山形空港に緊急着陸したことで、広くその存在が報じられたアメリカ軍の「オスプレイ」。どのような飛行機なのでしょうか。「ヘリ+飛行機」ともいえる強みや特徴、デビューまでの歴史を見ていきます。

ヘリよりめっちゃ速いのがポイント

2021年6月14日(月)、山形空港にアメリカ軍の「オスプレイ」が2機、緊急着陸しました。運航トラブルによる事故の予防のための緊急着陸だったと見られています。

この「オスプレイ」ことV-22とは、どのような航空機なのでしょうか。

V-22は2005(平成17)年にデビューし、ヘリコプターのようなローターですが回転させたまま上下に動かせる「プロップ・ローター」と、左右に延びた主翼を組み合わせている点が最大の特徴でしょう。アメリカ軍が使用しているV-22は、海兵隊仕様「MV-22」、空軍仕様「CV-22」などがあります。今回、緊急着陸したのは空軍のものです。

V-22は、地上から離れる際には、プロップ・ローターをヘリコプターのローターのように上へ向けて飛び上がります。その後、プロップ・ローターを前方に向けて、ターボ・プロップエンジン搭載の飛行機の形態に変化。プロペラで前進しながら主翼に空気を受けて機体を持ち上げる力を発生します。

通常の飛行機であれば、翼に適切な速度の空気を流して、広い翼面で空気による力を受けることで飛行します。そのため、機体の速度を上げる必要があり、飛び立つには長い滑走路が必要となるのです。対しヘリコプターのような回転翼航空機の場合、広い翼ではなく、幅が狭くて長い翼(ローター)を装備しており、この翼を回転させて適切な速度の空気を流し、広い翼面で空気による力を受けることで飛行します。ただ、機体の前進速度にともない、ローターに吹き付ける空気に左右でズレが生じることから、飛行機のようなハイスピードでの巡航は困難です。

ボーイングによると、V-22スペックは、胴体全長約18m、最大巡航速度約500km/h、搭載可能な重さは約10tとなっています。戦闘行動半径は、約600kmとされています。

これに対し、たとえば多数の国で運用されている大型輸送ヘリコプターCH-47「チヌーク」のスペックは、ボーイングによると、胴体全長約16m、最大水平速度約315km/h(170ノット)、最大搭載量は約11tで、33人から55人の乗員を搭載できるそうです。こちらの戦闘行動半径は、約370km(CH-47Fのカタログスペック)とされています。

こう見ると「オスプレイ」の強みは飛行速度の速さだけに見えますが、実はこの速さがとても重要な要素なのです。

「オスプレイ」の誕生経緯 “変身”の時間は?

アメリカ空軍やアメリカ海軍の救難任務においても、アメリカ海兵隊の進攻作戦においても、可能な限り早く想定地域に進出できることが、任務達成の確率を上げる第一歩です。V-22オスプレイ」は、プロペラ機並みの飛行速度を有するうえに、滑走路を必要とせず、大型ヘリコプターと同程度の機動性を持ち合わせています。

つまり、V-22のような「ティルトローター機」は、航空機の常識をくつがえす画期的な能力を持っている、といえるでしょう。まさに『ウルトラマン』や『サンダーバード』のような飛行機がやっと実用化されたということでしょうか。

V-22の始まりは、1981(昭和56)年にアメリカ国防総省が打ち出した、空軍、海軍、海兵隊、陸軍の4軍で使用できる新型機の開発計画「統合垂直離着陸研究(JVX,Joint-service Vertical take-off/landing eXperimenta)」です。のちのV-22は、ベル社とNASAアメリカ航空宇宙局)が共同開発したティルトローター実験機「XV-15」をベースに、ベル社とボーイング社の共同開発で進められました。

V-22の試作機は、1989(平成元)年には初飛行しましたが、米軍での運用開始は先述のとおり2005年。実用化までに15年以上の時間を要しています。これは、いわゆる東西冷戦が終結したことなどから軍事費の削減を迫られたこと、プロップ・ローターの設計に手間取ったため、とされています。

ちなみに、V-22のプロップ・ローターが、上向きから前向きに変わる時間は11秒と言われますが、この11秒が、フライトのなかでパイロットにとって最も注意を要する時間なのだそう。とはいえ、ボーイング米海軍の安全管理センターのデータとして、「V-22の事故率は、過去10年間における米海兵隊の運用ヘリコプターの中で最低の数字を記録している」としています。


※誤字を修正しました(6月21日8時54分)。

アメリカ空軍の「オスプレイ」CV-22(画像:アメリカ空軍)。