たくさんの食品が並ぶスーパーマーケットは日々の買い物に不可欠な場所です。そんなスーパーの売り場で「お菓子のコーナーに刺し身」「冷凍食品の棚に豆腐」などのように、本来の売り場とは明らかに異なる場所に商品が置かれているのを見掛けたことがある人は多いのではないでしょうか。

 商品を買おうと一度は手に取ったものの、「やっぱり買うのをやめよう」と思うことはあるものですが、その際、元の売り場ではなく別の場所に戻すと、食品の腐敗や劣化、パッケージの損傷などの原因となり、最悪の場合、売り物にならなくなってしまう事態も起こり得ます。

 こうした迷惑行為について、ネット上では「本当によく見掛ける」「身勝手で許せない行為」「想像力がないのか」「自分で取った物は自分で戻せ」といった怒りの声に加え、「売り物にならなくなったらスーパー側の損失だから、罪に問えるのでは?」「ただの迷惑行為ではなく、立派な犯罪だと思う」など法的な問題として捉える人もいます。

 スーパーで、一度手に取った商品を別の売り場に戻すことは犯罪行為になり得るのでしょうか。白石綜合法律事務所の宮崎大輔弁護士に聞きました。

威力業務妨害や偽計業務妨害も?

Q.食品スーパーで買おうとしたものを売り場に戻す際、「常温の売り場に冷凍食品や生鮮食品を戻す(またはその逆)」などの行為をする人がいて、売り物にならなくなるケースがあるようです。こうした場合、客の行為が犯罪にあたる可能性はあるのでしょうか。

宮崎さん「本来の売り場とは異なる場所に商品を置くという行為によって、生鮮食品を腐敗させたり、冷凍食品が解凍状態になってしまったりした場合、商品の効用を失わせたとして、器物損壊罪に該当する可能性があります。

また、別の売り場に戻す行為によって、商品として売り物にならなくなった場合、店側は戻した客に対して不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求をすることができます。損害額としては、商品の売値が一つの基準となると思います」

Q.「商品を別の棚に隠す」行為についてはどうでしょうか。「威力業務妨害や偽計業務妨害にあたるのではないか」との声もあるようです。

宮崎さん「威力業務妨害罪における『威力』とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいいます。商品を別の棚に隠す行為はこうした勢力を示すものとはいえないため、威力業務妨害罪には該当しないと思います。

また、偽計業務妨害罪における『偽計』とは、人を欺いて誘惑する、あるいは人の錯誤や不知を利用する違法な手段のことをいいます。商品を別の棚に隠す行為は偽計に該当するともいえないため、偽計業務妨害罪にも該当しないでしょう」

Q.客の迷惑行為によって、店の商品に損害が出たケースについて、過去の事例・判例はありますか。

宮崎さん「日本ではありませんが、アメリカのスーパーマーケットで、食料・雑貨類など総額1800ドル(約19万5000円)相当の商品をなめたとして、女性が逮捕された事例があるようです」

Q.一度手に取った商品を元の売り場に戻さず、別の場所に戻す行為について、「ただの迷惑行為ではなく、立派な犯罪」と考える人も少なくないようです。身近な迷惑行為、軽い気持ちでやったことが犯罪となり得ることについて、どのような意識・行動が望まれると思われますか。

宮崎さん「腐敗や劣化が起こりやすい生鮮食品や冷凍食品などをわざと別の場所に置く行為は犯罪行為ですので、厳に慎んでいただきたいと思います。

ただし、私個人としては、商品の戻し方について、注意書きなどが掲示されているスーパーで気持ちいい買い物ができるとは思いません。そのため、商品の戻し方について、極端に敏感になるのではなく、一部の目に余る犯罪行為については処罰するという姿勢で臨むのが妥当かと思います」

オトナンサー編集部

商品を別の場所に戻したら?