外国人の収容や送還のルールを見直す「入管法改正案」は、政府が5月中旬、今国会での成立を断念して、事実上の廃案となった。

この案は、難民の手続き中であっても、3回目以降の申請だったら、強制送還できてしまうことや、拒否すれば刑事罰を受けてしまうことが、法律家支援者から批判された。

また、名古屋入管で収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマさんが死亡した事件もあり、その死の真相究明と廃案を求める人たちの抗議活動が連日、国会前で繰り広げられた。

●「ずっといろいろな社会問題と向き合ってきた」

この抗議活動には、難民申請の当事者やその支援者だけではなく、たくさんの人たちが集まっていたが、中でも目立ったのが、10代、20代の若者、いわゆる「Z世代」だ。

彼、彼女たちは座り込みに参加するだけではなく、「移民のために声をあげないと」などとスピーチして訴えて、複数のメディアは「若者が運動に関心を持った」と取り上げた。

だが、その中心にいた福井周さん(23)は、「自分たちは急に関心を持ったわけではなく、ずっといろいろな社会問題と向き合ってきた」と否定する。

福井さんは、高校生のころに反ヘイトスピーチの抗議活動(カウンター)に参加し、以来「ときどきフェイドアウトしながら、今日まで続けてきた」。

入管問題に興味を持ったのは、有志の団体「FREEUSHIKU」に友人の母親、長島結さんが参加していたことが大きいという。

「すべての運動は繋がっていて、世代は関係ない」。そう語る福井さんと長島さんに聞いた。(ライター・碓氷連太郎)

●一度フェードアウトして、再び社会運動に

――福井さんは高校生のころから、社会運動に参加していたそうですね。

福井:高校生だった2013年ごろ、在特会などによるヘイトスピーチデモに対するカウンターに参加していました。国際基督教大学ICU)入学後は、共謀罪や森友学園問題などをテーマに政治への疑問を議論する団体「未来のための公共」の立ち上げに加わりました。

でも、自分が前面に出て運動に参加することに違和感があって。同時に入っていたダンスサークルが忙しくなったのもあり、一度フェードアウトしてしまったんです。

ただ、ずっと申し訳なさを感じていたし、社会問題への関心は失われなくて、2020年に大学を卒業したあと、一般社団法人「VOICE UP JAPAN」に参加しました。

――VOICE UP JAPANは2019年、『週刊SPA!』の「ヤレる女子大学生RANKING」に抗議の署名を始めた団体です。ジェンダー格差や性暴力などの問題に取り組んでいますが、なぜ参加されたんですか?

福井:卒業したあと、医学部に入り直そうと思って勉強を始めたんですが、通っていた予備校が合わなくて、1年間はギャップイヤー(卒業後、就職するまでに留学やボランティアなど、社会体験活動をおこなう期間)のように過ごそうと思っていました。そんなとき、ナインティナイン岡村隆史氏による「コロナ明けたら、美人さんがお嬢(風俗嬢)やります」発言がありました。

VOICE UP JAPANが抗議署名を集めていたのですが、個人としては「もっとこうすればいいのに」と思ってしまう点がいくつかありました。でも、運動をしていない自分が、誰かのやり方を批判するのはやりすぎだと思ったし、もう一度、地に足を付けて社会運動を始めてみたかったので、以前から知り合いだったVUJ代表の山本和奈に連絡をとって参加することにしました。運動を通して自分がシスジェンダー男性であることにも、向き合う必要があると思ったんです。

――入管問題に興味を持ったのも、このころですか?

福井:まだ、そこまでではなく、このころは高校の恩師に会って、路上生活者の支援をしている人を紹介されたりしていました。

VOICE UP JAPANでは、アドボカシー(権利擁護や啓発活動)の担当となり、差別禁止法制定のグループに参加したのですが、扱うテーマがとても広くて、どうやってかたちにしようかと思ったときに、反差別カウンターの先輩で、友人の母親だった長島さんを思い出しました。僕はホモソーシャル(男性優位なつながり)が苦手。ジェンダーが女性のほうが話しやすいのもあったので、長島さんに連絡したんです。

――入管問題に興味を持ったのは、何がきっかけですか?

福井:一番大きかったのは、高校生のときから横浜の寿町での炊き出しに参加していることです。昨年末は池袋の炊き出しに、年末年始の6日間ボランティア参加していたら「ほかの炊き出しの現場に、仮放免の外国人の人がたくさん来てる」という話を聞きました。

仮放免の人たちは仕事ができないから生活にも困っているし、健康保険に入れないから病気になっても病院にも行けない。そんな話をずっと聞いていたのですが、今年2月に入管法改正案が閣議決定されて、その直後にウィシュマさんが亡くなるなど、入管絡みのことが立て続けに起きたので、何かできないかと考えるようになりました。

――それで長島さんのところに連絡があったんですか?

長島:最初は「FREEUSHIKUとVOICE UP JAPANで何かコラボできないか」という相談を受けたのですが、3月に会ったときにはもう、完全に入管法改正に反対する姿勢になっていました。そのときに「まず勉強会を、とか言ってる場合じゃない!」と言っていたのを今でも覚えています。

福井:名古屋入管に収容中のウィシュマさんが今年3月、適切な医療を受けられずに亡くなった事件が、とても大きかったです。彼女の場合、元交際相手からDVを受けたことが、収容されるきっかけになっていると報じられています。入管問題はジェンダー問題でもあると、代表の山本とも話して、「何かやるしかない」となりました。

●入管問題には伝わりにくさがある

――FREEUSHIKUとコラボしたいと思ったのは、なぜですか?

福井:入管問題に関しては、僕たちの中で積み上げてきたものがなかったのと、FREEUSHIKUのウェブサイトがとても充実していて、デザインされているコンテンツがめちゃくちゃわかりやすかったのが大きいです。

VOICE UP JAPANは、大学生世代がメインで、ヘイトスピーチ問題を知らない若い世代に向けて、社会運動について発信できるのが長所だからこそ、専門的に取り組んできた団体と連携するのが筋だろうとも思ったんです。

――地域を破壊するヘイトスピーチ社会問題になり、法律もできました。一方の入管問題は、対象となっている人たちのことを知る機会が少ないからなのか、問題を伝えるのが、より難しい気がします。VOICE UP JAPANではどうでしたか?

福井:たしかにVOICE UP JAPANの中でも伝わりにくかったところはあります。日本語が母語ではないメンバーが多いゆえに説明が難しいのと、メンバーの多くがジェンダーとかセクシャリティが日常生活の中でどう表象されているかといった問題に興味を持っている人が多かったことです。

制度の中で生まれる差別問題というマクロなテーマをわかりやすく説明するのは時間がかかるし、複雑になるしで、伝えにくさはありました。VOICE UP JAPANは約200名のメンバーがいますが、月1回の全体ミーティングで「入管問題を説明するから、興味がある人は残って聞いていって」と言ったら、そのときは10人ぐらい残ってくれて。その後手伝ってくれたのは、5、6人程度でしたが、SNSで声をあげるメンバーがいたり、インスタ(Instagram)担当のメンバーが自主的に入管問題を取り上げていました。

――気おくれして、社会運動に参加できないという人も多くいます。そのあたりはどうでしたか?

福井:中学生のころから炊き出しのボランティアに参加したり、ヘイトスピーチのカウンターや他のデモにも行っていたので、何かあったら手伝うみたいな考えは、当たり前にありました。

長島:途中で離れたり、戻ったりしながら、一本道ではない関わり方をしているところがすごいと思っていました。でも、同級生のお母さんがメンバーの団体に声をかけるのは、やりにくかったんじゃない?

福井:僕は大学のサークルもそうですけど、すっと入って、やってくうちに何となくいる人みたいな感じになるのが得意なんです(笑)。

●若者はずっと社会問題に取り組んできた

――長島さんは国会前でのシットインや抗議などに最初から関わっていましたね。

長島:入管法「改正」案は、今国会で突然提出されたわけではなく、昨年から改定案が出されるのでは、と言われていました。そのあたりで、ほかの支援団体に声をかけられて、一緒にやっていく動きになっていきました。

国会前スタンディング初日(4月15日)は、FREEUSHIKUとVOICE UP JAPANの有志が個人参加というかたちで開催したのですが、その後、廃案になるまでのシットインは、協力団体として共に参加しました。

福井:VOICE UP JAPANは、僕を入れて最終的には10人ぐらい集まったのですが、少ないですよね。

長島:いやいや、社会運動に若者が10人集まるって、すごいことだと思います。

――国会前でのスピーチには、若い人の姿が目立ちました。

福井:若者推しのメディアも実際にありました。でも、2013年から僕はカウンターに参加して来たし、その年末には特定機密保護法に反対する学生団体「SASPL」が、2015年には後継団体の「SEALDs」が生まれて、VOICE UP JAPANも、先行して声をあげていた人たちと繋がっています。

だから、ことさら「若者が政治に参加している!」と取り上げる必要はないと思いますし、同時に、さまざまな世代の、ずっと闘ってきた人と新たに関心を持った人が、互いを尊重しながら連帯できればと思っています。

「Z世代だからとか、関係ない」 入管法改正の抗議活動、その中心にいた若者の本音