英国王室をめぐる騒動が収まらない。6月6日ヘンリー王子とメーガン妃は「6月4日、娘を授かりました。彼女は私たちの想像以上の存在で、世界中から寄せられる愛と祈りに感謝します」と第2子の誕生を発表。さらに、誕生した長女の名前は「リリベット・ダイアナ・マウントバッテン=ウィンザー」だと発表した。ところが今、英国ではこの名づけをめぐって議論が巻き起こっている。

 2020年1月に突然「高位王族としての地位を退き、経済的独立に向けて取り組む」と公表し、3月に米国へ移住した後、英国王室を離脱したヘンリー王子とメーガン妃だったが、今年3月には米CBSテレビに出演。人気司会者オプラ・ウィンフリーとの対談の中で、王室内に長男・アーチー君の「肌の色の濃さ」を懸念する声があったと告白した。この発言を受け、ウィリアム王子が「私たちは人種差別的な家族ではない」と異例の否定発言をするなど大きな騒動となった。

 さらに、6月8日にはメーガン妃が父子の絆を描いた絵本「The Bench」が発売されたが、こちらも英国内では「うぬぼれている」「この本を読みたいと思う子どもがいるとは思えない」などと酷評されている。

 ヘンリー王子とメーガン妃の一挙一動に注目が集まっている状況の中で起きたのが今回の名づけ問題だ。

 なぜ王室を離脱したヘンリー王子とメーガン妃による騒動が続いているのか、ヨーロッパ諸国の王室事情に詳しい関東学院大学国際文化学部教授・君塚直隆氏に話を聞いた。

眞子さまと小室さんが自分たちの子どもを「ミッチー」と呼ぶようなもの

「リリベット」と聞いたときは、私も驚きました。リリベットというのは、エリザベス女王の特別な愛称なのです。女王は幼い頃、自分の名前をうまく発音できませんでした。その発音から祖父のジョージ5世が「リリベット」という愛称をつけたのです。今年4月に急逝した夫のフィリップ殿下も愛情を込めて女王のことをリリベットと呼んでいました。つまり、リリベットとは女王の幼少期を知る血縁関係者と最愛の夫だけが使用していた極めてプライベートな愛称なのです。

 日本でも天皇陛下のことを幼少期にご家族が徳仁親王に由来して「ナルちゃん」と呼んでいたことがありました。「リリベット」もそれに近いといえます。今回の騒動を日本の皇室で例えるなら、眞子さま小室圭さんが結婚をし、自分たちの子どもに「美智子」と名付け、ミッチーと呼ぶ、ということになるのではないでしょうか。

 身勝手に王室を離脱し、王室批判を続けている夫妻が長女の名付けにそんな思い出が詰まった愛称を使用したことに英国民から反発が起きているのです。ましてや、長年連れ添った夫・フィリップ殿下を4月に亡くしたばかりの女王に対し、英国内では深い同情と、悲しみの中で公務を全うする女王への敬愛が集まっています。そうした状況の中で、この名づけ問題が発生したわけですから、英国民が怒るのも無理はありません。

王族の名前を使用するときは、お伺いをたてるのが通例

 仮にリリベットという特別な愛称ではなく「エリザベス・ダイアナ・マウントバッテン=ウィンザー」だったら、ここまでの批判にはならなかったかもしれません。ただ、いずれにしても王族の名前を使用するときは、時の君主にお伺いをたてるのが通例です。ヘンリー王子とメーガン妃が、しっかりとエリザベス女王に許可をとったのかどうかは夫妻側と王室側で見解が食い違っており、はっきりとしていません。

 ヘンリー王子とメーガン妃の騒動が続く理由の一つは、いくら彼らが「経済的独立をする」と言っても、その経済的独立を果たすためには、王室という肩書に頼って稼ぐしかないからでしょう。メーガン妃は、かつては女優として活動していましたが、その経歴は決してオスカー女優並の華やかなものとは言えません。女優として、彼女が経済的独立を獲得するだけの収入を得ることはほぼ不可能といっていいでしょう。

 ただ、アメリカという国は「ロイヤル」が好きです。移住してきた2人をもてはやしたり、近づいてくる人たちも多い。だからこそ、人気司会者オプラ・ウィンフリーとの対談やSpotifyNetflixとの大型契約も実現できたのではないでしょうか。英国にいたころと違い、王室での慣習にとらわれず米国で自由に振る舞える。ですから、ある意味では、こうした騒動が米国発で起きているのも当然と言えば当然なのです。

つい比較したくなる、エドワード8世の「王冠を賭けた恋」

 今のヘンリー王子とメーガン妃を見ていると、「王冠を賭けた恋」とも言われたエドワード8世とつい比較したくなります。1936年、エドワード8世は王であるよりも当時人妻であったウォリスとの結婚を選び、在位期間わずか325日で退位。王室を捨て、フランスのパリ郊外でウォリスと密かに暮らす道を選びました。王室からの手当ては支給されていましたが、英国に戻ることはなくひっそりとフランスで生涯を終えました。

 エドワード8世のように、かつては、王室を出て行った者は、あれこれ言うべきではないという“常識”が離脱する側にも備わっていた気がします。しかし、今のヘンリー王子とメーガン妃を見ていると、「何でもあり」になってしまっている。もちろん、王室に対する敬意も時代とともに変化していますし、当時と今では時代性が異なるので、単純に比較することは難しいかもしれませんが、エドワード8世が王室に関する愚痴や批判を言うことはありませんでした。一個人としてこれ以上は言ってはいけないという節度があったように感じます。

王室に入るという覚悟がなかったメーガン妃

 なぜメーガン妃は「何でもあり」に振舞うのか。それは、王室に入る覚悟とそのための教育の時間が足りていなかったからではないでしょうか。メーガン妃は2016年に知人の紹介でヘンリー王子と出会い、翌年の2017年11月には婚約、女優を引退しました。そして、その半年後に結婚式を挙げたという、まさに電撃結婚でした。メーガン妃は当時36歳。婚姻歴があり、アメリカでは女優として活動していました。それゆえに王室の空気を窮屈に感じたかもしれません。

 かのダイアナ妃もわずか19歳でチャールズ皇太子と婚約しています。それは皇太子と恋仲になってからわずか1年のことでした。ダイアナ妃も17世紀から続く貴族の家系の生まれでしたが、ダイアナ妃が幼い頃に両親は離婚。貴族としての教養を身につけていたわけではありません。王室に入って初めて、その大変さを、身をもって実感したのではないでしょうか。

 イギリス王室とは事情が違う部分もありますが、日本で今起きている秋篠宮眞子さまと小室圭さんの「結婚問題」がこれほどこじれているのも、小室さんが皇室に対する理解と覚悟を欠いたまま、婚約をしてしまったことにあると思います。その点では、小室さんはメーガン妃やダイアナ妃と同じような問題を抱えているともいえるのです。

皇太子と結婚し、スウェーデンの王室に入ったダニエル王子

 私には小室圭さんやメーガン妃の事がニュースになるたびに思い出す王子がいます。それはスウェーデンのヴィクトリア皇太子と結婚したダニエル王子です。彼は、小室さんやメーガン妃とは異なり、スウェーデンの王室に入る「意味」を理解し、覚悟を決めた人物でした。

 スウェーデンでは男子にしか王位継承権が認められていませんでしたが、拙著『立憲君主制の現在』(新潮選書)でも詳しく触れておりますように、1979年に王位継承法が改正されたことにより、ヴィクトリア王女が正式に皇太子となりました。現代のスウェーデンで初の女王になることが決められたヴィクトリア皇太子18歳から皇太子としての公務が始まりましたが、極度のプレッシャーから拒食症を患いました。その治療の過程で出会ったのが、彼女のトレーナーを務めたダニエル王子です。

7年かけた「カエルの王子様」結婚までの長い道のり

 当時のダニエル王子は爵位を持たない一般人であり、経済力も決して十分とは言えませんでした。マスコミも彼のスウェーデン語の訛りを「田舎の少年」と表現し、顔がカエルに似ていることから「カエルの王子様」と呼んでいたのです。国民からも未来の女王の結婚相手にはふさわしくないと批判を受けました。ヴィクトリアの父である現国王のカール16世グスタフも、ダニエルさんについて初めて王女から話を聞かされた時には激怒のあまり、無言で食事の場から立ち去ったと言われています。

 それでも結婚の意志が強かった2人に国王は、ダニエル王子が王室にふさわしい人物になれば結婚を認めるという条件を出しました。この国王の提案を承諾し、「ダニエル改造計画」として彼は徹底的に語学や教養を学んだのです。スウェーデン王室の伝統や歴史、王室の一員としてのマナーや立ち振る舞いの学習だけでなく外見のイメージチェンジも求められました。さらに英語・フランス語ドイツ語の習得と訛りがあったスウェーデン語についても指導されました。

 ダニエル王子には当時の外務大臣ら専門家10名が家庭教師につきました。そして見事にそのハードスケジュールをこなし、交際から7年後にようやく婚約をしたのです。

一般の人間が「王室」に入るのも離脱するのも大変なこと

 当初は国民から「将来の女王の夫として相応しくない」と激しい反発があったダニエル王子も、真面目で誠実な姿が国民に認められ、今や国を代表する顔となりました。今では2人の子宝にも恵まれています。

 どこの国であっても、一般の人間が「王室」に入るというのは並大抵のことではありません。そして同じく、そこから離脱をするのであれば、相応の覚悟が必要なのです。ヘンリー王子とメーガン妃に対し、英国王室側は今のところ、闇雲に反論するのではなく、「Never complain, never explain」(決して不平を言わず、弁明をせず)という姿勢で「大人の対応」をとっています。これはエリザベス女王の母が1936年に用いて以来、女王も掲げてきた王室の伝統です。しかし、国民の怒りは強く、いつそれが「爆発」するかもわかりません。日本の小室圭さんと眞子さまの結婚問題も、小室さんが28ページにも及ぶ文書を提出することで妙な「騒動」に発展してしまいましたが、本当に必要なのは、小室さんが「覚悟」を示すことなのかもしれません。

(君塚 直隆/Webオリジナル(特集班))

メーガン妃 ©iStock