最近の韓国政府は日韓関係の改善に向けて歩み寄りを見せている。文在寅大統領は菅政権発足以降、融和的な態度に転換した。今年に入って慰安婦訴訟や元徴用工訴訟で韓国の裁判所が原告の訴えを相次いで退けたこともあり、風向きが変わった印象だ。

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 もっとも、イギリスで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)後の韓国メディアの反応を見ると、行きすぎだと言わざるを得ない瞬間があった。日韓首脳会議が行われなかった理由を日本のせいにしたのだ。

 韓国メディアは、韓国に対する日本の上から目線や日本人の反韓感情を指摘。G7サミットでの菅首相の態度に「誠意がない」と批判するメディアや、「日本が感情に流される国だ」と指摘するメディアもあった。関係回復のため歩み寄ろうとした文大統領に、菅首相は配慮するべきだという内容だ。

 6月11~13日に開催されたG7サミットで、韓国側は文大統領と菅首相との簡易会談に期待していた。今回のG7サミットは菅首相が就任後、日韓のトップが初めて顔を置合わせる機会だった。国際会議の舞台に招待された国家として成果を持ち帰る目的もあっただろう。

 だが、韓国が切望する会談には及ばず、菅首相と文大統領は2回ほど挨拶しただけで終わった。文大統領は自身のフェイスブックで、「日韓関係の新しい始まりになる貴重な時間でしたが、会談に至らず残念に思います」とコメントしている。

 これが大まかな流れだが、韓国メディアは日韓首脳会談ができなかった理由を以下のように大きく取り上げた。

「G7を契機に会談することが決まっていたが、日本が一方的にキャンセルした。理由は韓国軍が独島周辺で行う独島防衛訓練にある」と。

 韓国側は悪化する日韓関係に対して和解への道を探っているにも関わらず、日本は拒絶した。日本は約束を守らない国、感情に流される国だ──と主張したわけだ。この記事をお読みいただいている方は、「えっ、日本?」とのけぞるのではないだろうか。

「首脳会談なし」は日本の意地悪?

 韓国メディアの極端な報道に対して、加藤官房長官は韓国政府に抗議した。会談が行われなかった理由について「そのような事実はない」と否定し、「一方的な配信は極めて遺憾」であると述べた。会談が実現しなかった理由は「多忙なスケジュールの都合」との説明だ。

 茂木敏充外務大臣も6月15日の記者会見で、今回の韓国での報道について「明らかに間違いだ」と断言している。

 今回、韓国の報道各社がこぞってこのような情報を流したのはなぜか。聯合ニュースは、一連の報道の情報元を「外交部当局者」としている。

 確かに、日本は日韓首脳会談の開催に消極的な態度を示している。日本側は元徴用工問題と慰安婦問題について、韓国側で問題解決の兆しが見えない限り、対話に臨むことはないという立場だ。

 それと今回の「首脳会談キャンセル」は全く別の問題である。実際、韓国大統領府はG7開催前の記者団向けブリーフィングでも、日韓首脳会談の調整はしていないと語った。つまり、首脳会談の開催は「期待」されていたが、「予定」されていたわけではないのだ。

 ところが、ラジオ放送に出演した韓国国立外交院の金峻亨(キム・ジュンヒョン)院長は、キャンセル騒ぎについて、「韓国が国際社会で目立つことに対する日本の意地悪行為だ」とコメントしている。

 国際外交をよく知る韓国の高官がこのような発言をすればどうなるか。韓国国内での真実は、歩み寄る韓国に対し「日本が一方的に会談をキャンセルした」となる。

嘘も百回言えば真実となる」現象と同じで、韓国では報道が一方的な視点を拡散させ、世間の一般認識にすることがよくある。

今の日韓関係をもたらしたのはどこの誰か?

 それでは、文政権が日本に歩み寄りの姿勢を見せ始めた理由は何だろうか。

 米バイデン政権の発足以降、韓国は米中との関係維持に苦心している。米国は日韓関係の改善を望んでおり、韓国としても日本に歩み寄る姿勢をアピールする必要があった。今回のG7で、文大統領は菅首相との接触に期待が集まったのはそのためだ。

 ところが、韓国は元徴用工問題や慰安婦問題日韓軍事情報包括保護協定GSOMIA)破棄、反日不買など、日本に対して補償と謝罪を繰り返し要求してきた。近いところでは、安倍前総理を「敵」としてかかげ、反日不買運動が起きた経緯は記憶に新しい。

 当時、ソウルの光化門広場では、反文在寅大統領デモの横で「ノー・ジャパン」デモが行われたが、メディアは後者を大きく報じていた。

 韓国が歴史問題を外交に利用してきた経緯を日本が忘れるはずはない。言い換えれば、今の日韓関係をもたらしたのは文政権である。文大統領は強硬姿勢で日本との関係を悪化させた過去を振り返らないようだ。

 今回の「会談キャンセル」を元に日本を批判した韓国メディアは、韓国内でも文政権を擁護する報道が多いことで知られている。記事では、日本を「約束を守らない国」とし、G7での出来事を踏まえて「日本は感情に流される国になりたいのか」と記した。

 このような記事を読んだ韓国国民はどう思うだろうか。もちろん、日本に対して失望したという意見もあったが、以下のようなコメントもあった。

「文政権のせいで感情を表に出さない日本人も嫌韓が習慣になってしまった」
「今回の事態を招いたのは文大統領本人である」
「今、日本を感情に流される国というあなたの主張は間違っている。感情に偏っているのは韓国である」

韓国パフォーマンス外交の末路

 韓国は反日、親北、親中など態度を巧みに変えながらパフォーマンス外交を行ってきた。メディアはそんな状況を有利な視点で逐一報道して世論に訴える。

 今になって韓国が関係回復に努めても、思い通りにならないために「感情的な日本」とたたくのは駄々をこねる小学生のようだ。このような報道が変わらない限り、反日・嫌韓人口は減らないだろう。

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韓国側が期待した日韓首脳会談は当然のように開催されなかった(写真:YONHAP NEWS/アフロ)