「僕みたいな商売必要でしょう」ケージに糞尿が堆積、緑内障で眼球が突出…売れ残った犬猫を回収する“引き取り屋”の言い分 から続く

 SNSや動画サイトで毎日のように目にする子犬や子猫。愛くるしい動物達の姿に癒やされる方も多いだろう。しかし、その一方で“可愛くなくなったもの”を襲う悲劇も存在する。実際、いまだにおよそ4万匹もの犬猫が全国で殺処分されているのだ。

 現在は犬に続き、空前の猫ブームが起こっている。そんなペット産業が抱えている闇とは……。朝日新聞記者の太田匡彦氏は各所への取材を行い、『奴隷になった犬、そして猫』(朝日新聞出版)を執筆した。ここでは同書の一部を抜粋し、業者が行う繁殖の重大な問題を指摘する。(全2回の2回目/前編を読む)

※本稿にはショッキングな写真がございます。ご注意下さい。また、登場する人物の所属先や肩書、年齢、団体・組織名称、調査結果のデータなどはいずれも原則として取材当時のものです

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2人で400匹、すし詰めに

 福井県は、犬猫約400匹に対して従業員が2人しかいなかった県内の繁殖業者を問題視し、2017年11月以降、繰り返し立ち入り調査を行ってきた。世話が行き届かず、ネグレクトなどの虐待につながることを懸念したほか、清掃する場所を減らす目的で犬猫を狭いスペースに入れっぱなしにしていたことも重く見たという。

 この繁殖業者の施設に県職員とともに立ち入った地元ボランティアらによると、飼育されていたのはチワワフレンチブルドッグ、ミニチュアピンシャー、柴犬など小型犬が中心。これら繁殖用の犬猫たちは狭いスペースに、すし詰め状態で入れられていたという。

 17年12月時点では、約400匹の犬猫を管理するのに従業員は2人しかおらず、エサは1日1回しか与えられていなかった模様。病気やケガをしている犬に対して適切な処置が行われていた様子もなく、施設内は「強烈なアンモニア臭で、マスクをしていても鼻をつく状態だった」(地元ボランティア)。狂犬病の予防注射も受けさせていなかったという。

 福井県は、犬猫の数を減らすか従業員を増やすかするよう指導を重ねてきたというが、「動愛法にはあいまいな表現しかない。従業員1人あたりの適正な飼育数に関する基準がなく、数字を示しての指導ができない。一つのケージに2、3匹の犬が入っている状況が動愛法違反にあたるのかどうかの判断も県にはできない」(県医薬食品・衛生課)として、実質的には放置に近い状態だった。

 この業者については公益社団法人「日本動物福祉協会」が、動物愛護法違反(虐待)などの疑いで18年3月1日に刑事告発している。福井区検は同年7月、この業者の代表者(当時)だった40代の男を狂犬病予防法違反で略式起訴したが、福井地検は虐待容疑については不起訴とした。

 その後、日本動物福祉協会は福井検察審査会に審査を申し立て、同審査会は19年4月10日付で代表者(当時)の男について「不起訴不当」と議決している。

検察官の捜査は不十分

 同審査会は、17年12月1日から6日ごろまでの間、この業者では犬猫385匹を狭いケージに入れるなどしていたと認定。議決では、▽狭いケージに入れる▽コンクリートブロックのマス内に50匹以上の犬を過密に入れる▽エサやりの際に片手でケージ内の犬の首根っこをつかんで引っ張り出した上で別のケージやマス内に入れる――という行為について、動物愛護法が規定する虐待にあたることが「十分に考えられる」と判断した。

 また検察官が、福井県の行政獣医師の供述に依拠して「虐待に該当しない」と判断したことについて、「第三者の獣医師の意見を得たり、現場を視認した者から事情を聴いたりする等の捜査を行っておらず、検察官の捜査は不十分と言わざるをえない」とも指摘した。同審査会が指摘した「行政獣医師」について、福井県は、問題が発覚した当初、取材に対して、17年11月29日にこの獣医師が1人で4時間弱かけて約400匹の犬猫を見たが、「すべて健康な状態で、問題のある犬や猫は見受けられなかった」としていた。

 なお、働いていた飼育員の女性2人については、「刑事処分の対象とする必要まではない」と判断し、「不起訴相当」とした。

 福井地検は19年10月25日、代表者(当時)の男を、動物愛護法違反(虐待)についてはやはり嫌疑不十分だとして再び不起訴とした。

あいまいさが招く悲劇

 ほかにも茨城県内では2018年2月下旬、グレートデーンなどの大型犬を取り扱う繁殖業者からボランティアらが一部のやせ細った犬を保護した。

 業者を所管する茨城県動物指導センターは「犬猫の飼育管理に関して明確な基準がない。業者を信じて、粘り強く指導をしていくしか方法がない。現状では、自治体にできることには限界がある。動愛法に数値規制を入れてくれれば、きめ細かい指導ができるのだが」とする。やはり、動物愛護法が機能していない。

 静岡県でも問題が起きた。静岡県焼津市内の県道沿いに建つ戸建て住宅。18年7月中旬に訪ねると、その敷地内に甲斐犬の成犬が24匹、多くがケージに入れられたまま取り残されていた。

 所有者は、70半ばの一人暮らしの男性。これらの甲斐犬を使い、長く繁殖業を営んでいた。地元紙などに広告を出し、1匹16万円ほどで甲斐犬の子犬を販売していたという。男性のほかに従業員はいない。

 ところが18年6月下旬、男性は転倒して、そのまま入院してしまった。親族によると、意思疎通が図れない状態が続いた。主治医は「失語は避けられず、麻痺も残る。今後も意思疎通は無理かも知れない」とみているという。

NPOのメンバーが見た凄惨な現場

 こうした事態を受けて、親族から相談された同市内のNPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」が動いた。

 7月上旬に同NPO法人メンバーらが現場に足を踏み入れた。すると、大きめのケージには2匹ずつ、身動きもままならない小さなケージには1匹ずつ、犬たちが入れっぱなしになっていた。足元には糞尿。生まれたばかりの子犬5匹のうち2匹がすでに死んでおり、続けてもう1匹がすぐに死んだ。動物病院に運び込まれた残りの2匹にもたくさんのノミやダニが付着していて、貧血状態だった。

 同NPO法人は親族とともに成犬たちの世話にあたっているが、警戒心が強く、ケージ内の掃除や散歩はままならない。首輪を付けたことがない犬がほとんどのため、当初はケージの外からエサや飲み水を与え、ホースで水をまいて糞尿を洗い流すのが精いっぱいという状態だった。7月下旬になり、多くの犬になんとか首輪を付けられ、一部はケージ外に係留できるようになったという。

 同NPO法人の谷澤勉理事長は「犬たちにとって、かなり厳しい状態が続いている。犬の所有権を親族の方に移したうえで譲渡に努めていきたいが、24頭もの甲斐犬に新しい飼い主を見つけてあげることは、かなりハードルが高い。こうなる前に、行政は適切な監視・指導ができなかったのだろうか」と話した。

行政による立ち入り検査の判断は「問題なかった」

 甲斐犬は、もともと猟犬種として使われていた中型犬。主人には従順だが、それ以外の人には強い警戒心を示すとされる。運動量も豊富なことから、本来は長時間の散歩も必要な犬種だ。

 この繁殖業者の男性は、倒れるまでは適切に飼育管理をしていたと、静岡県衛生課動物愛護班では見ている。「年に1回は定期的な立ち入り検査をしており、第1種動物取扱業の登録更新も行われている。現場の判断としては問題なかった」(県動物愛護班)とする。

 だが、70代の高齢者が1人で、20匹を超える、豊富な運動が必要な中型犬の世話を適切に行うことは、一般的にはかなりの困難をともなう。ケージも、甲斐犬の体長・体高では身動きを取るのが難しいサイズのものが一部使われていた。

 また、13年に施行された改正動物愛護法で犬猫等販売業者に義務づけられた「終生飼養の確保」の観点からも、疑問が残る。男性は、策定と順守が義務づけられている「犬猫等健康安全計画」に「自分で終生飼養する」という趣旨の文言を記入していたというが、若い犬では1歳の犬もいることから、日本人男性の平均寿命や健康寿命から考えて終生飼養ができなくなるリスクをどう考えていたのか……。

動けなかった行政

 静岡県でもこれらの問題は把握していた。だが、動物愛護法のあいまいさが、指導のネックになっていたという。静岡県動物愛護班は、犬猫等販売業者に対する指導の難しさを打ち明ける。

「ブリーダー(繁殖業者)に限らず、高齢者による犬猫の飼育について、飼育放棄につながりやすいなどの問題があることは理解している。しかし動物愛護法では、犬猫等販売業者に対して、飼育頭数についての具体的な数値規制を設けていない。そのため今回のような状況でも、『飼育頭数を減らせ』という指導はできず、本人の意思に任せざるをえなかった。ケージの大きさについても、狭ければ当然問題なのだが、やはり具体的な数値規制が動物愛護法にない。これも、感覚だけで判断するしかないのが現実なのです」

 後述するように、環境省による「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」が2018年3月に立ち上がり、1回目の会合を開いて各種数値規制の検討を始めていた。だが、この時点では2回目の会合開催の見通しも立っておらず、議論は思うように進んでいなかった。

「犬猫にとっても業者にとっても、適切な飼育環境を実現できるよう指導していくことが、行政の仕事。それなのに、現行の動物愛護法ではそれが難しい。環境省にはできるだけ速やかに、ケージの大きさや従業員1人あたりの上限飼育数などについて、具体的な数値規制を定めてもらいたい」(静岡県動物愛護班)

 劣悪な環境に取り残されている甲斐犬たちについては、新たな飼い主を探す作業を地道に続けていくしか、道がない。しわ寄せは、犬たちと動物愛護団体へと向かう。NPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」の谷澤理事長は、「厳しい環境で長年生きてきた子たちに、平穏な余生を送らせてあげたい」と話した。

【前編を読む】「僕みたいな商売必要でしょう」ケージに糞尿が堆積、緑内障で眼球が突出…売れ残った犬猫を回収する“引き取り屋”の言い分

(太田 匡彦)

写真=筆者撮影