6月21日二十四節気の一つ「夏至」。日本では、一年で最も昼が長くなる日ですが、夏に向かう時季でもあり、暑さに耐えることにちなんだ食べ物を取る風習もあるようです。その中で「夏至に冬瓜(トウガン。トウガとも)を食べるとよい」という情報がありますが、事実でしょうか。「冬瓜」なのになぜ、夏に食べるのでしょうか。和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

原産地はインド東南アジア

Q.中華料理で見ることも多い冬瓜ですが、日本でも昔から栽培されていたのでしょうか。

齊木さん「冬瓜の原産地はインド東南アジアで、熱帯や亜熱帯地方で盛んに栽培され、夏の重要な野菜の一つとされてきました。日本には5世紀ごろに中国経由で渡来し、漢語『冬瓜』を音読みした『トウグゥ』がなまって、『トウガ』『トウガン』となったとの説があります。

ウリ科のつる性1年草で、平安時代成立の薬物書『本草和名』には『白冬瓜』『一名(別名)冬瓜』、和名で『加毛宇利(かもうり)』と記され、畑で栽培されていたとされます。現在、日本での栽培は南九州や沖縄が盛んで、京都、愛知、岡山でも栽培されているそうです」

Q.「夏至に冬瓜を食べるとよい」と言われているのは事実でしょうか。

齊木さん「そういったネット情報もあるようですが、日本民俗大辞典や各社の国語辞典で見る限りでは、夏至の日、特に決まった食べ物を食べるという風習が全国的に浸透しているとはいえないようです。

しかし、夏至の頃から夏にかけての時季に、冬瓜を食べるというのは理にかなっています。冬瓜には水分が多く含まれており、果実は体を冷やす効果があるため、夏ならではの熱中症夏バテを防ぐ効果が期待できるからです。夏至から夏にかけて食べるには最適でしょう」

Q.夏野菜なのになぜ、「冬の瓜」と書くのでしょうか。

齊木さん「『冬の瓜』と書く理由は諸説あります。果皮にできる粉を雪に見立てたという説もありますし、夏季が旬の野菜ですが、皮が丈夫で水分が失われにくく、丸(玉)のままヘタを上にして、風通しの良い日陰で保存すれば、冬まで日持ちすることから、『冬瓜』の名が付いたともいわれます。冬にわたって熟したものがよいとされたことから、『冬の瓜』と書くようになったという説もあります」

Q.ちなみに「冬至には南瓜(カボチャ)」といわれます。こちらも改めて、いわれを教えてください。

齊木さん「冬至にはカボチャを食べる風習があります。これは栄養価の高いカボチャを食べることで、風邪を予防する効果などを期待しているためです。冬至にカボチャを食べる風習ができたのは江戸時代といわれ、今と違って、野菜の保存が難しかった時代に、保存しやすく、栄養価の高いカボチャを食べて、寒い冬を乗り切ろうという昔の人の知恵からといわれます。

ちなみに、カボチャの語源は国名の『カンボジア』に由来します。戦国時代カンボジアの産物として、ポルトガル人により日本に伝えられました。カンボジア産のウリの意味で当初は『カボチャ瓜』と呼ばれ、『瓜』が落ちて『カボチャ』となったそうです。『南瓜』という漢字は『南蛮渡来のウリ』を意味します」

Q.ほかに、夏至の時季に食べるとよいものがあれば、教えてください。

齊木さん「昔から、『旬の食べ物は体によい』と言われるように、キュウリやトマト、ナスなどの夏野菜、アジ、アユ、イワシといった旬の魚を食べるのもよいでしょう。その他、疲労回復効果のある梅干し、体の中の水分代謝をよくする働きのあるアズキ、水分が多く、体温を下げる作用のあるスイカも効果的といわれます。

また、関東地方奈良県和歌山県の一部では、小麦餅を食べる風習があるそうです。これは夏至の頃収穫した新小麦粉を使って、小麦餅を作り、豊作祈願をするものです。京都では水無月(みなづき)という和菓子を食べます。このように日本の食文化は豊かです。夏至はいろいろな物を食べて英気を養うとともに、その地域の風土や生活に思いをはせてみるのもよいでしょう」

Q.夏至は長い昼、短い夜となります。過ごし方でご提案があれば教えてください。

齊木さん「この時期は草木が生い茂る一方で、ひっそりと枯れていく植物があります。それは『ウツボグサ』といい、別名『乃東(なつかれくさ)』『夏枯草(かこそう)』とも呼ばれ、昔から、人々の興味を引いてきました。機会がありましたら、最も長い昼に季節の植物をめでつつ、枯れ行くウツボグサを見つけてみてはいかがでしょうか。

また、近年、世界的に広がりを見せているのが『キャンドルナイト』です。夏至の日は夜の訪れが遅いため、照明を消し、ろうそくの光でゆったりとした時間を過ごしながら、節電する運動の一つです。こうしたことをきっかけに、忙しい日常から離れて、静かに自分自身や環境について見つめ直す日にしてはいかがでしょうか」

オトナンサー編集部

「冬瓜」だけど、夏に食べる?