夫がタクシーの運転手に暴行を加えて逮捕されてしまった——。夫の行く末を心配する女性から今後についての相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

女性の夫は泥酔状態でタクシーに乗り、運転手と揉み合いになりました。その時財布もなかったことから強盗の疑いをかけられ、数日後裁判所から「強盗致傷被疑事件」との勾留通知が届きました。

運転手は目の打撲で全治2週間の診断が出ています。女性は「起訴される不安が大きい」となんとか示談に持ち込めないかと考えていますが、こうした場合どうすれば良いのでしょうか。また、示談金はどの程度が適切なのでしょうか。神林美樹弁護士に聞きました。

強盗致傷罪は重い罪

——強盗致傷とはどのような罪ですか

強盗致傷罪は、罰則が「無期又は6年以上の有期懲役」という重い罪です(刑法240条前段)。起訴された場合には、裁判員裁判となります。

裁判員裁判では、起訴後に、公判前整理手続という争点と証拠を整理するための準備手続を行いますので、裁判が開始されるまでには早くても数か月~半年くらいの長い時間がかかることになります。

もっとも、強盗致傷罪で逮捕・勾留されたケースの全てが、起訴されて、裁判員裁判となるわけではありません。

——起訴されるかどうかは、どのようにして決まるのでしょうか。

強盗致傷罪に該当する行為をしてしまったことに争いがない場合であっても、犯行態様の悪質性(凶器を使用しているかなど)、傷害結果の程度、被害金額の多寡といった事情に加えて、ご本人の反省状況、示談が成立しているかどうか、前科があるかどうかなどの事情も総合的に考慮して、検察官は、その事件を起訴するか、不起訴(起訴猶予)とするかを判断します。

まずは不起訴処分を目指す

——本人や家族としては不起訴にしてほしいと思いますが、どうすればいいのでしょうか

強盗致傷罪で逮捕・勾留された場合、まずは、不起訴処分を目指します。事実関係に争いがないケースの場合には、できる限り早期に被害の慰謝に努めること、具体的には、弁護士を通じて被害者に謝罪し、示談交渉を行うことが重要です。

刑事事件の場合、原則としてご本人やご家族が示談交渉を行うことはできません。示談交渉を希望する場合には、弁護士に相談してください。

——示談交渉はどのタイミングでしますか。

事件のときだけでなく、事件後も被害者の方は大きな不安を抱えています。そのため、謝罪のご連絡は、事件後、できる限り早期に行うことが大切です。示談交渉自体は、すべて弁護士が行います。

もっとも、ご本人身体拘束されている場合には、示談金の準備などについて、ご家族の協力が不可欠になります。どのくらいの金額を、いつまでに準備し、どのような方法で弁護士に預ければよいかなどについて弁護士の指示を仰いでください。

示談金の相場は?

——示談金の相場はあるのでしょうか。

刑事事件の示談金の金額については、一義的な基準はなく、事案ごとに異なりますが、通常、少なくとも、財産的被害額(今回では未払いのタクシー代金)及び治療のために生じた費用等に、慰謝料の趣旨の金額を加えた被害弁償を行うことが多いと思います。

もちろん、後遺症や休業損害が問題となったり、労災等との関係で確認・調整が必要となることもありますので、弁護士に個別に相談、対応を依頼してください。

——示談成立後の流れは?

示談が成立した場合には、示談書を作成し、検察官に報告、写しを提出します。その上で、示談以外の事情(ご本人の反省状況、ご家族の監督の誓約など)も含めて弁護士が検察官に伝えて、不起訴処分を求める交渉を行います。

冒頭でも申し上げたとおり、強盗致傷罪は重い罪です。示談が成立したからといって、かならず不起訴となるものではありません。

まずは、最優先で謝罪と示談交渉を行ったうえで、ご本人の反省の気持ちや、再犯防止に向けたご家族の協力等の事情もしっかりと検察官に伝えることが重要です。

強盗致傷罪で逮捕・勾留されたケースで、示談が成立、検察官と交渉した結果、不起訴処分(起訴猶予)となったケースは実際にあります。ご家族が逮捕されてしまったら、お一人で悩まずに、まずは弁護士にご相談ください。

【取材協力弁護士
神林 美樹(かんばやし・みき)弁護士
第一東京弁護士会所属。日弁連刑事弁護センター幹事。刑事事件・少年事件に注力しており、主として、捜査弁護(身体拘束からの早期釈放・接見・示談交渉)、裁判員裁判、依存症患者の更生支援などに携わっている。
事務所名:弁護士法人ルミナス東京事務所
事務所URLhttps://luminous-law.com/

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