陸海空3自衛隊の航空機整備員が集まると、海空の自衛官に「陸上自衛隊は埃が舞うような山の中で航空機整備するなんて信じられない」と驚かれることがあります。どんな環境でも航空機の整備ができる陸上自衛隊航空科の支援能力とは。

場所を選ばずドコでも整備 それが陸上自衛隊

航空機を安全に飛ばすためには、定期的かつ適切な整備が欠かせません。その整備を行う場所は一般的には駐機場(エプロン)や格納庫などが思い浮かぶでしょう。しかし自衛隊、特に陸上自衛隊は基本的に野外展開も視野に入れた運用を行っているため、海上自衛隊航空自衛隊の整備員たちからすると「信じられない」と驚かれることがあるといいます。それは一体どのような意味なのか見てみます。

そもそも、自衛隊では飛行機を運用する現場部隊を、航空隊もしくは飛行隊と呼びます。海上自衛隊航空自衛隊では、航空隊/飛行隊で日常的な点検こそするものの、それら“現場”ではエンジンを取り外したり、機体の板金修理などを行ったりすることはありません。

なぜなら海上自衛隊航空自衛隊には、高度な整備を担当する専門の部隊が基地ごとに設けられており、エンジンを取り外すような大掛かりな整備は、専門の治具や機材が揃っている、いわゆる重整備専門部隊でしか行わないからです。

こういった専門部隊は、海上自衛隊では「整備補給隊」、航空自衛隊では「整備補給群」と呼ばれています。彼らはエンジンならエンジンのみ、武装なら武装のみと分野ごとに特化しており、分業で仕事をしています。

海空の両自衛隊で共通していることは、航空機が整備を担当する部署に運ばれ、専用エリアや専用の格納庫で整備を受けるシステムになっていることで、これを船にたとえて「ドック整備」といいます。対して陸上自衛隊の航空隊は、そこまで細分化されていません。

基地を拠点に戦うか それとも駐屯地から離れて戦うか

有事の際、海上自衛隊航空自衛隊は基本的には「基地」を拠点に戦います。それに対し、陸上自衛隊は「駐屯地」から出て屋外に陣地や拠点を作り、そこを根城に戦うことを想定しています。つまり陸上自衛隊、陸上自衛官はどのような場所にも対応できる自己完結性が求められるといえるでしょう。

これは陸上自衛隊の航空科部隊も例外ではありません。たとえ山の中であっても航空機の整備が可能なことが要求されるため、そのように部隊編成と装備が整えられ、隊員個人の能力も養成されています。

ゆえに陸上自衛隊は、海空の両自衛隊のように滑走路を必要とする戦闘機や大型の輸送機をもたず、どのような場所にも着陸できるヘリコプターV-22オスプレイ」が運用のメインになっているのです。

なお、陸上自衛隊で航空機を整備する部隊は、日常的な点検を行う部隊と高度な整備を行う部隊に分かれていて、前者は飛行隊やヘリコプター隊、後者は野整備隊と呼ばれています。海空の両自衛隊では、後者が「整備補給隊/整備補給群」と呼ばれていたのに対して、陸上自衛隊では部隊名に「野」が付き、野整備隊となっています。これだけで野外、それこそ山の中でも航空機整備を行うというのがわかります。

野外では何でもできることが必須

陸上自衛隊ヘリコプターにも、航空自衛隊戦闘機と同じように、機体ごとの整備責任者といえる「機付長」が付きます。

しかし、陸上自衛隊の機付長は、整備だけでなく、航空機に燃料を補給し、戦闘もこなし、料理も作って、さらには人員輸送にも従事するなど、一人でいくつもの役割を担っているのが特徴といえるでしょう。

いうなれば、海空の両自衛隊とも、それぞれ専門に長けた「スペシャリスト」を養成するのに対し、陸は「マルチプレイヤー」を育成するとでも言えるのかもしれません。ときには器用貧乏のように思えることもありますが、それらの部隊や装備、人員を野外でも整備できるように常日頃整えたことは、過去の災害派遣でも役立っているようです。

一例を挙げると、2004(平成16)年のスマトラ地震の際に派遣された国際緊急援助隊は、航空機の整備能力がないおおすみ型輸送艦「くにさき」の艦上において、CH-47J大型輸送ヘリコプターの整備と運用を行うことができました。

支援環境のない野外整備は訓練や教育なしにできることではありません。長い年月をかけて訓練を行うことで初めてできることであり、「いざ」という時に備えているといえるのではないでしょうか。

訓練で戦車運搬用の73式特大型セミトレーラに載せられて演習場内を移動するUH-1J多用途ヘリコプター(画像:陸上自衛隊)。