2001年の初演以来、愛され続けてきた傑作ミュージカル「The Last 5 Years」が小林香の新演出により6月28日(月)より上演される。新進気鋭の作家・ジェイミーと駆け出しの女優・キャシーのカップルの出会いと別れを描き出す本作。木村達成×村川絵梨、水田航生×昆夏美、平間壮一×花乃まりあという3組のペアで上演されることも大きな話題を呼んでいる。各ペアがどんな個性を見せ、どのような“仕掛け“で観客を楽しませてくれるのか? 演出の小林に話を聞いた。

3組に区切った稽古。俳優自身から出てくるものを大切に

過去に主演・山本耕史、演出・鈴木勝秀による本作を鑑賞したことがあったという小林だが、自身はいわゆる正統派の純粋なラブストーリーを演出することはなかった。「ラブストーリーってお客さまみんなに伝わる半面、非常にパーソナルなものなので、そのパーソナルなものをパブリックですることがハードルが高いと感じていた」という。

そんな中で本作の演出の依頼が届いたが「台本を読ませていただいて、ラブストーリーだけど、これから人生を築き上げていこうとしている20代の若いふたりが、自分に嘘をつくことなく一生懸命に生きている物語として捉えられたので、ぜひ上演したいと思った」と明かす。

3組のペアを演出するにあたっては、本読みの段階からペアごとに時間を区切って稽古を進めている。

「それはコロナ対策とは関係なく、もともとそうしようと考えていました。別のペアを意識することなく、俳優自身から何が出てくるのかを楽しみにしているので。他の人を見てしまうと必ず影響されてしまうし、自分がこうしたいと思っていても、他の人がやっているのを見たら、あえて避けようとしてしまうかもしれません。演出をつけながら、役者が出してきたものをどんどん拾っていくような形にしていけば、結果として同じシーンもまるで違うニュアンスがついてきたりします。実際、3組別々に稽古することで、ひとつの戯曲の捉え方がこんなにも豊かでいろんな捉え方があるのかと逆に学ばせてもらっています」

同じ戯曲、同じセリフなのに、俳優ごとに表現の仕方が全く異なったものになる。小林は「ラブストーリーであるということがそうさせているのではないか?」と指摘する。

「みなさん、自分自身の引き出しから役の血や骨、肉を作り上げていくんですけど、パーソナルな恋愛体験があって、そこから役に引っ張ってくるのですごく面白いですよ。稽古場で過去の恋愛話をディープに披露してくれる役者さんもいて……(笑)。今回、とくにジェイミー役の男優さんたちの話を聞いていて思うのは『男の人っていつも心の中で浮気しているんだな』ということ(笑)。稽古場でも『女はこうよ』『いや、男は……』みたいな空気に包まれて面白いです」

『The Last 5 Years』木村達成×村川絵梨ペア(稽古映像)

『The Last 5 Years』水田航生×昆夏美ペア(稽古映像)

『The Last 5 Years』平間壮一×花乃まりあペア(稽古映像)

3組の特徴は“ミュージカル編” “音楽劇バージョン” “芝居バージョン”

改めて3組それぞれの特徴、魅力について小林はこう語る。

「平間さん×花乃さんペアは、私の中では“ミュージカル編”と思っていて、動きの面でも躍動的な演出をつけています。お互いに非常に優しい思いを持っているカップルですね。水田くん×昆さんペアは“音楽劇バージョン”と思っていて、ダンスよりも歌と芝居に寄っていて、自分の夢へのパッションが非常に強いペアになってると思います。木村さん×村川さんペアは、“芝居バージョン”と位置付けていて、ふたりは互いに繊細な恋愛の愛情を持っていて、直接的にバンバン対立し、やり合うのではなく互いを思いやる気持ちを持ったケンカができるペアだと思います」

『The Last 5 Years』メインビジュアル

すれ違うふたり、観客だけがわかる“クロスする瞬間”

本作の構造的な部分での大きな特徴が、ふたりの時系列の違い。ジェイミーが出会いから結婚、別れまでの5年間を時系列順に生きるのに対し、キャシーは結婚生活の終わりから出会いまでの5年をさかのぼるという物語の構造になっており、ふたりの“すれ違い”が壇上で展開する。

「時系列は入れ違いになっているんですが、それがクロスする瞬間を多々作っています。ただ、それはお客さんの目から見てのクロスであって、舞台上のふたりは一度も目線を合わせないし、相手の姿を視野に入れることすらなく、すれ違い続けていく。中盤のウエディングシーンで初めてふたりが目を合わせ『あなたを永遠に愛します』と言うんですけど、舞台上で初めて俳優たちが目を合わせるので、彼ら自身のなかにも“喜び”が生まれるはず。それをうまく使いつつ、ふたりの愛情の強さを表現できたらと思います」

2021年の上演に際し、物語の舞台も2021年になっており、初演(2001年)から20年を経ての価値観の変化も取り入れている。

「20年前に作られた作品ということで、例えばキャシーの描かれ方が“捨てられた女”に見えなくもなくて、そこが今回上演するにあたり気になったところでした。新たに日本語の訳詞を書いていただき、捨てられた女ではなく“痛みを抱えながら次に進む女”として最初のナンバーを歌い始めるようにしています。傷ついて血を流しつつも痛みから逃げずにどうにかして前に進む女性――うまくいかなくて、もがき苦しんでるけど前に進んでいくんだろうとわかるようにしたいし、そこにも共感が生まれるといいなと思っています」

取材・文:黒豆直樹



ミュージカル『The Last 5 Years』
作詞作曲・脚本:ジェイソンロバートブラウン
演出:小林香
訳詞:高橋亜子
振付:桜木涼介
出演:木村達成×村川絵梨、水田航生×昆夏美、平間壮一×花乃まりあ

【東京公演】
2021年6月28日(月)〜7月18日(日)
会場:オルタナティブシアター

【大阪公演】
2021年7月22日(木)~2021年7月25日(日)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2170752

小林香