虫が異なることも要因として考えられる。たとえば現在のコロナ禍で、感染者数は男女で似たようなものだが、死亡率となると男性の方が高い。
オスとメスで体の特徴が異なる「性的二形」
オスとメスで体の特徴が大きく異なることを「性的二形」というが、一部の種ではこれが体の大きさという形で現れる。たとえばヒヒやゾウアザラシのオスはメスよりも体がずっと大きい。 これは性淘汰によって性的二形がつくられるわかりやすい例だ。敵を撃退するには筋力がものを言うし、体力だって必要だ。体が大きければ当然ライバルを蹴散らしやすくなり、それだけ交配相手を獲得できるチャンスは高まる。
ダーウィンの性淘汰とは逆の現象が観察される
ではチャールズ・ダーウィンはやはり正しかったのか? しかしセーケイ氏らがは虫類・ほ乳類・鳥類462種を分析したところ、意外な事実が明らかになった。確かに性的二形と性別の比率には密接なかかわりがあるようだった。ここまではダーウィンの説は正しい。
しかしそれがもっとも顕著だったのは、ダーウィンが予測したようにオスに対してメスの数が少ないときではなく、メスが多いときだったのだ。
ダーウィンは、配偶者獲得競争がもっとも激化するのは、異性が少ない状況であると考えた。だが最近の理論は、また違う説明をしている。それは性淘汰が勝者総取りによってうながされるというものだ。
つまりメスがたくさんいるときの方が、一番体が大きなオスはそれだけたくさんの交配相手を独り占めすることができる。
体の小さなオスにとっては生憎なことだが、勝者となったオスは、彼らが指を咥えて見ている前で、大勢のメスと交尾し自分の遺伝子を後世に残す。こうして性淘汰による性的二形が進む。
かつて権力者の男たちは、後宮の中で大勢の女たちを独占してきた。今日、そのようなことは不道徳とみなされることが多いのだろうが、案外それは女性にとってではなく、権力とは無縁なその他大勢の男性にとっての福音だったのかもしれない。
References:Darwin got sexual selection backwards, research suggests/ written by hiroching / edited by parumo
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